迷える子羊少年と自称王様少年

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子羊少年と王様少年

1. 一昔前のラブコメのような出会いは最悪!?な馴れ初め

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 ――スーッっとボクは気持ちを落ち着かせるために深い深呼吸をした。
今日は引っ越して来て転校初日、時間はやっと放課後。
なんとか上手くやれたと思う。

 自己紹介やその後のクラスメイト達からの質問、授業中や休み時間も少しもボロを出さずにここまで来れた。
後はもう帰るだけだとゆっくり席を立とうとすると、

都築つづきくん! ちょっと今いいかな?」

 後ろから声を掛けられた。
振り替えって見ると男女の二人組………確か男子の方がこのクラスの学級委員長で、女子の方が副委員長を務めてる二人だったかな?

「別に…大丈夫だけど、二人にボク何か失礼なことしたかな?」
「あーイヤ違う違う、そういんじゃない。
ただ都築くんは転校してきたばっかでこの学校のことあんまりしらないだろ?」
「だからもしよかったらでいいんだけど、私たち二人で一緒に都築くんに校内の案内をしようかなって話になったんだけど、どうかな? 」

 どうやらこちらが粗相をしたわけではなかったようでまずは安心したけれど、早く帰ろうと思っていたところにこれは困った。

  二人ともとても温かな目をしていて、純粋な親切心で転校生のボクを気遣って誘ってくれることがわかるだけにとても断りづらい。
そんなボクの表情が伝わったのか、

「あー…こっちが勝手に誘ってるだけだし断っても全然いいんだぜ。
都築くんの為ってよりは俺達がもっと都築くんと話して仲良くなりたいってのが大きいしな !」
「そうそう、私達まだお互いのこと全然知らないからきっかけになればなんて思っただけだから。
だからまず学校のことからなんて思っただけなの。」

 キラキラした眼差しがとても痛い。
こういう真っ直ぐな好意を向けられたら、逆に抗いづらい。

 「う~うん……。
でもボクも移動教室の場所とか分からなくて困るなって思ったし、せっかくだから案内して……貰おうかな……?」

 二人の目が一際輝いた。
結局断ることはできず、二人と一緒に校内を散策することになった。
――大丈夫後少しの辛抱!






 それから数十分間主要な教室の紹介をして貰い、たった今最後の教室の案内も終えてやっと帰れると思っていた頃、
 窓からブォーーーンっとても強い風が吹いた音がした。
――しかもこちらに近づいてる?

 「急に凄く強い風だね。
天気予報で風が強いなんて聞いてなかったのに」
「いやあれは多分天気の風じゃないぜ…。
あれは多分…暴風魔……。」

 そういう委員長はさっきまでとはうって変わってとても怖い顔をしていた。

「暴風魔って?」
「ああー転校生の都築くんはもちろん知らないよね。うちの学校にもいるんだよ……がね」

 彼の能力者という言葉に一瞬にして心が冷えた…。
能力者はつまり超能力を使える人間のことだ。
超能力がフィクションだけの世界だったのは今は昔の話。
現代では数こそ希少なものの、特殊な力を持つ人間として広く知られ認知されている。
・・・でも……

「暴風魔っていうのはその人の使う風を起こす力と名前をかけたあだ名なの。」
「躊躇なく能力を使う問題児らしいぜ。
学校だけじゃなく色んな場所で問題起こしてるって聞く。」

委員長の顔がどんどん不機嫌になって行く。

「俺能力者って大嫌いなんだよ。
いるだけで周りに迷惑をかけるし問題を起こす…。」
「私もあんまり良いイメージないな~。」

 超能力者がスーパーパワーで世界を守るヒーローみたいな、普遍的なイメージはフィクションの中だけのものだ。
実際は力をきちんとコントロールできていないものも多く、また身体や精神の不調などにも左右されやすく、力を暴走させてしまう者も多い。
それに力を上手く使えるものは逆に犯罪等に走ることも多く世間的なイメージは概ね厄介者ってところだ。

 二人の言葉にただでさえ転校初日のプレッシャーでいっぱいいっぱいだったボクの心は、どんどん余裕を無くしていく。

「そうなんだ…。
ボクもあんまり能力者は好きじゃないかな…。
あ、でも天気関係ないならもう帰ろうかな!」
「なんなら一緒に「いや大丈夫!急いでるし、道も分かるから!」

 そういってボクは今度は誘いに乗らずに一目散に二人の前を去った。
――もう限界だった。










 そしてボクが向かった先は校内玄関・・・ではなく、二人に説明を受けてる時にあらかじめ目星を付けていた人気のない教室。
人がいないのを確認し中に入った。
――はぁ~なんとか大丈夫だった……。

 壊れものもないシンプルな作りの教室。
ここなら大丈夫なはず。
ボクは深呼吸をし一旦落ち着いた後、一転ふらふらな身体に力を込めた。
 
――すると、教室中の机と椅子がまるで宙に浮かび上がっていく。





 ――そう何を隠そうボクも能力者だった…。





 物体に念動力を送るという世に聞く超能力のなかでも一際ポピュラーな、いわゆるサイコキネシスの力、それを扱う者。

 とりわけボクは精神的な不調が能力の暴走にも直結してしまうタイプで、さっきまで気が気じゃなかった。
それでも力を人前で見せて能力者とバレるわけにはいかないとなんとか我慢した。
ボクは普通でいたいのだ。

 そんな状態だったから最初気付かなかったのだろう。
ボクを教室の外側の窓から除く人影があったことに…。


――そして気付いた瞬間ボクはパニックになる――


バレた!?
転校早々能力者だってバレってしまった!?
どうしようこれからの生活どう過ごせばいいんだ!?
もう人生終わりだ~~!!


 そんな思考でぐるぐるになっていると、その人影は教室に入ってきた。

 窓越しではよく見えなかったが、入ってきたのはとても整った顔立ちをした少年だった。
男子にしては長い髪が風に揺れる様がとても綺麗で、同性なのに思わず状況も忘れて見惚れてしまう。

 でも…あれ…風?
教室には風なんて吹いてないのに?
あれそういえば風がどうこうってさっき聞いたような……?


「なんだーーーっ!その力はーーーっ!?」


 少年は儚げな見た目に反するとても大きな声で話かけてくる。

「物を浮かすってサイコキネシスというやつか!?
初めてみたが大変素晴らしいな!
もちろん偉大なオレの風の力の素晴らしさには及ばないがそれでも凄いな!
部屋中の机という机・椅子という椅子が浮かんでいる!
その力もっとオレに見せてくれ!!」

 何やらマシンガンで話してくる。
え?力を使ってるのを見られてそういう反応……?
でもこの人も能力者ならこんなものなのか……?

 そんなボクの思考を他所にマシンガントークは続く。

「見かけない顔だが転校生か!?
だよな!じゃなかったら嗅覚の鋭いこのオレが知らないなんてありえないしな!
その素晴らしい力は偉大な王たるオレの側にふさわしい!!
よし決めた!今決めたぞ!
君を王たるこのオレの新しい家来にしてやろう!!
光栄だろう?
え~とまだ名前聞いてなかったな
とりあえず呼び方は……迷える子羊くん!
今日から君はオレの家来だ!!」


 何かとても凄いことをノンブレスで捲し立てられてる….。
王……?家来……?
何いってるのこの人……?こわい……。
はっきりいってドン引きだ……。
それに力が素晴らしいって……冗談じゃない。
ボクはこんな力なんて持たず普通でいたいのに。


「あ、あの…ボク家来?になんてなりませんから!
もう帰ります…さよならーーーっ!」


  自称王様の美少年に声を振り絞って答えると、ボクは能力をなんとか解いて逃げるように一目散にその場から立ち去った。



 転校早々最悪だ!
せっかくなんとか上手くやり過ごせていたと思ったのに、最悪のスタートダッシュになってしまった……!
でもお互い名前すら知らないのだし、もう会う事もないよね……?
そう自分に言い聞かせて、あの自称王様がボクのこと言い触らしたりしないことを祈りながら、その日は帰路に着いた。


 
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