迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

17.実感

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 あ、あれ!?
ボク今眠ってた?というか意識失っていた?
一体何があったんだっけ?
目を開けようとしても、視界がぼやけて覚束無い。
ボクは上手く回らない頭で、必死に状況を思い出そうとする。

 うーん、あ!ああそうだ!!
き、木が倒れて、それでど、どうなったの!?

 そうボクが軽いパニック状態になっていると、

「子羊くーーーーーーーーーーんっ!!」
「ぐわっ!!」


 ボクの体は突然強い衝撃に襲われた。
叫び声からの抱き締めってこのいつものパターンはクウガか?あれ?いや違うフウマ!?

「子羊くんついにやったな!!
やはりオレの目に狂いはなかった!
ずっと信じていたが、ついに君は自分の能力を人を救う為に使う事が出来たんだ!
ああ本当に素晴らしいな!

オレの失敗がきっかけなのは王として少し恥ずかしいが、まあ家来が成功する為のアシストをしたと考えればオレも十分素晴らしいだろう!?」

 相変わらずフウマはほっとくとマシンガントークが止まらないな~とぼんやりとする頭で考えていた。
いやそんな事考えてる場合じゃないのは分かっているんだけど。

 ボクはやれたの?本当に?

「ボク…ほんとにあの人を助ける事……できたの?」
「ああもちろんだ。あちらを見ろ!」

 そういってフウマが言う方向へ顔を向けると、先ほどの作業員の方が笑顔で手を振ってくれた。
どうやら全く怪我とかはしていないようだ。
そしてそこからかなり離れた場所に、件の大木がまるで放り投げられたかの様にして横たわっていた。

 あれをボクがやったの?

いまいち実感がわかない……。


「あーーー!抱き付くのは自分の専売特許っすよフウマくん!」

と、また別の声が聞こえてふりかえると、今度はクウガとココロの二人もボクのいる所までやって来ていた。

「すごい音がしたから…ぼくも慌てて駆け付けに来たんだけど…そっか…ソウジくんが…。
ソウジくん…おめでとう…! 」
「ソウジくんが力を使う所をしっかり見られなかったのは残念っすが。
それはこれからに期待するとして、とにかく頑張ったっすねソウジくん!」

 ボクやれたんだ?

 ずっと怖くて出来なかった能力を使って、人を助けることができた?

 心が全く追い付かず困惑していると、今度はボクが助けた?らしい作業員の方が話しかけてくれた 。

「ソウジくん本当にありがとう!
君も能力者だったんだね、君が能力を使ってくれたおかげで本当に助かったよ。
君は私の命の恩人だ。
感謝してもしたりない位。」

 ボクが能力を使って感謝されている?

 え、これは本当に現実なの?
ボクの都合の良い夢だったりしない?


「それとさっきの話の続きだけど、能力をやっぱり少し怖いと思ってしまう。
でもね、
だからこそそんな凄い力を持った君達が、
その力を人の為に、誰かを助ける為に使いたいって思ってくれるとても優しい心を持った子達だって事が、
とても素晴らしく尊いことなんだって思うんだよ。」
「っ!!」

 その言葉にやっとボクの心は現実に追い付いてきた 。
そっか …そっか。
能力を使って人が傷つくんじゃなくて、人を助けて、人と人がお互いに笑い合えるそんな理想の優しい世界。
その一員にボクもきちんと入る事がやっと出来たんだ。
フウマ達みたいな、誰かを救うヒーローみたいな存在に。
ボクの力も誰かを救う事ができる力なんだ…。

「こ、こちらこそありがとうございます…。
あなたの、あなた達のおかげでボクの心も救われましたから。」


 ――ああ、ボクが今いる場所は…
…なんて…なんて…暖かいんだろう――。


「さあ今日は宴だ!
帰りは飲食店によって子羊くんの快挙を皆で盛大に祝おうじゃないか!!」

 あんな最悪な出会いだったのに、今は彼らと過ごす日々が本当に尊くて、あの日フウマと出会えて良かったと心の底から思った。






 その日からボクは本当に変わった。
あれだけ怖がっていた能力を使うという行為を、一度能力を使い成功したという体験が後押しになって、躊躇せず出来るようになった。

 ボクは今までずっと自分の能力に怯えながら、その力を抑え込める様に必死で生きていた…。
そんな恐怖の対象で、忌み嫌っていた力で、人を笑顔にすることができるという事実がとにかく嬉しくて、ボクは人を助ける為に積極的に力を使えるようになった。
 今まであまり力を使ってこなかったから知らなかったけれど、サイコキネシスという力は汎用性が高くて、フウマ達との活動の中の色んな所で役立った 。
その事でボクは、益々力を使って行けるようになった。





 そう、だから多分ボクは凄く調子に乗っていたんだろう。
調子に乗った人間のその先には往々にして失敗が待っているものなんだ。
それにボクはフウマ達があまりに眩しくて、ある大切なことを忘れていた。
いや、もしかしたら自分から忘れようとしたのかも知れない。

 だからその報いを受ける日が必ずやって来る――。


――そんな日がやって来たのはそう遠くない未来の事で、ボクが力を使うようになってから1週間程経った日の出来事だった。
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