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子羊少年と王様少年
20.崩壊の足音
しおりを挟む今のボクは本当に幸せの真っ只中だった。
この幸せな気持ちは、自分が少し勇気を出して一歩前に踏み出す事ができたという証であるということを思うと、なおさら嬉しくなってボクはついつい笑みが零れてしまいそうになる。
っといけない、いけない。
何んでもないのに笑ってるなんてみんなに変なヤツだと思われてしまうかも…。
でもフウマ達ならそんなボクでも受け入れてくれるのかな…?
なんて頭の中で勝手に想像が止まらない。
本当に幸せ過ぎて怖いくらいで。
でもそれはボクが、それほどその状況に酔って調子に乗りまくっている証でもあって。
だからそんな浮わついた状態には終わりの時は必ず来る。
崩壊の瞬間は刻一刻と迫っていたんだ。
「今日の仕事はもうこれで終わりかな?」
「そうっすね。いつもより早い時間っすが今日予定してたものはもう終わっちゃったんで。
これもソウジくんが滅茶苦茶張り切って気合い入れて働いてくれたおかげっすね!
ひゅーひゅー!」
「ちょ、ちょっとからかわないでよ!
それにまぁ少し張り切り過ぎちゃってた自覚はボクにもあるけど、ボクだけの手柄じゃなくてみんな頑張ってたんだからね…。」
「ぼくは…早く終わったのは嬉しいけど…でも今日いつもより…皆と解散するのも早くなっちゃうのは…寂しいかな…。」
「っ!ボ、ボクも寂しいよココロ。
うーんと・・・じゃあさ今日行きで乗ってきた電車の駅までゆっくり話しながら帰ってみるとかどうかな?」
「それ…いいね…。」
「ちょっとソウジくん自分達とココロくんで対応違いすぎないっすか!?
自分達にももうちょっと素直になってくれていいんすからね!」
だってクウガやフウマと話してると、
何か照れ臭いんだもん…。
っとそこで通常ならこの手の話題はノリノリで食い付いてくるフウマが、全然話に入って来ないことに気付いた。
フウマの方に顔を向けると、フウマはケータイに真面目な顔で何かメッセージを打ち込んでいた。
「解散ムードのとこ悪いが、我が王国の政の用に使ってるSNSに緊急の依頼が入ったぞ!
しかもここから比較的近い。
クウガ、今から◯◯公園までテレポートって出来る余裕ありそうか?」
「◯◯公園っすか?
うーん、そうっすね~自分はそこまで疲れきってるってわけじゃないので、距離的にも1回の移動じゃ無理でも、数回に分けてのテレポートならなんとかできるかと。」
緊急の依頼かぁ。
一体どんな内容だろう?
……もしかしたらそこで事故とかが起こっていたりするのかも知れないから、こんな風に思うのは不謹慎な事かも知れないけど、
今日はこれで終わりだと思っていたから、まだ皆と能力を使って困ってる人を助けるお手伝いができるなんて嬉しいなって、そうな風にボクは思っていた。
「そして子羊くんもだ 。
君は今日凄く頑張って素晴らしい能力を目一杯使って動いてくれていてとても助かった!
だがその分疲れが溜まっているかも知れないが、まだその力を下々の民の為に役立てる事は出来そうか?」
「っ!
確かにボクつい張り切り過ぎて疲れてしまってはいるけど、これ位なら全然まだまだ大丈夫だよ!
そ、それにまだボクの能力が役立てる場所があるなら、出来る限り力を使いたいって思うから。」
「ふふっ。そうか、それは頼もしい限りだな!
今回の依頼は君の能力を活かすのが一番適役だろうなと思っていたんだ!」
「…えっと、それでどんな依頼内容なの?」
「それがだな。以前の活動でオレたちが知り合ったある子供からの友人が困っているから助けて欲しいという連絡だったのだが~」
……何故だろう?
なんだか自分でも分からないけれど、よく分からない嫌な予感がしてボクはフウマに訊ねた内容を聞きながらも同時に自分から訊ねたはずなのに、何だか話が続いていくのが怖くなっていった。
「その友達が公園の木に登ったは良いものの、そこから降りられなくなってしまったらしいんだ!
君の凄まじいサイコキネスの力ならば一番安全にその子の救出が出来るだろう!?」
・・・・・・え?
別にフウマは何もおかしなことを言っていないはずだ。
ただ単に引き受けた依頼内容の説明と、その内容からボクが適任だと思ったと語っているだけで。
うん …全然普通だ。
それなのに、なんで、なんで、こんなにボクはその言葉が頭に入っていかなくて、脳が情報を処理をするのに、こんなに時間がかかっているのだろう…?
なんでこんな、まるで暖かい場所からいきなり極寒の中へ放り込まれたかの様な、とてつもなく強烈な寒気が身体を襲っているのだろう…?
分からない。
分からないことが余計に怖い…。
あぁ…でも会話の途中であまりに黙り過ぎていると、心配をさせてしまう…。
とりあえず返事しないと。
「あ……う、うん。そうだね。」
「どうした子羊くん?
何だか様子が…もしかしてやっぱり疲れで辛いのか!?
だったら…」
「え?いや…違うよ!
そういんじゃないし、さっき全然大丈夫だって言ったでしょ!
それより助けを待ってる人がいるんだから、急いでその公園に行かないと!」
「う、うーん。それもそうか…。
クウガ、テレポートお願いできるか?」
「は、はい。了解っす…。」
「ただ子羊くんは少しでもダメそうならすぐにオレに報告するように!」
「ソウジくん…無理はしないでね…。」
「だから心配ないって!」
明らかに様子がおかしいボクにフウマ達は訝しげな顔をしていたけど、ボクが無理やり空元気で平静を装うと渋々納得してくれた様で、公園へ向けて出発する事になった。
目的地に向けて、クウガがテレポートで少しずつ近づいている最中も、ボクは言い様のない漠然とした恐怖のようなものに襲われていた。
何だか心臓の動きがバクバクと、とても早く感じる…。
こういうのを胸騒ぎというのだろうか。
全く鳴り止む気配がない。
ボクは身体中を襲う、言い様のない恐怖、そして自分でもよく分からない不快感を皆に心配をかけまいと、何とかやり過ごし様にしていた。
理由の分からない恐怖が怖かったけれど、それはボクがその正体から目を背けてしまっていただけで、
一体ボクが何を怖がっていたのか、フウマの発言のどこに引っ掛かったのか、
そしてそもそもなぜボクはこんな常に何かに怯えるような臆病な人間になったのか。
そんな事は本来は答えが簡単な分かりきった事でしかなかったんだ。
ボクが自分の犯した罪と向き合う瞬間が迫る。
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