【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

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こうして伝説は生まれる

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 いてもたってもいられなくなったマリウスは、客殿を出た。

「お前も夜遊びする気になったか、結構結構」

 隣で冷やかしてくるリージュ公に憮然とした顔を向ける。
 庭には、晩餐会の後のひとときを楽しんでいるらしき、紳士淑女が残っていた。
 マリウスを見ると「きゃあ! 皇帝陛下!」とぞろぞろと集まってこられそうになって、マリウスはくるりと背中を向けた。

「きゃあ、リージュさまぁ!」

 注目がリージュ公に移ったのを良いことに、マリウスは影を選んで移動する。
 ホールに向かうと、使用人が片づけをしていた。
 そこでも、使用人に気づかれて、注目を集める。

 ――陛下だ
 ――アウグストさまだ

 マリウスが、片手を上げて応じてみせると、「おお!」とどよめきが起きる。
 仕方なく、ねぎらいの声をかけた。

「あなたがたのおかげで、今日は、素敵な晩餐会を過ごせたよ」

 使用人らがどっと沸く。

 ――なんて言っただ?
 ――わかんねえけど、多分、ねぎらってくれただ。
 ――陛下は俺たちをわざわざねぎらいにホールまで来ただか?!
 ――もう、おれ、死んでもええだ!

 マリウスはエミーユの匂いがないのを確かめて、廊下に出た。廊下でも影を選んで移動する。
 そのとき、ふわっと匂ってくるものがあった。

(エ、エミーユ……?!)

 マリウスは匂いがする方向に足を向けた。
 それは西棟の方から漂ってくる。
 西棟に入ると匂いは強まった。

(これはエミーユだ、間違いない……!)

 マリウスは確信し、歓喜にあえいだ。
 折しも、向こうから人影が近づいてきた。
 皇帝だとわかったのか、その使用人は廊下の端に寄ると頭を下げた。
 マリウスが近づけば、エミーユの匂いは強まった。

(エ、エミ……!)

 マリウスがよろよろと使用人のもとに近づくと、立ち止まったマリウスに使用人は恐る恐る顔を上げた。

(ああ、間違いない、彼からエミーユの匂いがする)

『べ、ベビージュ……! ぼえ、バリウズだびょ……』

 マリウスは歓喜のあまりに声がうまく出せなかった。
 呆けた顔でマリウスを見上げてくる使用人を、マリウスはガシッと胸に抱きとめた。

(………?! 背の高さも、抱き心地も違うような。エミーユはもっと華奢だった……。しかし、この匂いはエミーユ。ああ、エミーユは成長して、背が伸びて、体もがっちりしたんだ)

「陛下……。あの……?」

 マリウスに抱きしめられているのはロイだった。肩にエミーユの肩掛けをかけている。マリウスの嗅いでいるのは肩掛けの匂いだった。しかし、歓喜にむせぶマリウスは、そのことに気づかなかった。

ばいだがっだあいたかった……』

 そこからのマリウスは素早かった。ロイの体を肩に担ぎ上げると、すごい勢いで、客殿へと戻った。

「へ、へいかっ……?!」

(声も違うような気もするけど、エミーユはあのときまだ成長途中だったんだ。あのあと、声変わりしたんだ。俺だって大きくなったし声も低くなった。エミーユだって成長して変わってるはずだ)
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