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女王陛下との出会い

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 エミーユが気が付けば、ベッドに横たわっていた。簡素なベッドだが上等なものであることがわかる。
 清潔なシーツがことのほか気持ち良かった。
 体を起こすと、そこは小部屋だった。やはり簡素だがとても丁寧な作りの部屋だった。
 窓にはガラスが収まっており、分厚いカーテンが垂れさがっている。
 サイドテーブルには花瓶に花が生けられており、その花の匂いを爽やかに感じた。
 窓の手前の書き物机の上に、バイオリンがあった。下にはクッションが敷かれていた。いかにも大切に扱われている。
 自分の体を見下ろせば、肌触りの良い薄手のガウンのようなものを着せられている。汗と汚れでごわごわしていたはずの髪は、洗われたのかさらさらとしていた。
 起き上がって、ぼんやりしていると、メイドがドアを開けて「きゃ」と小さく叫んだ。メイドがバタバタと廊下を去っていく音が聞こえる。
 しばらくして、メイドがトレーを持ってきた。数多くの小皿に、パンやら果物やら、いろいろなものが少しずつ乗せられている。

「食べたいものをお食べください」

 エミーユは戸惑っていたが、「さあ」とトレーを出されて、柑橘の皿を取った。

「おいしい……」

 エミーユのその声を聞いて、メイドがまたバタバタと廊下を走り去ったかと思うと、今度は、柑橘のいっぱい入った皿を持ってきた。
 ここのところ、ほとんど食事を摂れていなかったエミーユだが、不思議と柑橘はするすると喉に入って行った。
 皿が空になる前に、またメイドが柑橘を持ってきて、エミーユは腹いっぱいに食べた。
 腹いっぱいになると眠気が起きて、横になると眠った。
 次に目が覚めると、起き上がれるようになった。
 メイドに、トイレに連れて行ってもらった。
 使用人用のトイレらしく、やはり簡素だが清潔だった。ふと鏡を見た。
 栗色の髪にハシバミの目の、さほど特徴のない顔がある。髪は肩を過ぎて伸びている。
 
(私はこんな顔だったんだな)

 エミーユが自分の顔を見たのは故郷の家を出て以来のことだった。明るかった髪も目も随分と落ち着いた色になっている。

(でも、悪くはない顔だ)

 エミーユのガウンの前合わせがはだけている。左の肩に赤い線が残っていた。
 マリウスから引き受けた傷の痕。
 マリウスの赤毛が鮮烈によみがえった。
 燃えるような赤毛をしていた。目に焼き付くほどの。

(あの子はホント、泣き虫だった。怪我の痛みには泣かなかったのに、戦争が怖いと言って泣いた。それはみっともなく泣いていた。みっともなくて情けなくって)

 エミーユの口から笑い声がこぼれてきた。

「ふふ、ホント格好悪かった」

 エミーユの笑い声に途中から嗚咽が混じった。しまいには嗚咽だけになった。
 痕を手でなぞる。

(怪我を少ししか引き受けなかったから、この痕もじきに消えるだろう。そうなれば、私からマリウスの痕跡はなくなってしまう。マリウス、マリウス………! 可愛いマリウス……!)

 エミーユは小屋を出て以来、初めて泣いた。マリウスを想って泣いた。
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