迷える子羊少年と自称王様少年

ユー

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子羊少年と王様少年

2. 子羊少年と王様少年

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 ボクの希望的観測も虚しく、その次の日もあの自称王はボクの前に現れた。
今日はもう平穏に過ごせたと思って油断していた放課後、帰り支度を終えて教室から出ると、彼は風を吹かせながら登場する。

「なんでいるーーーっ!」
「なんでってそんなの昨日転校してきた生徒はどのクラスにいるか聞いて知ったからだ!
また会えたな…嬉しいぞ迷える子羊くん!!」

 相変わらずテンションが異様に高い。
というか昨日も言ってたけど何その呼び方?

「迷える子羊って?」
「昨日君を家来に誘った時の顔がなんとなく人生の迷子?といった風だったからそう呼んだんだ!」
「いやどんな顔!?」
「ああそうか!まだ自己紹介をしていなかったな!
オレはすめらぎフウマ!王をしている者だ!!」
「え、えっとボクは都築ソウジだけど…って違うーーーーーーっ!」

 どんどん相手のペースに飲まれていく。
このままじゃいけない。

「えっと君がいう王って何?
それに家来ってボクそんなのならないって昨日言ったよね?」
「王とは生まれながらにして崇高な力をこの身に宿した至高の存在・つまりこのオレのことだ!!
家来とはそんな偉大なオレの活動を支援する尊い使命を与えられた存在のこと。
昨日はいきなりだったからてっきり照れてしまっったのかなと思い再び誘いにきたんだ!」

「あー……完全に頭いっちゃってる人だった……」
「頭?確かに偉大なるオレの頭脳はとても聡明だぞ!!」


 能力が崇高な力って……。
それを持って生まれたのが至高って……。
能力者なんて人から迷惑な存在としか思われてないというのに……。
完全に関わっちゃいけないタイプの人だった。
そんな危険人物に目を付けられてしまった。


「偉大なるオレの家来を務める人物だ!
それに相応しいのは君のような素晴らしい力を持った「わーわーわーわーわー!!!」

 何を往来でボクの力のこと話そうとしてるんだこの人は!
放課後とはいえまだそれなりに学校には人がいる。
もし聞かれでもしたらボクの平和な学校生活はパーだ!

「なんだ急に大声を上げたりして?
もしや俺の美声があまりに素晴らしくて興奮してしまったのか!?」
「そんなんじゃない!
なんでそんなに無駄に自信たっぷりなんだよこの人…。
そうじゃなくて人に聞こえるような声で力の話とか……やめてよ…。」

 ボクが声の大きさに注意して言うと、自称王こと皇フウマは心底不思議そうな顔をした。

「もしかして力のことを隠しているのか?
なぜだ!?あんな素晴らしい力なのに!?」
「なぜって……そんなのボクは……普通でいたいからだよ!
だからボクは君の役には立てないし家来にもならないよ!」

 そうボクがはっきり言っても、彼はまだ納得していない顔で食い下がってくる。

「いやいやあんな素晴らしい力を使わないなんて勿体ない!
だから君は偉大なオレの家来になり力を役立てるべきなんだ!
さあ!さあ!遠慮せず共に歩もう!!」

 この人やっぱり全然話しが通じない。
もうどうしたらいいんだと頭を抱えていると、

「都築くん? 誰と話して……ってお前は!?」

 ボクを目にかけてくれているらしい委員長が、たまたま通りかかったようだ。

「お前確か暴風魔って呼ばれてる奴だよな!?
お前みたいな奴が都築くんに何のようだ…?」

「オレのことを知ってるなんて君はオレのファンか!?オレのファンに会えるなんて今日は良い日だなぁ!!」
「は!?なにを言っているんだお前は?
都築くんが明らかに怯えてるだろ?
ただでさえ都築くんは転校したばっかりで不安なんだ。 
都築くんから離れろ!」

「心配には及ばないよファンボーイくん!
子羊くんはオレから溢れ出すあまりに眩しいオーラに照れてしまってるだけ、君と同じさ!!」

「はー!?明らかに迷惑そうだろ!
お前頭おかしいのか!?」

 こっちもこっちでやっぱり全然噛み合ってない……。
でも一人でどうにか出来そうもなかったので、委員長が来てくれて正直助かった。
委員長はボクとフウマの間に入るように近寄って来てくれた。

「都築くん大丈夫か?あいつに何か変なことされてないか!?」
「うん…大丈夫だよ…。
それより助けてくれてありがとう!」
「それならよかった。
はぁ……本当能力者って人に迷惑かける最低な奴らばっかなんだな。」

「っ~!!」


 委員長のその言葉にボクが少し固まっていると、やっぱり収まるわけもなくフウマがまた割り込んでくる。

「ファンボーイが二人で何の話をしているんだ!?
オレの推しトークならオレを混ぜろ!」

「また分けの分からないことを……。
都築くん!コイツは俺がなんとか相手をしておくから、都築くんは先に帰って大丈夫だよ!」

「…ありがとう。助かるよ!」

「なんだ今日もまたすぐ帰ってしまうのか。
子羊くんは照れ屋さんだな~!」

 とはいえ助け舟を出してくれたなら、それに乗らない手はない。
ボクは委員長の言葉に甘え、この場を委員長に任し逃げることにした。


「子羊くんさよなら!また明日も会いに来てやるからな~!!」


――という後ろから聞こえてくるあの自分大好き少年の声を聞こえないふりをしながら……。





 走るようにして通学路を帰る道すがら、さっきの委員長の言葉がフラッシュバックする。

――能力者って人に迷惑かける最低な奴ら――

 何もフウマが特別なわけではなく、それはこの世の中の能力者に対する当たり前の評価だ。
ボクも端から見たら同じようなものなんだろうか……?
委員長もボクが能力者だって分かったらきっと……。
マイナスな感情が溢れてきて、力が漏れだしそうなのを何とか押さえながら、ボクは足を踏み締めて歩いた。

――やっぱりボクは普通になりたい――

そう思いながら歩いた。
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