迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

28.衝突

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「ぼくも…フウマくんとおんなじ…。
話を聞いていて…ソウジくんの辛さとか後悔とかが…凄く分かったから…。
でもだからこそこれからは…これからも…ソウジくんと一緒にいて…支えてあげたいと思った…。
ぼくじゃ…不甲斐ないかもしれないけど…でもフウマくん達もいるから…。」
「自分ももちろん右に同じっす。
むしろソウジくんがそんな辛かった過去の事を決死の想いで自分達に話してくれるほど、
ソウジくんの中で自分達の存在がベストフレンドだったっていうのが嬉しくて、これから益々仲深めていきたいって思ったすよ!」

 ココロとクウガもだ。
いつもと変わらない、ボクには勿体ないほどの優しい言葉。
でも違う。
うん、ボクが違うんだ。
だから同じ言葉でも全然感じ方が変わってるんだな…。

 さっきまではボクはフウマ達のいる優しい理想の世界が大好きで、だからこそそこにボクがいるのは相応しくないって思っていたけど、
それが少し変わってきているのを肌に感じた。

「か、仮に過去の事を気にしないとしても、ボクは人を傷付けた、傷付けられる人間なんだよ?
この先だってわからない。
今日だって調子に乗って舞い上がって、自分の不調に気付いていたのに無理矢理動いて、皆を危ない目に合わせた。
ボクはまたきっと同じ過ちを犯してしまうんだよ。」

「でも昔はソウジくんは一人だったんすよね?
今は自分達がいるんで、皆で一緒にやればなんとかできるはずっす!
今日はソウジくんの辛さに気付けず申し訳なかったっすが、でも!それでもフウマくんのおかげでなんとかなったんすから大丈夫。
大事なのはこれからっすよ、これから!」
「ぼくも…何度か話してるけど…ソウジくんと似てて…昔は自分の力が恐くて…何度も失敗して…回りに迷惑かけてきちゃったから…ソウジくんの気持ちもわかるんだ…。
多分ぼくだけじゃなくて…フウマくんとクウガくんも…同じ能力者だから…能力での悩みは…理解してあげられるし…。
だから…大丈夫だよ…。」

そんな気持ちの中ボクがなんとか絞り出した言葉への優しい返答も、やっぱり全く響かない。

――大丈夫だよ。
――平気だよ。
――気にしないよ。 
――その気持ち分かるよ。
――これから頑張ろうよ。

 そういった言葉の数々はいつもボクの背中を押してくれて、前へ踏み出していける気がする勇気をくれた、ボクにとってとても大切な言葉達だったはずで、今みんながくれる言葉もそれと同じなのに、
なんだかとても…とても…空虚に感じる…。

 ボクがそんな思考に陥っていると、今度はフウマがいつもと同じ、輝くような笑顔で宝かに宣言した。

「子羊くん、君が過去の出来事を引き摺って不安を消し去る事ができないというのなら、ここは一つオレが王として君へと誓い立てる事にしよう!
君がもしこれから先困ったり失敗してしまいそうになる事があったら、直ぐにオレがそこへ駆け付けて、必ず助けて君を絶対に守ってみせる。
そう、今ここで約束をしよう!
王が為す盟約というものは絶対でなくてはならないものだからな、オレは王としてこの約束を絶対に違えることはしない。

だから君を絶対にもう二度と一人ぼっちにはさせないぞ!!」

 そのフウマの優しい、優しすぎる言葉にボクの心はとうとう決壊しそして爆発した。

「うるさい…。」
「え?」
「うるさいんだよっ!!」

そうボクは叫ぶように言葉を吐き出していった。

「さっきから聞いてたら、みんなみんなうるさい…。
何も、何も分かってない…!
過去のこと?失敗は誰にでもある?これからが大事?
そんな、そんな言葉で片付けていい問題なわけがないじゃないかっ!!

ボクが人に一生消えない傷を負わせて、これからもそんな事をしてしまう可能性があって、そんな悪人が困ってる人を助ける為に日々頑張ってる人達と、一緒になんて居ていいわけがないだろっ!!
正義の味方みたいな事してる癖にそんな事もわかんないのかよっ!!」

 爆発した想いは止まらない。

「気持ちが分かる?だから大丈夫?
ほんの少しの期間一緒にいただけ、さっき過去の話を少し聞いただけの人達に一体何が理解できるっていんだよっ!!
あんたらに過去に何があったか何か知らないけど、ボクがしでかしてしまった過ちと勝手に重ねて理解者面するなっ!
ボクの過去をよくある事みたいに勝手に片付けるなっ!!」

 誰にでもある過去のことだから気にしないでいいとか、その気持ちは分かるから大丈夫とか、
ボクが彼に付けてしまった消える事のない傷も、それでボクは何年も何年もその理由も忘れてしまう位長い間苦悩してきたことも、
全部取るに足らないありふれた事みたいに処理されたことが何だかとても嫌だった。

「一緒にいれば大丈夫?必ず助ける?絶対もう一人にさせない?約束する?
王の盟約だかなんだか知らないけど、絶対なんてあるわけがないっ!
そんな出来もしない約束なんて信じられるわけがないだろっ…!!
王様ごっこもいい加減にしろよっ!!」

 絶対なんて無いことをボクは嫌と言うほど知っている。
ずっと一緒だった仲の良かった友達だって簡単に失ってしまうし、結局ボクはどこにも居場所がなくていつも一人になった。
だから簡単に絶対を口にする事ができるフウマのそんな約束を、信じる事なんてできるわけがなかった。

「もういい…。もういいや。
ボクは皆と一緒にいるべきじゃないってよく分かったから。
もう2度と皆とは会わないから。」
「あ、待ってくれっ…!」

「じゃあ、さよなら…。」


 ボクは静止する声も振り切って一切振り返らすに、公園を出てそのまま駆け足で走り去っていった。
 皆は今日はただでさえ疲れていた上に、さらに公園で起こったゴタゴタもあって、クタクタだろうから能力を使って追いつく余裕もないだろうし、多分振り切れるだろう。


 ボクが過去の事を話したら、幻滅されて嫌われてしまうと話す前は思っていた。
そしてそれでいいとも。
でもフウマ達はそれでも受け入れてくれるほど優しくて、優しすぎた。
ボクの求めていた優しく暖かい理想の世界は罪人すらも受け止めてしまうような優しく…甘い…甘すぎる世界だった。
それはダメだ。
その世界にボクがいたらきっとボクは彼らにどんどん甘えてしまってもっとダメになる、彼らすらボクがダメにしてしまう、そんなの絶対ダメだ。
だからボクはやっぱり彼らと一緒にいない方がいい、最初から住む世界が違う人間だったんだ。

 さっきのボクから溢れだしてしまった言葉で、今度こそ本当に皆ボクを幻滅して嫌ってくれただろう。

 それでいい。
 それが正しい。

 走りながら、そういえばフウマと出会ったばかりの頃も、家来になれと迫ってくるフウマからボクは必死で逃げ帰っていたっけ…。
なんて事を思い返し、まるで振り出しに戻ったみたいだな、なんて自分の事なのにどこか他人ごとみたいに思った。

 そう最初に戻っただけ。

 そもそもボクはみんなと交わるべきじゃなかった。
そこはボクがいるべき居場所じゃなかった。


――それが正しい形に戻った、それだけだ――。

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