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子羊少年と王様少年
15. 待っているから
しおりを挟む日に日に増していく焦燥感と罪悪感についに限界を感じて痺れを切らしたボクは、3人に何でボクに何も言わないのか直接聞いて見る事にした。
「なんだオレ達に話って?はっ!まさかオレの
「もうその流れは本当にいいから!
絶対その手の話にはならないって!
い、いや何というかボクをその、家来?に誘ったってボクが能力者だから、何だよね…?」
「ああ!初めて会った時に見た君のあの能力!
あまりにも素晴らしくて、素晴らしいオレの家来に相応しいと、是非勧誘しなくてはと思ったものだぞ!!」
「そうそう。自分達はまだ直接見た事はないっすが、ソウジくんを見つけた事を話すフウマくんのテンションの上がり様が何時も以上に凄くて良く覚えてるっすね。」
「ぼくも…新しい能力者の仲間が…増えるかも知れないって聞いて…凄く嬉しかったな…。」
うん。一応確認をしたけど、やっぱりボクがここにいさせて貰えてるのはボクが能力者だからで間違いない。
それなら。
「じゃあボクが能力を使わないでいる事に何で皆はなにも言わないの?
ボク全然役に立ててないのに…。」
自分で話題を振った癖にボクは反応を見るのが怖くて、顔が見えない様に俯きながら問い掛けていた。
そして恐る恐る顔を上げると3人は、少し驚いた顔をして、でもそれでもボクを温かい眼差しで見つめていた。
「なんだ。そんな事を気にしていたのか。」
「そんな事って…。」
「ふふっ。元より何事も誰もが最初から全てが上手くいくなんて思っていない。
言っただろう!だから最初の一歩が肝心だと。」
ああ…。それはボクが初めてフウマ達の活動を一緒に手伝った日にも、フウマが言っていた言葉だ。
「ぼくもね…ソウジくんと似たところがあるっていうか…昔は自分の力が怖かったんだ…だからね…。」
「同じ能力者だからこそ、能力に関する悩みや葛藤を少しは理解できるつもりっす!」
「そう君がそうやって悩み立ち止まってしまうのは何もおかしい事じゃない!
当たり前の普通の事だ。」
ボクが悩んでしまっている事はおかしい事じゃない?
なんだか3人の言葉が上手く頭に入って来ない。
ボクは弱い自分自身へ嫌気が差してしまっていたけど、それが普通のこと?
あれ?普通って何だっけ…。
ずっとそれに拘って生きてきた癖にもう良く分からないや…。
「そしてこうやって一緒に過ごす様になって、君の素晴らしいが所が能力だけではない事をオレは知っていった。
君は悩みながら、それでもオレと共に民を救う道を選んでくれただろう?
そして自分自身が苦悩を抱えているのに、それでも他者の事を気にかけられる、そして精一杯人の為に頑張ろうとしてくれている。
君の持つその心もオレの家来として相応しい素晴らしさなんだ!」
「前も少し話したけど…ぼくはソウジくんの気持ちもわかるから…だからこそ…
踏み出すことへの怖さが勝ってしまって…一緒に仲間になってなんて…難しい事なんじゃないかと…思ってたんだ。
でも…ソウジくんは違ったよね…?」
「毎日自分達と一緒に頑張ってくれてるのは、ずっと見て知ってるっすよ!」
「ああその通りだ!だから、」
そこで一旦区切ると、フウマはボクに優しく微笑みながら宝かに言葉を続けた。
「だから信じているんだ!
君のような苦悩と戦いながらそれでも前へ進む事が出来る素晴らしい心の持ち主なら、
いつかはそこから更に壁を飛び越えて、自身の持つ力で誰かを救う事が出来る日が絶対来ることをオレは確信している。
オレはそんな必ず訪れるであろういつかを楽しみに待っているんだ!
だから子羊くんは何の心配もする必要はないんだぞ?」
……信じている?
……ボクを信じて待っていてくれている?
「ソウジくんは…ぼくが思ってたよりもずっと…勇気のある人だったから…大丈夫…。
いつか…きっと…。」
「自分達はそんな日がいつ来ても良いように、しっかり心の準備をしてますんで、
その時が来たら自分達にもその素晴らしいと評判の能力を、是非見せてくれると嬉しいっす!
いくらフウマくんが王だからってあんまりソウジくんの事独占ばっかりされたら、自分寂しくて泣いちゃうかも知れないっすよ!
なーんて。」
ココロは僅に笑みを浮かべる様にしながら、クウガは少し茶化した様に笑いながら、言葉をフウマに続く様に口にした。
そっか。
ボクがみんなと一緒に過ごす様になって、みんなの事を知っていった様に、みんなもボクの事を知っていってくれていたのか。
そして、何より……。
こんなボクを、優しくて暖かい場所で受け入れてくれただけじゃなくて、
ずっと信じていてくれていたんだ。
こんなあらゆる事に怯えて二の足を踏んでいる臆病者でノロマなボクでも、
前に踏み出す力を持っていると、
いつかは自分の力と向き合う事ができると、
待っていてくれるんだ。
――ずっと信じて待ち続けていてくれているんだ――。
ああ、なんて…なんて…暖かいんだろう。
ボクの弱さすら理解して、それでも未来を信じてくれる人がいる。
その事実があまりに衝撃的で暫く気付かなかったけれど、いつの間にかボクの眼からは涙がぽろぽろと零れ落ちていた…。
ああ…。
あまりの嬉しさで涙が落ちてしまうなんて、
フィクションの中だけの話だと思っていたけど、本当に起こる事なんだなぁ……。
「うえぇぇぇ!?こ、子羊くん大丈夫か!?
きゅ、急に泣きだして、な、な、な、何かあったか!?」
「もしかして…ぼく達何か…悲しませるような事…言っちゃった…?」
「あ、あの自分達が悪いなら全然謝りますんで
えっと、えっとソウジくんごめんなさーい!」
そんなボクの様子をどうやら3人は勘違いしてしまったみたいだ。
みんな物凄くテンパっている。
それに対してボクは本来なら悪いと思わなきゃいけないはずなのに、その様子がなんだか可笑しくて。
ふふっ。
特にフウマは普段あんな偉そうな態度なのに、こんな風に大慌てになることなんてあるんだなぁ。
しかもそうさせているのがボクって事に、なんだか謎の優越感が湧いてもくる。
ボクは涙も一向に止まらないのに、同時に顔に笑みも溢れていった。
とはいえこのままにするわけにもいかないので、ボクは色々な事で上手く動かない口を必死で開いて何とか話した。
「…ううん、ボ、ボク大丈夫。大丈夫だよ。
皆の言葉も……う、嬉しかった…。」
その言葉に何とか皆安心してくれたみたいだ。
そしてボクは更に言葉を続けた。
それを口にする事が少し怖くて、言葉にするか迷ってしまったけれど、それでもフウマ達に絶対言わなきゃいけない事だと思ったんだ。
「ボク頑張るから。もっと頑張るから。
皆に追い付けるように頑張るから。」
だから、
「待ってて。
待っていてね。」
そうボクが言うと、フウマ達は一瞬凄く驚いて、それでも直ぐに何かを確認する様に顔を見合せると、力強く頷いてくれた。
「「「ああ!!(うん…!)(はいっす!)」」」
三者三様な返事なはずなのに、ボクにはなぜか不思議とぴったり揃ってる様にも聞こえる響きで、それが何だかとても心地が良かった…。
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