【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

文字の大きさ
上 下
39 / 78

こうして伝説は生まれる2

しおりを挟む
 マリウスは部屋に戻ると、ロイを丁寧にソファの上に下ろした。
 ロイにひざまずく。

『エ、エミ………。エ、エミ………』

 喉がつかえて何も話せない。ただ涙が出てくる。

『エミ……、顔を見せて……』

 ロイは茶目茶髪だった。そのことはマリウスにロイがエミーユであることを確信させた。しかし、ロイはエミーユより二十歳近く年上だった。

(エミーユ、成長した……? 想像以上の成長ぶりだ……! 二十年分は成長したようにに見える。ハッ、もしかして、サバ読んでたのか……? ああ、年なんかどうでもいい、とにかくエミーユ、会いたかった)

「へ、へいか……?」

 ロイは何が起きているのかわからないながらも、皇帝陛下が自分を熱のある目で見つめてきているのだけはわかった。

「陛下………」

 ロイは獣人でも妖人でもなく、純人だし、二十年も寄り沿う妻もいたが、情熱的な目で見つめて来られると、胸の中で高まるものがあった。
 しかも、相手は、ほれぼれするほどの見目の良い皇帝だ。
 皇帝が、ロイの手を取り、さも愛おし気な目で見てくる。
 ロイは気が変になりそうだった。

「へ、へいか……」

 皇帝には匂い立つような男らしい風情があった。そんな男が顔を切なげにゆがめて見つめてくるのだ。

『どうか、マリウスと。あなたに会いたかった』

 ロイには皇帝が何を言っているのかよくわからなかったが、感極まった声を出した。

「へへ、陛下……!」
『もう、あなたを離さない。また、出会えた。約束だ。俺と一緒になってくれるでしょ?』

 ロイは、皇帝が何かを懇願しているのはわかり、うなずいた。
 皇帝が歓喜に目を輝かせた。
 皇帝はロイが感激するほどの優しい手つきで、ロイを引き寄せ胸にロイを抱きしめた。
 ロイは思わず声を漏らした。

「わあ、あったけえ。皇帝さまの胸、すごく頼もしくてあったけえだ」

 皇帝は、胸に抱きとめたロイをスンスンと嗅ぐと、愕然とした顔でロイを体から離した。

『ちがう……、匂いがちがう……。あなたはエミーユではないのか……?』

 ロイからはエミーユの匂いはしなかった。わずかに残っていたが、ほとんど消えていた。

「エミーユ?」

 ロイは聞き取った単語を聞き返した。
 そういえば、ロイの肩からは楽長から借りた肩掛けがどこかになくなっていた。連れて来られる間に、どこかに落ちたのだろう。

『エミーユを知ってるのか?』
「エミーユ? 俺が知ってるエミーユと言えば楽長に料理長でさあ。楽長はいつも俺のことを気にかけてくれるし、料理長はケーキのはしっこを俺に持たせてくれる良い人だよ。俺んち、子が七人もいるからよ」
『お願いだ、エミーユがどこにいるのか、教えて欲しい』
「陛下もケーキの端っこを食いてえがか?」

 戸惑うロイが寒そうに身を震わせたのを見て、皇帝は、自分の上着を脱いで、ロイの肩にかけた。

『お願いだ、この上着をあげるから、エミーユを連れてきて欲しい』
「この上着、俺にくれるがか? もしかして、陛下は俺の上着が猫にしょんべんを引っ掻けられたってことも見通してるがか?」

 皇帝はうなずきながら部屋の入り口のドアを開けた。

『頼む、エミーユをここに連れて来てくれないか。お願いだ』
 
「すんげえ! さすが皇帝さまだ! 何でもお見通しだ。ありがとうごぜえやす! ありがとうごぜえやす! エミーユに用があるがね? ここに寄越すがよ!」

 マリウスは感極まった声を出すロイを見送った。
 マリウスは、エミーユを待ったが、エミーユがマリウスを訪れることはなかった。
 その代わり、何故か料理長がにこにこしてやってきたが、エミーユの匂いはしなかったし、せっかく来てくれたので、料理がうまかったことを片言とジェスチャーで伝えて、ポケットに入っていた懐中時計を渡した。
 料理長は感極まった顔でそれを受け取った。

 その夜、皇帝陛下がホールで使用人たちをねぎらい、使用人には上着を、料理長には金時計を褒美に与えたという話が王宮じゅうを駆け巡っていた。

 ――陛下が懐中時計をくれたんだよ! ちょうど時計をなくしたところだったが、まさかこんな上質なものをいただくなんて。
 ――皇帝さまは、俺の上着にしょうんべんがひっかけられたことまでお見通しだっただ!
 ――じゃあ、俺が時計をなくしたのもひょっとすると知ってたのか。
 ――そうに違いねえ。
 ――さすが皇帝陛下だ!
 
 こうして伝説が出来上がっていく。
  
 その夜、結局エミーユに会うことはできなかったが、それでも、マリウスは希望に満ちていた。

(エミーユはここにいる。ここ、エルラント王宮の使用人をしているはずだ。そうだ、茶目茶髪の使用人を女王に集めてもらおう)
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

【完結】おじさんはΩである

藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ 門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。 何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。 今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。 治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】恋愛経験ゼロ、モテ要素もないので恋愛はあきらめていたオメガ男性が運命の番に出会う話

十海 碧
BL
桐生蓮、オメガ男性は桜華学園というオメガのみの中高一貫に通っていたので恋愛経験ゼロ。好きなのは男性なのだけど、周囲のオメガ美少女には勝てないのはわかってる。高校卒業して、漫画家になり自立しようと頑張っている。蓮の父、桐生柊里、ベータ男性はイケメン恋愛小説家として活躍している。母はいないが、何か理由があるらしい。蓮が20歳になったら母のことを教えてくれる約束になっている。 ある日、沢渡優斗というアルファ男性に出会い、お互い運命の番ということに気付く。しかし、優斗は既に伊集院美月という恋人がいた。美月はIQ200の天才で美人なアルファ女性、大手出版社である伊集社の跡取り娘。かなわない恋なのかとあきらめたが……ハッピーエンドになります。 失恋した美月も運命の番に出会って幸せになります。 蓮の母は誰なのか、20歳の誕生日に柊里が説明します。柊里の過去の話をします。 初めての小説です。オメガバース、運命の番が好きで作品を書きました。業界話は取材せず空想で書いておりますので、現実とは異なることが多いと思います。空想の世界の話と許して下さい。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

さよならの向こう側

よんど
BL
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 ※2026年春庭にて本編の書き下ろし番外編を無配で配る予定です。BOOTHで販売(予定)の際にも付けます。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様

事故つがいの夫は僕を愛さない  ~15歳で番になった、オメガとアルファのすれちがい婚~【本編完結】

カミヤルイ
BL
2023.9.19~完結一日目までBL1位、全ジャンル内でも20位以内継続、ありがとうございました! 美形アルファと平凡オメガのすれ違い結婚生活 (登場人物) 高梨天音:オメガ性の20歳。15歳の時、電車内で初めてのヒートを起こした。  高梨理人:アルファ性の20歳。天音の憧れの同級生だったが、天音のヒートに抗えずに番となってしまい、罪悪感と責任感から結婚を申し出た。 (あらすじ)*自己設定ありオメガバース 「事故番を対象とした番解消の投与薬がいよいよ完成しました」 ある朝流れたニュースに、オメガの天音の番で、夫でもあるアルファの理人は釘付けになった。 天音は理人が薬を欲しいのではと不安になる。二人は五年前、天音の突発的なヒートにより番となった事故番だからだ。 理人は夫として誠実で優しいが、番になってからの五年間、一度も愛を囁いてくれたこともなければ、発情期以外の性交は無く寝室も別。さらにはキスも、顔を見ながらの性交もしてくれたことがない。 天音は理人が罪悪感だけで結婚してくれたと思っており、嫌われたくないと苦手な家事も頑張ってきた。どうか理人が薬のことを考えないでいてくれるようにと願う。最近は理人の帰りが遅く、ますます距離ができているからなおさらだった。 しかしその夜、別のオメガの匂いを纏わりつけて帰宅した理人に乱暴に抱かれ、翌日には理人が他のオメガと抱き合ってキスする場面を見てしまう。天音ははっきりと感じた、彼は理人の「運命の番」だと。 ショックを受けた天音だが、理人の為には別れるしかないと考え、番解消薬について調べることにするが……。 表紙は天宮叶さん@amamiyakyo0217

処理中です...