迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

38.鳴り止まぬ声と

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  そうそのはずなのに。
そう必死で自分に言い聞かせているというのに…。




―――君の力はとても素晴らしい!!―――




 なぜだか頭に声が鳴り響いて止まってくれない。
まるでボクが初めて人を助ける為に能力を使ったあの日の様に、
ボクに動けと奮い起たせようとするかの様な、ボクにフウマがくれた数々の言葉達が頭中を駆け巡り続けている。
それにボクの胸の鼓動もバクバクと高鳴っている…。


――その素晴らしい力は偉大な王たるオレの側にふさわしい!!――

――流石はオレが家来にと見込んだ素晴らしい資質の持ち主だ!!――

 っ……! 
うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!
聞きたくない、聞きたくない……!!


――民の為に力を尽くしたというその事実がまず何より素晴らしいことなんだ!!――

――自らの意志で来たという事は助けを求める民の為にこの身を割いて良いと自分の意志で決断できたという事、とても立派だ!!――


 そんな事ない!
ボクはそんな人間じゃないんだ。
フウマが評価してくれる様な素晴らしい人なんかじゃない。
そんな人間になんてなれないんだよ!



――君のその素晴らしい心の有り様をずっと見てきた!――

――今の君と同じ昔の君は素晴らしい心の持ち主だったんだ!!――


 ボクの心は素晴らしくなんかないよ…!
いつも自分の事を嫌っている風に装う癖に、その実自分の事だけしか考えてない、そんな醜い心。
フウマ達とは違う…!

だからしょうがない、仕方ないのに…。





―――君が悩み立ち止まってしまうのは何もおかしい事じゃない!当たり前の普通の事だ―――



 あっ……。
今のはボクが一歩を踏み出せずにいた時にフウマが言った言葉。
踏み出す事が怖くて悩んで立ち止まってたボクすら受け入れてくれた言葉の一つ。

そうだ、だからボクは。


――元より何事も誰もが最初から全てが上手くいくなんて思っていない、だから最初の一歩が肝心だと言っただろう!――

――君は悩みながらそれでもオレと共に民を救う道を選んでくれただろう?
苦悩を抱えているのにそれでも精一杯人の為に頑張ろうとしてくれている――

 そうだ…。
本当はとっくに知っていた。
フウマに…みんなに教えて貰っていた。
逃げだしたくなる様な苦悩や怖さとも、向き合っていかなきゃいけないって事を。
そしてそれに立ち向かって行く為の力をボクはみんなからとっくに貰っていたんだ…。


――強い力を持つ者はそれを困っている弱い者を助ける為に使えばいい!!――

 分かってる、分かってる、分かってる、分かっていた……。

 そうだねフウマ。
ボクは君達から沢山貰っていたのにそれでも自分自身と向き合う事が出来なくて、また逃げてしまう様などうしようもない奴で。
今更もう遅いのかも知れないけど、でもそれでもいい加減自分がダメな奴だって事を言い訳にしていないで、
しっかり目の前の事と、そして自分自身と、ちゃんと向き合わなきゃいけないんだよね…。









 ボクは決意を込める様に身体に力を込めた。
そうした理由は決まっている。

――ボクの能力で目の前の困っている人を助ける為だ――


 本当は怖くて怖くてたまらないけれど、それでも歯を喰いしばってしっかり前を見た。
もう逃げちゃいけないから。
もう逃げたくないから…!

 ボクは許される事のない罪を犯した罪人で、そんな事があった癖にまた友達を傷付けた最低な人間だ。
その事実は変わる事はない。
でもだからこそ、その事をボクが”今”から目を背ける為の逃げ道に使っていてはいけない。
その事に少しでも報いようと思う気持ちがあるなら、その事実を受け止めた上で目の前の現実に立ち向かわなきゃいけなかったんだ。



 ボクの力でどうにかできるか何て分からない。
もしかしたらまた取り返しのつかない失敗をしてしまうかも知れない。
能力を使う事で委員長達に嫌われてしまうかも知れない 。
また一人ぼっちになってしまうかも知れない。
それがたまらなく怖い。

 でも…それでも…。
全部失ってしまうとしても…。

 それでも…ボクは人を助けたい…!!

 ボクは目の前で傷付いて倒れそうになってる人を見て見ぬ振りをするような人でいたくない…!
ボクを大切に思ってくれている人がいるのに何もしないで見ているなんて、そんな事したくない…!
"今"助けられるかも知れない可能性が少しでもあるなら、過去に縛られたり未来に怯えたりして俯いていてはいけないんだ…!

 ボクは人を助けたい!
助けられるような人間でありたいんだ!


 それに…きっとそうしたいのはそれだけじゃない。
それは多分ボクの憧れで夢でもあるんだ。
忘れてしまっていたとはいえあんな過去があったのに、能力で人助けをするフウマ達の姿にどうしようもない程惹かれてしまったのだってそうだ。
そうボクはテレビの画面越しに見たような、そしてフウマ達のような。
"誰か"の為に必死で頑張るそんな格好いいヒーローの姿にずっと憧れていた。
そんなヒーローにボクは今でもずっと、なってみたいって思って、思い続けていた。
そんな資格がないと逃げてしまっていたけど、結局その想いを消す事なんてできないんだ。



 勿論恐怖が完全に消えたわけじゃない。
今でも凄く怖い。
怖くて震えが止まらない。
それでも怖さと闘いながら歩みは止めない。

…怖くても。
…辛くても。
…悲しくても。 
…孤独でも。
…一人になってしまうとしても。
…それでも。
その恐怖に立ち向かっていく為の勇気をボクは皆に沢山貰っていたんだから。
一緒にはいられなくても、それは消えたりしないから。
だから。


 
――ボクは人を守りたい!!助けたいんだ!!――

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