迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

14.真逆の気持ち

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 そしてその日の全ての作業をし終えて、もう解散する時刻となった。
解散の号令は(王様だからか)いつもフウマがする決まりになっているらしい。

「名残惜しいが今日も別れの時間となったな!
ココロ、クウガ今日も王たるオレの家来として素晴らしい働きぶりだったな!
流石はオレの家来。
オレも王として鼻が高いぞ!!」
「偉大な我が王へそう言っていただけて、いつもながら光栄の極みっす!」
「今日もフウマくんから見て…ちゃんとやれてるなら…良かった…。」

そう3人で一通りのやり取りをすると、フウマは今度はボクの方へ顔を向けた。
ここからも最早毎日の恒例となっているやり取りだ。

「そして家来見習いの子羊くん!
今日はいつも以上に気を入れて頑張ってる様に見えたな!偉いぞ!
やはり素晴らしきオレの目に狂いはなかった。流石はオレが家来にと見込んだ素晴らしい資質の持ち主だ!!」
「別に、そんな事ない…けど。」

 相変わらず人に話している時すら挟まれる怒涛の自画自賛。
普通だったら鬱陶しいと感じると思う。

 それでも今は、彼が自分の事が大好きなのと同じくらい、向き合う人に対しても溢れんばかりの好意を持って接しているのを、もう知っているから…。
だからつい無愛想な返しが口から出てしまうけど、一方でボクの心は嬉しさで満たされて、頬も緩んいく。
だからボクが本当は嬉しいこと何てフウマにバレバレだろう。

「ふふっ。本当に今日も良く頑張ったな。
よしよし。」
「…っ!」

 フウマはそう言うとボクの頭を優しく撫でてくれる…。
ここまで含めて毎日の恒例のやり取りだった。
最初はてっきりココロやクウガにもしている事なのかと思っていたけど、今まで過ごしてきて一度も見たことがないのでどうやらボクにだけしている行為らしい。
これはボクが見習いとの事だから、半人前扱いされてるからなのかな何てちょっと思ったりもするけど。
でもそう言うちょっとした不満以上に。

 最初にされた時からずっとそうだけれど、
フウマに頭を撫でられるのはとてもあったかくて気持ちがいい…。
何だか心の内からボクの事を肯定してくれているような、そんな錯覚を覚えて胸がポカポカする…。 
人の手が触れるというだけでこんなにも気持ちが温まるなんて事は、ボクはフウマと出会うまで知らなかった。
本当にボクは知らない事だらけだ…。

 とても恥ずかしい事だけれど、このまま手がずっと離れなければいいのになんて考えてしまう…。


「ふふーん。子羊くんはすっかりオレの掌に魅了されたようだな!
まあ王たるオレの神聖な掌で撫でられているんだ、無理もないな!」
「はっ!い、嫌魅了されてなんてな、ないから…。」
「ははっ照れなくてもいいいと言うのに!」
「て、照れてないよっ!」

 ボクは恥ずかしさで、思っているのと真逆な否定の言葉が口から出てしまうというのに。
そんな事すらお見通しとばかりにフウマは優しく笑っている…。

 そう、フウマがいう事は正直かなり図星だと思う。
日に日にフウマが持つ独特の魅力に魅了されていっているのを、自分でも否定出来なくなっている。
そういった感情を照れや恥ずかしさで、自分でも上手くコントロール出来なくて。
だから口から出てくるのは それを否定するようなぶっきらぼうな台詞ばかりで、そんな素直になれない自分にも嫌気が差してしまうけど…。


 多分フウマはそんなボクの気持ちすら分かって、受け入れて、接してくれているんだと感じる 。
――それを凄く嬉しいと思ってしまうんだ。




「それじゃあ今日はもうさようならだな!
明日からも皆オレの家来として宜しく頼むぞ!!」

 そのフウマの最後の一言で今日の解散となり、ボクは帰路についた。



 帰りの道すがら、ボクは色々思考をしていた。
本当にボクが新しく関わる人達はみんな優しい。
3人も、活動で知り合っていく人達も。
そこは一人で諦めていたボクじゃ見ることが出来なかった景色で、そんな景色の一員にボクも入れて貰えている事がとても嬉しく思うんだ。


 でも同時に本当にこのままでいいんだろうか?って焦燥感にも凄く駆られている。

 ボクはみんなと比べたら本当に大した事ができていなくて、みんなに貰った嬉しさを全然返す事ができていなくて…。
そう、今日の様子からも分かる様にフウマ達はボクを急かすような事は一切しない。
二の足を踏んでるボクへなぜ能力を使わないのか?なんて聞かれた事は一度もなかった。

 活動場所で関わる人達と違ってボクを能力者だと知っているし、そもそもボクを仲間に誘ったのはボクが同じ能力者だからだというのにだ。
ただ見守ってくれている。

 正直それが嬉しくもある(とも感じている自分が凄く嫌だ)けれど、同時に自分はズルをしているんだって罪悪感が余計に沸き上がってくる。

 ボクの今いる場所はとても優しい。
でも優しい・優しすぎるからこそ、それに甘えてばかりいる自分の醜さも分かりやすく浮き彫りになってしまう。
それが苦しくもあって。

 嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちとが綯い交ぜになった場所で、ボクはただ佇んでいた。

 

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