迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

文字の大きさ
上 下
23 / 64
子羊少年と王様少年

22.暴走

しおりを挟む

 ボクは全てを思い出した。
さっきまで感じていた、漠然とした恐怖の正体がはっきりと分かった。
なぜ怖かったかなんて、そんなの過去に同じ様な状況を経験して失敗したからなんて、気付いて見たら簡単な理由でしかなかった。

 そう…思い出したんだ…。
今日のことだけじゃない。
そもそもなんでボクがあそこまで頑なに能力を恐れて嫌って、それを隠すようになったのか。
普通になりたいと願うようになったのか。
あぁ…。

 じゃあボクはみんなと一緒にいる資格なんて……。




 気付くと、あと一息で地上までたどり着くというまで来ていたゆうとくんの体は明後日の方向へと、凄い勢いで飛ばされていた。
あれは多分ボクがやったのだろうな…。
ここから見えるゆうとくんの表情は、突然の出来事にとても呆然としていて状況に追い付いていないようだった。
多分今の状況からそのまま地上に叩きつけられたら、あのまま木の上から落ちてしまう方がまだマシだっただろうという位、酷い衝撃に襲われてしまうだろう。

 ああ…まただ……。 
またボクは、あの時の"彼"にしたみたいに人を自分のせいで傷付けて…そして……。






 ――ブオォォォーーーーーーーン!!――


 え!?
ボクがそう一人うちひしがれていると、いきなり凄い大きな音が耳に響いた。

 これは…風の音?
あ…ということは、フウマ!


 フウマは自身が起こした風の力を借りて物凄いスピードでゆうとくんが飛ばされた方へ飛び上がっていき、ゆうとくんを抱き止めた。
そして、そのまま徐々に風の勢いを落としていき地面に降りた。

「へ?…あれ?フウマにいちゃん!?
え、えっと助けてくれてありがとう…。
で、でもソウジにいちゃんは…ど、どうしちゃったの?」
「どういたしまして、これくらい王たるオレにとって出来て当然の務めだ!
こひつ…ソウジにいちゃんは、オレにも詳しくはわからないが、どうやら今日は調子が悪かったようだ。
なので家来の不調は王であるオレがカバーする、それも一流の王なら出来て当然だしな!」


 どうやら間一髪の所でゆうとくんは助かったようだ。
困惑するゆうとくんを優しく励ますようにしてフウマは話しかけていた。

 ああ…良かった…。
ゆうとくんは助かった。
あの時みたいにはならなかった…。
あぁ…でもあの時の、彼は助からなくて…。

”彼”はきっと……今でも…。
あぁ……。

ああぁぁ……。






「うわぁあああああああああああああああああああああ!!!!」




状況に一旦安心したことで、かえって過去の出来事を再認識してしまい負の感情もぶり返していく。
今度は叫び声まで上げてしまったみたいだ…。
溢れかえる感情と一緒に、ボクの力もどんどん溢れて洩れだしていくのを感じた。
目的も目標も定まっていない、ただボクの念動力の力の圧力が今いる公園中に溢れかえっていってしまっている様なそんな間隔。
気付くと一緒に木の下でボクの近くにいたはずのココロ達も、漏れだす力でボクの周囲にいる事に耐えきれなかったのか、ボクから離れた場所に移動していた。

 ああ…ボクはこのままだと…今度はみんなを…
…傷付けてしまうのだろうか…。 



「いいかクウガ 、ここは今危険だ!
だからこうきとゆうとをお前の能力で安全な場所まで避難させてくれ。
ココロも付き添いを頼む。」
「分かったっす…ってフウマくんはどうするんすかっ!?」
「ここで彼を食い止める!
決まっているだろう。」
「そんなこと…できるの…?」
「お前達はよく知っているだろう?
オレには不可能なことなどないということをな!
それにこういう時、家来の側にいて寄り添う事ができない様な人間に王を名乗る資格なんてない!!」
「ああもう分かったっす!
でも無茶はしないでくださいね、後から自分達もすぐ駆け付けるんで。」


そんな会話がもう間隔も朧気になってきた耳に、微かに聞こえた気がした。




 どんどん…どんどん負の感情が圧力となって、溢れ出して止まらない。
このままいくとボクの力は、公園中を覆って公園そのものを駄目にしてしまうのだろうか。
ああボクの力はやっぱり、人を救う為のものになんか出来なくて、傷付けてしまうものなんだな…。
そうボクが絶望していると、


――グウオオオォオオオ!!!――


と、またさっきとは違った種類の風の音が鳴り響いた。
フウマの能力だ。
フウマが能力でまるで竜巻と見まごうほどの大きな風の塊を作り出していた。
その風の塊はやがてボクから溢れ出していた、力の圧力のフィールドを覆い尽くしていった。
そして、ボクから漏れだす力以上の衝撃で風が押し進められていき、やがてボクの力を完全に掻き消していった。 
フウマの力を凄いと常々思っていたけれど、ここまで規格外な程凄まじい力だったなんて思わなかった…。

 そこからその力で、ボクから溢れた圧力を完全に掻き消し終え、ボクの力の暴走が収まると、彼はボクに飛び付くようにして抱き締めた 。


「もう、大丈夫だ。
オレが側にいるから、もう大丈夫だからな…。」

 そう言ってフウマはボクを抱き止めながら、同時に頭を優しく撫でてくれた…。
本当にフウマに頭を撫でて貰っていると、温かくて気持ちが良くて、全てを忘れ去ってずっとそうして貰っていたい気持ちになっていってしまう。


 でも。
だからこそ。
ボクはその暖かさを享受して良い人間なんかじゃない。
そんな人間じゃ最初からなかったんだ… 。
 
 だから離れないと。


「助けてくれてありがとう。
ねぇ、でもボクもう平気だから。

離して。」
「え?ああそうか。
分かった。」

多分ボクはとても酷い声色と表情をしていたのだろう。
ボクから体を離していく時に覗いた彼の表情は、珍しくとても困惑した顔をしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

どうしょういむ

田原摩耶
BL
苦手な性格正反対の難あり双子の幼馴染と一週間ひとつ屋根の下で過ごす羽目になる受けの話。 穏やか優男風過保護双子の兄+粗暴口悪サディスト遊び人双子の弟×内弁慶いじめられっ子体質の卑屈平凡受け←親友攻め 学生/執着攻め/三角関係/幼馴染/親友攻め/受けが可哀想な目に遭いがち 美甘遠(みかもとおい) 受け。幼い頃から双子たちに玩具にされてきたため、双子が嫌い。でも逆らえないので渋々言うこと聞いてる。内弁慶。 慈光宋都(じこうさんと) 双子の弟。いい加減で大雑把で自己中で乱暴者。美甘のことは可愛がってるつもりだが雑。 慈光燕斗(じこうえんと) 双子の兄。優しくて穏やかだが性格が捩れてる。美甘に甘いようで甘くない。 君完(きみさだ) 通称サダ。同じ中学校。高校にあがってから美甘と仲良くなった親友。美甘に同情してる。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

処理中です...