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子羊少年と王様少年
31.優しさの理由
しおりを挟む「委員長達がボクに優しくしてくれるのはボクが転校生で、周りと上手く馴染めてなくてそれを学級委員としては放っておけないからなんだよね。
ごめんね、ボク頼りない奴で。」
でもやっぱり人に助けられてばかりいるのは申し訳なくなってしまうので、良い機会だと思ってボクは二人に謝って置いた。
すると、委員長の表情がなんだか少し険しいような感じへと変わった。
「都築くん。
コイツはどうか知らないけど、少なくとも俺は学級委員だから都築くんに優しくしてるってわけじゃないよ。
むしろ学級委員だって逆にそういう事をしやすい立場だからなったようなものなんだ。」
「え?…どういう事?」
何だか今の委員長の纏う雰囲気が普段ボクと接する時とも、さっきまでとも全然違う。
本当に人の印象って自分が目にしている所だけじゃ分からないものなんだなぁ。
「少し長い話になっちゃうけどいいか?
さっきも話に出ていたプレゼントを渡す知り合い、それも関わっている事なんだけど、その人は実は俺の従兄弟の事なんだ。
その従兄弟とは家が離れていたからそんなに頻繁に会えていたわけじゃなかったけど、それでも顔を合わせればもう仲良しで、小さい頃は会って遊べる日がいつも楽しみだったんだ。」
「私も遊ぶのに混ぜてもらったりしてたよね 。」
「お前が勝手に付いてきただけで俺は二人が良かったけどな。」
幼馴染の軽口も交えながら話は続く。
「でもそんな日々は唐突に一変した。
その従兄弟は事故に合って凄く重い怪我をした。
そして病院に入院するようになって、今でも1年の殆どは病院で過ごしてるから会う機会はもっと減っちゃってな。
さっき言ったプレゼントっていうのも実はお見舞い品の事なんだよ。」
今度また何度目かの手術があるから、少しでも勇気付けてあげられないかと思って送ることになったの、と副委員長が補足してくれた。
「従兄弟の事を俺は大好きだったし、それに前は凄く明るく元気でそれなのに俺よりもよっぽど頼りにもなって、憧れの存在でもあったんだ。
でも事故に合って以来すっかり意気消沈してしまって、お見舞いにいっても暗い顔でそれが俺は凄く嫌だったんだ。
だから何とか俺が元気付けてあげられないかと思って色々試した。
でも子供がやれる事なんてたかが知れてるだろ?
あんまり効果がない所かむしろ俺ばっかり必死になって逆効果だったかも知れない…。
それがとても悔しかった。」
委員長は悲しく寂しそうな顔で話をしていた。
でも、そこから表情を少し何度か決意を込めているかのような顔に変えて更に話を続けた。
「でもな、そうやって従兄弟の病院に通う様になって気付いた事があるんだ。
従兄弟みたいな入院患者さんの周りには、沢山の人が少しでも元気になって貰おうとして頑張っているんだってことを。
沢山のお医者さんや看護師さんにリハビリ師さん、従兄弟のお父さんやお母さん他にも沢山、そこにもしかしたら俺も入れているかもしれないけど。
そんな色んな人達の助けもあって従兄弟は少しずつだけど元気を取り戻していった。
それで俺は思ったんだ。」
そうやって話す委員長の眼にはなんだか闘志のようなものが宿っているかの様にボクには見えた。
「俺一人のできる事はとてもちっぽけかも知れない。
それでも大きな力の中の礎の一つ位にはなれるんじゃないかって。
それにそういう大きな流れって最初に動く人がいなかったら集まらないし、始まっていかないものだって思うんだ。
だから俺は従兄弟の様にどこかで困っている人がいるなら、真っ先に手を差し伸べて助けてあげられる様になりたい。
そうできる様な人間でありたいって、そう思うようになったんだ。」
そんな風に決意を語る委員長の姿はとても輝いていて、今のボクにはそれが凄く眩しかった。
「そんな恥ずかしい事を言えちゃう人をずっと間近で見てきて事情を知ってるから、心配になって私も学級委員やってるんだ。」
「べ、別に恥ずかしく何かないだろ!それに心配なんかいらない!
その、だから都築くん。
俺がしてる事は俺がそういう存在でありたいからしてるただの自己満足なんだよ。
俺自身の為にしてるみたいなものなんだ。
だから気に病んだりする必要なんて全然ないからな?」
むしろそのせいでお節介焼きだってよく迷惑がられるし、そうなってないかの方が心配だと委員長は続ける。
ボク自身へ向けられた言葉に、委員長の話に夢中になって半ば放心状態だったボクの意識が一気に引き戻された。
委員長は本当にすごい人だった。
元からとても優しい人だと思っていたけれど、それだけじゃない。
そうありたいと自分に課している、内側に熱い決意を秘めた人だった。
辛い事を経験しても、それを糧にそれでも誰かの為にあろうとするとても強い人。
ボクなんかとは全然違う、フウマ達と同じで本物のヒーローみたいだと、そう思った。
「そんな事ないよ!!」
だから本人がそう思っていたとしても、自己満足だと謙遜するのを許せなくてボクは思わず反論をしていた。
「委員長のおかげでボクはいつも助かってるし凄く感謝してるんだ!
だから全然自己満足なんかじゃないよ!
それに仮に自分の為だとしてもそれで色んな人が嬉しい気持ちになるなら、とても素敵な事だと思う。
だからそんな風に自分を貶したりしないで。」
人を助けることって、助けられた人だけじゃなく助けた方も嬉しい気持ちになって、嬉しい気持ちの輪がどんどん広がって行くようなそんな素晴らしいことだと、ボクはフウマ達と一緒にいる事で知った。
だからか言葉がつい強くなってしまった。
「そ、そうか…。
そんな風に思っててくれてたんだな…。
ありがとな都築くん。……励ましてくれて…。」
「あっ…こ、こちらこそどういたしまして…だし、
…いつもありがとう…だよ。」
そんなボクの言葉に委員長は最初は驚いて、その後照れながらお礼を言ってくれた。
それに対してボクの方も照れてしまい、お互い顔を赤くしながらお礼を言い合うという謎の構図が生まれていた。
副委員長もボクの様子に驚いていた。
よく考えたらクラスメイトの前でこんな大声出したのって初めて…?
あぁ余計恥ずかしくなってきた……。
そんな状態の中ふと、こういう事って前もあったような?
いや前っていうか1回どころじゃないかも?
とデジャブのような感覚を覚えた。
すると、
――そんな事ないぞ!!――
フウマの声が頭に鳴り響いた。
あぁそうか…。
ボクがよく自分のことを卑下してしまうと、それこそ今ボクが委員長にした様にフウマ達はそんな事ないと反論をして優しく励ましてくれたっけ。
もしかしたらボクが弱音を吐いてしまっている時に、今のボクが委員長に対して思った様な気持ちになったのかなぁ?
だとしたら悪い事をしてしまっていたな…。
ついさっきまでの事なのに、なんだかもう懐かしい思い出みたいだ。
ってダメだ、ダメだ、ダメだ!
ボクはもうあそこには戻れないし、そもそも相応しい人間じゃなかったんだ…。
いつまでも未練がましく思い出に浸ってちゃいけない、そんな資格なんてないんだ…。
そうボクは自分に言い聞かせた。
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