【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

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暗い決意3

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(エミーユ。エミーユが俺の腕にいる……!)

 エミーユを抱いたマリウスに込み上げてくるものがある。
 エミーユの体温に、エミーユと過ごした夜のことが鮮明によみがえった。
 視界を遮られた上での感覚は強烈に残っている。

(俺はどれだけあなたを欲したことか)

 マリウスはもうエミーユから離れる気がしなくなった。
 エミーユに触れたことでもうエミーユへの想いは止めることができなくなっていた。
 会えただけで幸せだ、などという殊勝な気持ちは、エミーユを胸に抱くとともに消え失せていた。
 マリウスのエミーユへの感情は、償いだの恩返しだの、そんなきれいなものではなかったことを今更ながらに自覚していた。
 むき出しになってしまえばマリウスのエミーユへの欲望は醜いものだった。

(エミーユに触れたい。中に分け入りたい。犯したい)

 そしてそれをしても誰にも責められないだけの地位にマリウスはいる。

(ごめん、エミーユ。俺にはあなたを手離すことなんかできない)

 そう考えながらエミーユを見るマリウスの顔には苦しみがにじんでいた。

(憐れなエミーユ。俺を助けたばかりに俺に目をつけられて。俺から逃げ出したは良かったが、もう一度見つかってしまった)

 行き先を王宮の本殿から、客殿への変更を護衛隊長に告げる。

「馬車を客殿に」
「えっ?」
「いいから、客殿だ」

 護衛隊長は目を丸めると口元をニヤつかせた。

「陛下、あんた、楽長さんと………。そりゃあいいぜ、堅物のあんたがほだされたとあっては全面協力だ」

 ドアが閉まれば、マリウスの腕の中のエミーユは目に非難を浮かべた。しかし、抵抗もままならず、悩ましく息を乱している。あえかな息遣いの隙間に声を漏らす。

「はなれて、ください……。へいか……」

 マリウスがエミーユの頬を撫でると、ビクンとエミーユの背中が震えて、エミーユは官能にあえいだ。切なく見返しながらも、首を微かに横に振った。

「い、や……」

(どうして拒否する? 俺にそれほどまでに発情しておいて、俺を拒否など)

 マリウスは荒くなる息の下でエミーユを抱き寄せて囁いた。

「エミーユ、ごめん、あなたを奪うことにした。あなたを俺のものにするよ。俺のつがいにする」

 エミーユを自分のものにする、マリウスは暗い顔つきでそれを決意していた。

(俺が女兵士を忘れさせてやる。忘れなければそれでもいい。あなたの気持ちなんか関係ない。嫌がってもどうしてでも俺のものにする)

 エミーユが目を見開いて首を横に振った。

「いや……!」

 マリウスがエミーユを抱きしめればエミーユは目には抵抗を浮かべて、苦しそうにいやいやと首を横に振って逃れようとしたものの、その力は弱弱しい。赤く誘うように開いた口をマリウスはふさいだ。

「んっ……んんっ……」

 マリウスは自身の脈動を感じるほどの興奮を覚えながら、エミーユを腕に捕えていた。




 客殿の玄関ロータリーに止まった馬車から、宮廷楽長を胸に抱えた皇帝が降りてきた。
 楽長は急病なのか。
 皇帝の手を煩わせぬよう従者らが近づこうとすれば、皇帝が威圧を発し、彼らを近寄せなかった。

「俺はしばし、こもる。兵団の出立は予定通りに行う。指揮はリージュ公に。俺はあとで追いつく」

 宮廷楽長は眉を悩ましそうにゆがめて皇帝に抵抗しているようにも、皇帝に心奪われてうっとりと見つめているようにも見えた。
 皇帝は、そんな宮廷楽長をひたすら愛おしげな目で見つめていた。
 客殿の中に入るときにも、二人は視線を絡め合ったままだった。
 従者らは、唖然とした顔で見送るしかなかった。

 中に入ればメイドらが、やはり皇帝の手を煩わせまいと急病らしい宮廷楽長に手を伸ばそうとするも、皇帝は彼らを近寄せない。
 皇帝は、まるで宮廷楽長が誰かに触られると、溶けてなくなってしまう雪のような儚い存在だと思い込んでいるように見えた。
 二人からはただならぬ気配が立ち込めている。

「誰も部屋に近づけてはならぬ」

 客殿の最奥へと姿を消したその背中を、メイドらもまた、唖然とした顔で見送っていた。
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