迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

文字の大きさ
上 下
37 / 64
子羊少年と王様少年

36.傷つけるヒト

しおりを挟む

 もう日も暮れて辺りも暗くなった人気のない路地裏を進んでいると、
ボクがネガティブな思考で一杯一杯になって、下を向いて歩き注意が散漫になっていたせいか、反対側から歩いて来た人に肩がぶつかってしまった。
さっきからボクは人に迷惑かけてばかりで更に気が滅入ってしまったけど、これはいけない。

「ご、ごめんなさい!
ちゃんと前見て歩いてなくて、肩をぶつけてしまって本当にすみません!」

 ボクは直ぐ咄嗟に謝った。
だけど謝罪と同時に前へ下ろしていた頭を上げて、ぶつかってしまった人の姿を正面から見るとボクの心は恐怖に支配された…。
だってその人がボクよりも何倍もガタイが良くて、そして明らかに柄が悪く厳つそうな見た目をしていて、何というかあからさまに不良(ヤンキー)って感じの雰囲気を纏った人で、そんな人がボクを凄く不機嫌そうに滅茶苦茶怖い顔で睨み付けてきていたから。

 え!?ふ、不良!?本物の不良!?
 ボクこれ大丈夫!?
 ぶつかっちゃって大丈夫なヤツ!?

 勿論大丈夫な訳がなかった。

「痛っ。これ完全に骨にひびが入ったわ。
君さぁ人に怪我させといて謝るだけで許されると思ってんのかよ。」
「え…いや…あ…ボク…その…」
「治療費全額出せとまでいう程こっちも鬼じゃないからさ、とりあえず今持ってる有り金全部出しな 。
あ、もちろん電車とかのカード類もな。
そしたら許してやってもいい。」

 こ、これは…。
カツアゲだーーー!!

 ボクは今まであまり外に出歩かない人生だったから、こういうのってフィクションの中だけのものの様に感じていたけど本当にあることなんだ。
いやぶつかったボクにも勿論非があるとはいえ、本当に肩が軽く触れた程度だったし怪我したなんてあからさまに嘘だと分かるのだけれど、生で見る不良が怖すぎて全くそんな反論できる余裕がない。
因縁を付けられてしまっているのはボクの不注意のせいだから結局ボクの自業自得でもあるし…。

「ちょっと待ってください。」
「え、あ…委員長…!」

 ボクが恐怖で動けないでいると、側にいた委員長が割って入って来てくれた。

「あんだてめぇ。
今こっちの僕ちゃんと話してんだから邪魔すんな。」
「彼は、都築くんはもうちゃんと謝っているじゃないですか!
だからもうそれでいいはずでしょう!」
「は?何で被害者側のこっちが納得しろって指図させられなきゃなんねーんだよ。
こっちは怪我させられてんの。
それで口だけじゃなく金で誠意見せろっつってるだけだろうがっ。」
「怪我してるなんてそんな見え透いた嘘ついて恥ずかしくないんですか?
都築くんがそんな事しなきゃいけない謂れなんて何処にもない!」
「あ、あの…委員長……」
「大丈夫だ都築くん。
俺がなんとかするから、大丈夫…。」

 委員長の正義感が爆発している。
でもこれは大丈夫なのかな…?
フウマに絡まれていたのを助けて貰った時とは分けが違う気がする。
ガチモノの不良相手に委員長は本当に大丈夫なの…?

「人の罪悪感に付けこんでお金をむしり取ろうなんて、そんなの最低だ。
俺はそういうの絶対に許せない!」
「はっお前正義の味方気取りかなんかか?
ダセェし今時流行らないっつーの。
大体この時間この辺り一帯は俺達の縄張りなんだよ。
そこにズカズカ入って来てる時点でてめぇらが悪いに決まってんだろうが!」
「ここは公共の場所だ、誰の物でもない!
人に迷惑をかけるような奴ってそんな事も知らないんだな。」
「ちょ、ちょっと。あんたその辺で…」
「あいつは俺が相手をする。
悪いけどお前は都築くんを連れて先に駅まで行っててくれ。」

 委員長はあんな見るからにヤバさそうな不良相手に臆せず渡り合って話していて、それはとても凄いと思う 。
思うのだけど。
こんな不良相手に挑発なんてして大丈夫なのかという心配はどんどん大きくなる。
もしぼ…暴力沙汰にでもなったら、委員長は何とかするって言っているけど本当何とかなんてできるの…?
多分ボクと同じ様な気持ちを抱いたのだろう副委員長の静止を求める声も、委員長には遮られてしまった。

「はーーっ…完全に頭に来た!
予定変更、もう金はいい。
その代わり、イライラが収まんねぇからお前らちょっとボコらせろや。
そっちが身体中傷だらけになる位ボコボコになるか、それかそっちがもし抵抗して勝てたら許してやってもいい。
勝つなんて万が一でもありえねぇがな!」
「望む所だ!
俺はお前みたいな奴を見過ごす事はできないし、それにこういう時の為に日々身体は鍛えているんだ。
喧嘩には自信がある。」

「ちょ、ちょっと委員長!!」


 いよいよ本当に暴力沙汰になってきた。
委員長はここに来てもなお自信満々だけどこれは絶対にまずい!まずい!まずい!!
それになんだかそれだけじゃなくて、何か嫌な予感もする。

 その予感は的中した。

「はっ正義の味方君は威勢がいいねぇ。
だが果たしてその威勢が俺にいや、にいつまで持つのか見物だなぁ。」
「俺達…?」
「ふふっもう出てきていいぜお前ら!」

 そう不良の男が告げると路地裏の向こう側から、その男と同じ様な柄の悪そうな見た目の人達が集団で入ってきた。
合わせて10人程の人数になる。

 こ、これは…。

「な!?」
「言っただろうここら一帯は俺達の縄張りだと。
俺はそのヘッドやらせて貰ってんだよ。
こいつらは控えて貰ってた俺の舎弟達。」
「この!仲間を呼ぶなんて卑怯だぞ!」
「ふっ。喧嘩に卑怯もなにもあるかよ。
兎に角勝ちゃいいんだよ勝ちゃ。
それに俺は1人だなんて最初から一言も言ってねぇ。」

「クソ!
二人共これは俺に振られた喧嘩だ、俺の事は気にしなくていいから早く逃げてくれ!!」

 こんな大人数の不良集団、いくら委員長が鍛えているらしくたってまともにやり合えるわけがない。
いくら委員長本人がそう言ってるからってこの状況で1人置いて逃げるだなんて、でもボク達がいたところで足手まといにしかならない…?
そういった思考から僕が二の脚を踏んでいると、

「おっと逃げようたってそうはいかねぇ。
おいお前ら!」
「「了解。」」

 ボク達が動く間もなく不良集団の内二人がもの凄い勢いで迫って来て、そのままボクと副委員長は後ろから二人に固く拘束されてしまった。


「よしそのままそいつら拘束しとけよ。
その二人への処理はまずは後回しだ。
とりあえず今はこの正義の味方くんに身の程を弁えさせる為に、俺達でボコボコにしてやんなきゃ気がすまねぇからなぁ!」

 そう言って不良集団のヘッドは委員長に向けて不敵に笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

ヤンキーDKの献身

ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。 ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。 性描写があるものには、タイトルに★をつけています。 行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

どうしょういむ

田原摩耶
BL
苦手な性格正反対の難あり双子の幼馴染と一週間ひとつ屋根の下で過ごす羽目になる受けの話。 穏やか優男風過保護双子の兄+粗暴口悪サディスト遊び人双子の弟×内弁慶いじめられっ子体質の卑屈平凡受け←親友攻め 学生/執着攻め/三角関係/幼馴染/親友攻め/受けが可哀想な目に遭いがち 美甘遠(みかもとおい) 受け。幼い頃から双子たちに玩具にされてきたため、双子が嫌い。でも逆らえないので渋々言うこと聞いてる。内弁慶。 慈光宋都(じこうさんと) 双子の弟。いい加減で大雑把で自己中で乱暴者。美甘のことは可愛がってるつもりだが雑。 慈光燕斗(じこうえんと) 双子の兄。優しくて穏やかだが性格が捩れてる。美甘に甘いようで甘くない。 君完(きみさだ) 通称サダ。同じ中学校。高校にあがってから美甘と仲良くなった親友。美甘に同情してる。

処理中です...