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子羊少年と王様少年
24.子羊の過去
しおりを挟む――それは、ボクが今よりもっと幼く小さかった頃の話だ。
超能力者が自身の持つ能力に目覚める時期は、人によってまちまちだと聞く。
本当に生まれついたその瞬間から能力者だって人もいれば、ある程度大きくなってから精神的な強いショックなどで力に目覚めるというタイプの人もいるらしい。
能力と精神は密接な関係があるらしいが、その実詳しい事は専門家の間でも未だに分かっていないとの事だ。
その事が関係するのかしないのかも定かではないけれど、能力者が能力に目覚める時期として、もっとも多く一般的なのが、成長期に入る前の幼い子供の頃なのだそうだ。
物心がつき、自分自身で色々なことが考えられるようになって精神的にも発展途上だけれど、まだまだ未発達で拙い、そんな時期。
ボクが能力者に目覚めたのもそんな頃だった。
ある日の朝、目が覚めるとボクが寝床の周囲にあったものを宙に浮かせていた。
それを目撃したお母さんが、能力に関する専門の診断をしている病院にボクを連れていき、そこで専門の医師に正式にサイコキネシスの超能力者だと診断された。
それを聞いたお母さんはとても悲しんでいて、何度もボクにごめんと謝っていた。
当時のボクはそんな母の様子の意味がよく理解出来ず困惑していたけれど、今考えると、
お母さんは能力者という事でこれからボクへと待ち受ける苦難とか全部予期していて、それをボクを産んだ自分のせいだとそう感じて、謝ってくれていたんだと思う。
一方でその時ボクがどう感じていたかというと。
「ボクすっごい力をもってるの!?
テレビで見てるスーパーヒーローみたいに、ボクもスーパーパワーで悪者をやっつけてみんなを守るヒーローみたいになれるってことなのかな!?
うん決めた、ボクこの力でヒーローになるね!!」
母が悲しむ一方で、ボクはむしろ自分が能力者という事実にとても喜んでいた。
今思うと本当に無知で愚かな子供だったと思う。
ボクはその当時、子供向けのヒーロー番組にとてもハマっていた。
男の子なら小さい頃誰もが一度は通る道だと思うけれど、世界の平和の為に悪の組織と闘い、そのヒーロー達の持つ強大な力で敵に打ち勝っていく。
その姿をとても格好いいと思って、凄く憧れていた。
だから力を使えば憧れのヒーローみたいになれるのだろうと、ボクはとても舞い上がって調子に乗っていたんだ。
本当に昔の自分ってバカだったなぁ。
その当時はボクにも友達はいた。
今のように全ての事に怯えて、人の顔色を常に伺うようになる前の無邪気な頃だったから、その頃も特別社交的というわけじゃなかったけれど、人並みの交遊関係は持てていた。
その中でも特に仲良しな相手がいて、ボクはその子とどこに行くにも一緒だった。
当時その子と住む家が隣通しで、もっとずっと小さい頃から凄く仲良くしていた、いわゆる幼馴染というヤツで、
ボクはその子をハジメという名前から取ってはーくんと、その子はボクをそーとあだ名で呼び合う様な仲だった。
その当時から今程ではないにしろ内向的な方だったボクを、彼はいつも優しく外へと引っ張ってくれて、はーくんはボクにとってヒーロー達に次ぐ憧れの存在だった。
そう、その日もはーくんに腕を引っ張られる様にして近所のボク達がよく行っていた公園に向かった。
その当時、男子の間でいかに高い場所に登れたか競い合う事が流行っていた。
それにはーくん達も参加して、木の上だったり建物の上だったりに登っている一方で臆病な方なボクは怖さの方が勝ってしまい、その様子を眺めることしか出来なかった。
それを気にしたはーくんが、俺が見本を見せてやる!とボクにコツを口で教えながら、実際に木の上に登って見せてくれた。
でも、彼もせっかくならボクに良いところを見せようと思ったのだろう…。
その登った木は彼自身も一度も登った事がなかったほどのかなりの高さの木で、頂上までたどり着き、下を見てそれを改めて確認したはーくんの顔には恐怖と困惑に満ちていた。
「はーくん!大丈夫?」
「あ、ああ。
思ってたより高くてちょっとビビっちまって、そーの前ではずいな…。
そー、降りるの結構時間が掛かりそうで悪いけど、待てるか?
ってああぁ!!!」
「っ!?はーくんっ!?」
そんな事を話していると、はーくんが立っていた木の枝が、ミシミシと音を立てるように、どんどん折れていきだした。
「あ…!こ、このままじゃ落っこちる!
そー、誰か助け呼んできてくれないか!?」
「え!?はーくん落ちちゃう…このままじゃ大怪我…。
……あ!ボクが
助けられるよ…!」
「え?」
はーくんはボクに助けを呼んで欲しいと頼んだ。
それからの後の事を考えると、素直にボクはそうすれば良かったんだと思う。
それか最悪何もできず、ただ呆然としている方がまだマシになったんだ。
だけどボクはその時思い付いてしまったんだ。
ボクの能力で助けたいと…。
ボクはいつも自分を引っ張ってくれるはーくんに、ボクが凄い力を持ってて、その力でヒーローみたいになると、どうやって告げようか迷って、ボクが超能力者になったという事をまだ伝えていなかった。
だから、これがそれを教える凄く良いタイミングなんじゃないかと、思ってしまった。
テレビの中のヒーローみたいに凄い力で困ってる人を助けて守る!
しかもその第一号がいつもボクを助けてくれてるはーくんで、今度はボクがはーくんを助ける!
そんなの、なんて、なんて、
カッコいいのだろう!!
ボクは状況に、そして自身の力に舞い上がり酔い切っていた。
それは大好きなヒーローみたいに自分がなれる、なってみたい!
という欲求や好奇心で胸がいっぱいになっていて、本物のヒーローのような人助けの精神とはとても呼べたものじゃなかっただろう。
ただヒーローごっこに夢中になっていただけだ。
「はーくん!
ボクの力で正義のヒーローみたいにかっこよく助けてあげるからね!!」
本当にその時のボクは調子に乗りまくってしまっていて、普通の状態じゃなかった。
能力は精神的な面に大きく左右される力なのだから、それでまともに使えるわけがなかった。
それにその当時ボクは能力に目覚めたばかりで、殆ど使った事がなく、コントロールの仕方なんて知らなかった。
子供とはいえ人間程の重さのものを念動力で動かしたことなんてもちろんなくて、そんなの上手く扱えるはずがなかったんだ。
そう、調子に乗った人間は、その後絶対に失敗という報いを受ける 。
しかもその時は張本人のボクではなく彼が…。
ボクの能力は案の定暴走してしまい、はーくんの身体は念動力の力の暴走を受けた凄まじい勢いと共に地面に叩き付けられた…。
――その後彼が二本の足で地面を立ち上がる事はもう二度となかった。
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