迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

7. 生まれ変わった日があるとするならば

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 それから帰りのバスの来る時間になり、バスに乗った。
フウマは清掃中に能力を使いすぎて疲れたのか、バスの移動中は眠っていた。
普段あれだけ騒がしいだけに眠ってると綺麗な顔がより際立って、何だかお人形さんみたいな寝顔だななんて、ぼんやりとしながら思った……。





 フウマが眠ってる事で話しやすい事もあってか、ココロとクウガがフウマの事について色々教えてくれた。

「フウマくんはね…今日みたいに…色んな所で能力を使ったボランティアや…人助けなんかを…やってるんだよ…。
ぼく達は…フウマくんに誘われて協力してるんだ…。」

 フウマくんはそれを下々の民の為の王のまつりごとなんていってるけど、とココロは付け加えた。

「フウマくんが問題児扱いされてるのは能力使う事に躊躇が本当にないから。
人助けの為にやってる事でもあれだけ大きな力っすからたまに・・・いや、本当に極たまにっすが!
失敗して暴風が吹き荒れる事があって、それが噂で巡り巡ってって感じっす。」

 功績を周囲に触れ回る様なのは王らしくないって活動も大っぴらにしてないすしね、とクウガが続けた。

「フウマくんは…本当は…常に人の為に動くことを考えてる…優しい人なんだ…。
あの誤解を受けやすい言動や…態度だってきっと…意味ある事だって…ぼくは思う…。」
「自分もそう思うっす。
あの王様とか家来とかのおかしい……いや!
ユ、ユニー…ユニークな!言葉を使うのは、多分自分は人の上に立てる様な強いで存在でいたいっていう気持ちの表れや、自身を鼓舞する意味があるんじゃないかと思うっす!」

 なので家来だからコキ使おうとかそういんじゃないんすよ!とクウガが言う。



 色んな衝撃と疲れから上手く回らない頭で思考する。

 フウマがそんな奴だって全く思わなかった……。
ボクはフウマの事を全く理解していなかった……。
いやもしかしたらボクは能力者なんだから迷惑で嫌な奴に決まっていると、最初から決めつけて、
最初から理解しようとすらしてなかったのかも知れない。





――ボクが能力者だから――。 



――ボクも能力者なのに……。









 やがてバスは行きで使った学校から最寄りのバス停へ止まった。
眠ってたフウマも起き出して、ボク達はバスから降りた。

「くーー!!帰りはよく寝てスッキリした!
ココロ、クウガ、今日も王たるオレの家来をしっかり務め上げてくれてありがとう!
そしてこれからも宜しく頼むぞ!!」
「もちろん…。」
「当たり前っす!」

バス停の前で3人が会話を交わしていると、やがてフウマはボクに向き合った。


「そして子羊くん!
今日は家来を手伝ってくれてありがとう!
君が共に来てくれた事がとても嬉しかったぞ!!」
「いや、ボク全然作業に貢献なんてできてなかったし……。」
「いやいやこう言った事は誰にでも出来る事じゃない!
だからこそ最初の一歩が肝心なんだ!
民の為に力を尽くしたというその事実がまず何より素晴らしいことなんだ!!」


 君のあの素晴らしい力を見れなかったのは残念だがな!とフウマが続けた。





 今日は何だかやたら褒められるけど、正直困惑の方が強い……。


 よく考えたら……今までずっと自分を抑え込む様に生きてきたからかな……?
……人に褒められた経験なんて全くなかったかも知れない……。
ボクは褒められられてないんだ……。






 ・・・いや?
それも正確には違うかも知れない……。
この王様は自分を絶賛するのと同じ位人の事もよく褒める。
ボクの事だってずっと素晴らしい!と、
素晴らしい力だと、褒めていたじゃないか……。






――ボクがそれに目を向けようともしなかっただけで――







「だから子羊くんはそれをもっと誇ろう!!
よしよ~し~!

良く頑張ったな……。」


「っ~!!」


 そういってフウマはボクの頭を優しく撫でた……。



 頭を人に撫でられる何て下手したら初めてかも知れない……。


――何だか胸がとても温かい―― 。


 自分でも今自分がどうなっているのか理解できない……。
泣きたくもないのに涙が込み上げてくる様な、……それなのになぜか凄く心地が良い……不思議な感覚だ……。


 フウマに頭を撫でられる事で今日の事だけじゃなくて、抑え込んできた今までの自分ごと掬い上げて貰った様な……そんな錯覚を覚えた……。



――自分の気持ちなのに……全然自分でわからないのに……
それなのに、とってもあったかいんだ――。








「それじゃあ今日はこれで解散だ!
ココロ、クウガ、また明日!
子羊くんももちろん明日も来てくれるよな?
大歓迎で待っているぞ!!」







 そうして別れを告げられてもボクは、離れていってしまった暖かいぬくもりの余韻に浸ってただ佇むばかりで、何の言葉も返す事ができなかった……。








 その日の帰り道は、自分自身でも処理できないふわふわした柔らかい感覚に、足を進めるのすら儘ならない中なんとか必死で歩いた。



 自分が生まれ変わった瞬間なんていうと大袈裟過ぎるかも知れないけれど、人生に二度目の誕生日なんてものがあるとするなら、この日の事だったんじゃないかって…ボクは思う……。







――この日からボクは自分が知らなかった新しくてとても暖かな世界へ足を踏み入れたんだ――
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