迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

21.向き合う時

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――【~~~~~~…!!】――




 うわ!?
何て言ってるのかよく聞き取れなかったけど、何か叫ぶ様な声が聞こえた。
凄く怒って怒鳴っているかのようなの声だった。
でも周囲に叫んでるような人は見当たらないし、ボクの幻聴?


でも、この声…どこかで聞いた事があるような…?


 そうボクがただでさえ、頭を埋めつくす正体不明の怖さと全身を襲う寒気に加えて 、謎の幻聴まで追加されてぼーっとしていたら、クウガの数回に分けた何回目かのテレポートで目的地の公園の前まで到着していた。
ボク達がその公園へ足を踏み入れると、小さな男の子が大慌てでボク達の元までやって来た。

「フウマにいちゃん!!本当にきてくれた!
た、大変なんだ!友だちのゆうとくんが、こわくて泣いてて、おれじゃ助けられなくて。」
「ちょっと落ち着け!
王たるオレとその家来達が来たんだからもう安心だ 。
オレたちの強大な力なら必ず助けられる。
その友達のいるという木まで案内すること出来るか?」
「う、うん。分かったよ。」

 友達がピンチな状況に気が動転してしまってるその子に対して、フウマは毅然とした、でも相手を気遣う優しさも同時に感じる態度の表情で冷静に接していた。
フウマってこういう時本当に頼もしいんだなぁ。
よく見るとその男の子は、数日前のボク達も参加した自由参加のボランティアで一緒になった子だった。
確か名前はこうきくん。
ゆうとくんって名前の子もいたのを覚えているから、多分木から降りられなくなったというのも同じ子だろう。
二人がボクが力で物を宙に浮かばせて運ぶ姿を、とてもキラキラした憧れの眼差しで見てくれていたのに、凄く嬉しい気持ちになったっけ。

「ソウジにいちゃん!
ソウジにいちゃんのあのすっごい力ならゆうとくんをすぐ助けられるよね!?」
「…うん。…もちろんだよ。」

 こうきくんを不安にさせたくなくて、なんとか安心させるように取り繕って見てはいるもののちゃんとできているだろうか?
正直自信がない。
身体中を襲う不調は収まるどころかどんどん増していっている気がするし、さっきのよく聞き取れない幻聴も、間隔を開けて何度も繰り返し聞こえてくる。
しかもその間隔がどんどん短くなっているような?
でも、今目の前で困っていてとても不安そうな助けを求めている人がいるのに、それを投げ出すなんて事を、やっと居場所を手に入れた今のボクはしたくなくて。
頑張って耐える事にした。

 そしてこうきくんの案内で、ゆうとくんのいるその木までたどり着いた。
その木は多分この公園で一番大きいんじゃないかと思う程の迫力のある大きな大木で。
その木の頂上に近い付近の、木の枝の上にゆうとくは座っていた。
ボク達が来るまでに泣き腫らしたのか目が真っ赤だ。
そして座っていた枝もそんな太くはなくて、むしろゆうとくんの体重に堪えきれず、今にもへし折れてしまいそうな感じだった。
かなりの高さの木だ。
もし枝が完全に折れて下まで落下なんかしてしまったらきっと、ちょっとした怪我なんかじゃすまないだろう…。
…あれ?木から落ちそう?   落下して大怪我?…なんか、こんな事……。




――【お前のせいで…~~~~~~…!!】――





・・・・・・はっ!?

 聞き取れなかった幻聴が少しだけ輪郭を帯びて耳に届いた。
なんだ?なんだこれ!? 
お前のせい…?ボクのこと…?


「ソウジにいちゃん助けて!!
ぼ、ぼく木に登ってる時は平気だったんだけど、降りようとして、下を見たら想像よりずっと高くて恐くなって、降りれなくて、でも枝が折れそうになってきて、
ぼくこのまま落っこちて死んじゃうのかなって怖くなって、
それでこうきくんが、ソウジにいちゃんなら助けられるかもしれないから呼んでくれるってってそれで…!」
「…あ!
う、うん、ボク達が来たからもう大丈夫だよ!
怖い中よく今まで頑張ったね、今助けるからね。」

 そうだ 。
今ボク以上に恐怖に震えて救いを求めてる人がいるじゃないか。
ゆうとくんの木の上から怖さに必死に耐えながらもボクを求める切実な声を聞いて、混乱していたボクの意識が少し戻ってきた。
目の前でこのボクに助けを求めてる人がいるんだから、その期待には絶対に答えないと。

「子羊くん本当に大丈夫か?
君なんかさっきよりも…」
「え?いや、大丈夫だって何度も言ってるでしょ!
それにゆうとくんだってボクに助けてって言ってるし、それにさっきボクの能力が適役で安全って自分で言ってただろ!」
「しかしだな…。」
「もうしつこい!」

 フウマはボクを凄く心配そうにしていたが、ボクはその声を振り切って能力を使う為に力を込めた。
 後から思うと多分ボクは自身を襲う言い様のない恐怖を、目の前の状況に意識を向けて集中する事で何とか誤魔化そうとしたのだろう。
そんなのもう人助けなんて呼べないし、偽善もいいところだ。
そんな精神がグラグラな状態で目の前の危機的状況に、ましてや能力を使って挑むだなんて、上手くいくはずがないというのに…。

 ボクはそんな事にすら気付く余裕がなかった。
そしてボクが何を怖がっているか、その正体を考えたら、そう気持ちを誤魔化そうとした事すらむしろ逆効果だった。


  ボクは木の上にいるゆうとくんに目掛け、少しづつゆっくり念動力の力を送って宙に浮かせていった。
速度がゆっくりなのは今のボクの状態的に強い力を使える余裕がないというのもあるし、いきなり激しくしたら逆にゆうとくんをより不安にさせてしまうかも知れないと思ったからだ。
それに自分の力を人間に向けて使うなんて初めてだから、調整とかがどうすればいいのか分からず難しいというのもあった。

 あれ?
…本当に人に使うの初めてだったっけ……?

 力を使いながらもやはり、身体を襲う恐怖は収まらない。
むしろ激しくなっている様な気すらする。
それにさっきから聞こえる幻聴も鳴りやむ気配がなく、むしろどんどん聞こえる間隔が短くなり、言葉も少しずつはっきりしてきているような…。
立っているのすらやっとな位身体がおかしくなっているのを自分でも感じているけれど、

 でも、今はボクは困ってる人を助けているんだ…!
集中…集中だ…!

 と、無理矢理自分を奮い立たせてとにかく目の前の事に向き合った。

 暫くして、ゆうとくんを木と地上の丁度中間程の地点まで運ぶことができた。
そこまで来るとゆうとくんはもう一安心したといった感じで、むしろボクの能力を使う様子を間近で見ることができて、テンションが上がっているみたいだった。

 よしあと一息…!
ここまで出来たなら、もう後は大丈夫だろう。
そう思う、思うのだけれどなぜか不安は消えない。

 ここまで位なら前だってできていたし…。
…いや前ってなんだ…?
木から降りる手助けなんてしたのは初めてのはずじゃ…。
いつのこと…?
確かあの時は……そのあと…。
えっ?あの時?ってどの時なんだ?
そのあとって…それから何が…?

 あ…。












――【お前のせいでおれの人生が台無しだ!絶対に一生許さないからな…!!】――










 その時、鳴り病まず聞こえた叫ぶ様な声が、はっきりとした言葉になって聞こえた。
これはボクが昔実際に言われた言葉だった…。
そうだ、あの時ボクは……それで、それから……。
あぁ…そうだボクは…。
…ボクは……。

 あ…。

 あぁ…。



 ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!!!!!!






 
 ボクの頭は真っ白になって、能力は暴走をし始めた。
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