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子羊少年と王様少年
37.本当に大事な事
しおりを挟む委員長が鍛えるというのは口先だけではなく、本当に格闘技でもやっている様な動きで不良集団に渡り合っていく。
それでもやっぱり人数の利に押し勝てる程ではなかった。
ボク達を拘束している二人を除いても相手は8人もいるんだ。
いくら多少闘いの心得があるとはいえ、8vs1という圧倒的な数の暴力へはやはり為す術もない。
委員長はどんどん追い詰められて不良達の攻撃がどんどんきまっていき、委員長の身体の色んな所から血も流れていって…。
ボクが何とかしようと動こうとしても、拘束が固くて全く身動きが取れない。
隣で同じ状況の副委員長がそんな委員長へ視線を向けながら、もうやめてと懇願するように小さく呟く声は涙混じりになっていた。
ボク達はそんな委員長のピンチをここでただ見ていることしかできない…。
「お、お前らこんな集団で寄ってかかって1人をいたぶるなんてそんな事して恥ずかしくないのか!?
そんなやり方で喧嘩に勝ったところで本当に嬉しいのか!?」
「はっ馬鹿じゃねぇのてめぇ。
嬉しいに決まってんだろ。
俺達は自分が弱いことをちゃんと自覚してんだ。
それこそ能力者みてぇなそれだけで人をどうにかできる様な強い力なんて持ってない、そんな俺達が世の中を渡り歩いてく為には似た者同士でつるんで自分より弱い奴を狙うしかなかったんでな!
分かったかい正義の味方く~ん。
それにこんな俺達だって能力者みてぇな存在してるだけで迷惑な奴らよりはマシだろ?」
「くっ。この卑怯者達が!!」
違う!!
聞こえてくる委員長と不良のヘッドとの会話にボクははっきりそう思った。
ボクはともかく、こんな風に人を痛め付ける人達より、人を助ける為に頑張っているフウマ達が能力者だからってだけで下の存在だなんてそんな事があるわけがない!!
そう強く思ったんだ。
いつかフウマが言っていた、強い力を持つからこそそれを弱い者の為に使うべきだという言葉が頭に思い浮かんだ。
力を持つ者の中にもそれを弱者の為に使う人がいるその一方で、実際は逆に力を持たない者の中にだって弱者を傷つける人間もいる。
だから本当に大事なのは力があるかどうかじゃなくて、
その人がどうあるか、どうありたいと思っているかという心が一番重要で大事な事なのだと、今になってやっとはっきりと分かったような気がした…。
不良達の猛攻は止むことがなく、ついには委員長は突き飛ばされて地面に倒れ込んでしまった。
「委員長ーーーーーーー!!!!」
「ご、ごめん都築くん。
俺のせいで…俺がなんとかするって言った癖にこんな事になって…マジで情けない。
本当にごめん…。」
「そんな事ない…。
委員長は悪くない…全部ボクのせいで…。」
元々はボクが自分のダメさ加減に嫌気がさして、ちゃんと前を見て歩かずぶつかってしまったせいだ。
委員長はそれを庇ってくれようとしたんだし、委員長は全く悪くない。
あぁ本当ボクは一体人にどれだけ迷惑を駆け続ければ気が済むのだろう…。
こんな絶対絶命の状況なのにボクは固く拘束されてそこから動く事ができない…。
委員長を助ける為に何もしてあげられない。
ボクは為す術もなく、ただこの状況を黙って見ていることしかできないんだ…。
……うん…本当はわかってる…。
自分から目を反らしているだけで、この状況を覆せるかも知れない、ボクにできる方法がたった一つだけある。
本当はその事をボクはちゃんと知っているんだ…。
――ボクが…自分の…能力を使えば――
でも、でもそれは無理なんだ…!
だってしょうがないじゃないか!!
だってボクのサイコキネシスの力でこんな大勢の不良をどうにかできる保証なんてどこにもないし、それにボクは能力を暴走させたばかりだ。
また同じことが起きてしまって、委員長達を助ける所かそれに巻き込んでボクが傷つけてしまうかも知れない。
最悪あの時の…はーくんの時みたいになってしまったら…。
そ、それに!
ボクの能力で委員長達を助ける事ができるとしても、それは二人の前で能力を使うってことで。
身近な人の凄惨な過去を持つ委員長達にボクが能力者だってバレたら、今まで普通の人間だと偽って騙していたんだってバレたらきっと、二人にもボクは嫌われてしまう…。
そして二人に知られたら二人からクラスや学校にもその事は広まっていくだろう。
そしたら居場所がなくなってボクは、また一人に…。
もうボクはフウマ達の所には戻れないから、正真正銘またあの頃みたいに……一人ぼっちになってしまう…!
嫌だ…。
それは嫌だ…!
またそんなの絶対耐えられない…。
それが凄く怖い…。
だからしょうがないんだ。
どうにか出来るかも知れない手段を持っているのに、ただ状況を見ている事しかできなくてもそれは仕方がない事なんだ。
ボクは友人を傷付ける様な悪人で誰か助ける資格なんてないんだし…。
それにボクは自分しか大事に出来ない人間なんだから。
仕方ないこと…。
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