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甘えん坊の泣き虫マリウス3
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翌朝、エミーユはマリウスに軍服を渡した。
さすがに起きられるようになると、全裸に掛布を羽織っただけのマリウスが可哀想になってきた。それに子どもならまだしも、もう18歳だという。
(まるで大きな赤ちゃんだけどな)
軍服についた血液は洗い流して乾かしてある。重い生地なので夏場でも乾くまで二日もかかった。干すときに手で伸ばしたおかげで縮んでいないようだ。
脱がすときに切った部分は、きちんと縫い合わせている。
マリウスはもう兵士に戻りたくないと涙を流した。
シャツとズボンはそのまま縫い合わせただけだったが、上着からは肩章も袖飾りも外した。前身ごろに二列に並んだ金ボタンは、木のボタンに変えた。
町で置き去りにする予定に変わりはないが、それでも、マリウスに情が湧いてきている。
せめて、軍人らしさを少しでも取り除いて送り出してやりたい。それに、少しでも見栄えがする格好にしてやりたい。そんな気持ちになっていた。
軍服の生地は上等なものだ。金飾りを外せば、それは上質なジャケットにしか見えなかった。
軍服を受け取ったマリウスは声を上げた。
「な、なに?」
「あなたの服です」
「軍服……」
マリウスの眉尻が垂れさがり、口がへの字になった。
「軍服に見えないように直しました」
マリウスの手を持って軍服の肩やボタンを触らせる。
マリウスの顔がぱっと明るくなった。
「エミ、エミーユ……! すごい、ありがとう! ありがとう、エミーユ」
「着てみてください」
「うん!」
どういうわけか、きちんとした衣服を着ると、マリウスがこれまでとは別人のように凛々しく映った。
(あれ、マリウスって美男子だったんだ)
目に包帯をしていてもそれがわかる。衣服を着込んだマリウスはりゅうとしている。
エミーユは包帯の下の目を想像してみた。
エミーユはマリウスの目が全体を台無しにするような変な目をしていればいいのに、と思った。
(マリウスが格好悪い方がいいと思うなんて、私は性格が悪いのかな)
「ど、どうかな」
マリウスの問いに、エミーユは格好良く見えてしまうマリウスに何故か腹が立って、意地悪な口ぶりになった。
「まあ、いいんじゃないですか」
マリウスはエミーユの口ぶりを気にしないで、嬉しそうに言った。
「ありがとう、俺、嬉しい! 大切にする!」
マリウスは、上着を脱ぐと丁寧に折りたたむ。
シャツ姿でもマリウスは格好が良かった。
そのうち、マリウスの育ちの良さが目についてきた。まず姿勢が良いし、座っていてもだらしなく見える座り方をしない。立っていれば威風のようなものすら感じられる。
(マリウスは本当に育ちの良い坊ちゃんなのかもしれない)
ただし、そう見えるのも黙っていればのことで、口を開けば「エミーユ、エミーユ」とただの残念な甘えん坊になる。
エミーユがマリウスのそばから離れようとすれば「どこに行くの?」と自分もついてくるし、台所仕事をしても、外に出て畑仕事をしても、くっついて離れない。
風が扉を鳴らせば、「風の音が怖い、エミーユ、こっちに来て」と手を伸ばしてくる。そのために、エミーユはそばに寄って手を繋いでやらなければならなくなった。
小川に向かおうとすれば「すぐに帰ってきてね、おねがい」と言う。
マリウスはまるで幼い子のようにエミーユに甘えてくる。
けれどもそんな風に過ごしているうちに、エミーユにはマリウスが可愛くてたまらなくなってきている。
マリウスの泣いた姿を見てより、エミーユはマリウスに情が移ってしまっていた。
(はああ……、早くこいつを追い出さなきゃ。長居させると、情が移ってしようがなくなってしまう)
さすがに起きられるようになると、全裸に掛布を羽織っただけのマリウスが可哀想になってきた。それに子どもならまだしも、もう18歳だという。
(まるで大きな赤ちゃんだけどな)
軍服についた血液は洗い流して乾かしてある。重い生地なので夏場でも乾くまで二日もかかった。干すときに手で伸ばしたおかげで縮んでいないようだ。
脱がすときに切った部分は、きちんと縫い合わせている。
マリウスはもう兵士に戻りたくないと涙を流した。
シャツとズボンはそのまま縫い合わせただけだったが、上着からは肩章も袖飾りも外した。前身ごろに二列に並んだ金ボタンは、木のボタンに変えた。
町で置き去りにする予定に変わりはないが、それでも、マリウスに情が湧いてきている。
せめて、軍人らしさを少しでも取り除いて送り出してやりたい。それに、少しでも見栄えがする格好にしてやりたい。そんな気持ちになっていた。
軍服の生地は上等なものだ。金飾りを外せば、それは上質なジャケットにしか見えなかった。
軍服を受け取ったマリウスは声を上げた。
「な、なに?」
「あなたの服です」
「軍服……」
マリウスの眉尻が垂れさがり、口がへの字になった。
「軍服に見えないように直しました」
マリウスの手を持って軍服の肩やボタンを触らせる。
マリウスの顔がぱっと明るくなった。
「エミ、エミーユ……! すごい、ありがとう! ありがとう、エミーユ」
「着てみてください」
「うん!」
どういうわけか、きちんとした衣服を着ると、マリウスがこれまでとは別人のように凛々しく映った。
(あれ、マリウスって美男子だったんだ)
目に包帯をしていてもそれがわかる。衣服を着込んだマリウスはりゅうとしている。
エミーユは包帯の下の目を想像してみた。
エミーユはマリウスの目が全体を台無しにするような変な目をしていればいいのに、と思った。
(マリウスが格好悪い方がいいと思うなんて、私は性格が悪いのかな)
「ど、どうかな」
マリウスの問いに、エミーユは格好良く見えてしまうマリウスに何故か腹が立って、意地悪な口ぶりになった。
「まあ、いいんじゃないですか」
マリウスはエミーユの口ぶりを気にしないで、嬉しそうに言った。
「ありがとう、俺、嬉しい! 大切にする!」
マリウスは、上着を脱ぐと丁寧に折りたたむ。
シャツ姿でもマリウスは格好が良かった。
そのうち、マリウスの育ちの良さが目についてきた。まず姿勢が良いし、座っていてもだらしなく見える座り方をしない。立っていれば威風のようなものすら感じられる。
(マリウスは本当に育ちの良い坊ちゃんなのかもしれない)
ただし、そう見えるのも黙っていればのことで、口を開けば「エミーユ、エミーユ」とただの残念な甘えん坊になる。
エミーユがマリウスのそばから離れようとすれば「どこに行くの?」と自分もついてくるし、台所仕事をしても、外に出て畑仕事をしても、くっついて離れない。
風が扉を鳴らせば、「風の音が怖い、エミーユ、こっちに来て」と手を伸ばしてくる。そのために、エミーユはそばに寄って手を繋いでやらなければならなくなった。
小川に向かおうとすれば「すぐに帰ってきてね、おねがい」と言う。
マリウスはまるで幼い子のようにエミーユに甘えてくる。
けれどもそんな風に過ごしているうちに、エミーユにはマリウスが可愛くてたまらなくなってきている。
マリウスの泣いた姿を見てより、エミーユはマリウスに情が移ってしまっていた。
(はああ……、早くこいつを追い出さなきゃ。長居させると、情が移ってしようがなくなってしまう)
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