【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

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両親を奪われた夜のこと3

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 エミーユは、父親のバイオリンに母親の薬草帳を手に、乗り合い馬車に乗った。乗り合い馬車を何度も乗り換えて北に向かった。
 エルラントとノルラントとの国境を越え、ノルラントでも北に位置する町で乗り合い馬車を降りた。
 町の人々はよそ者には冷たかったが、それでも親切な人がいて、食べ物を分け与えてくれた。
 町はずれの丘を登った草原に放置された小屋を見つけた。そこに住み着き、畑を耕すことを覚え、もらった子ヤギを飼い始めた。
 山に出向いて薬草を取ってくることも覚えた。そして、薬草が今のエミーユの収入となっている。

 一年ほど前に発情期を迎えて、妖人を自覚した。それまでも親しく付き合う人はいなかったが、それからはより一層に人との付き合いを慎重にした。
 妖人だと悟られたくはなかった。悟られればさらわれてグレンに売られるかもしれない。それを恐れてのことだ。
 妖人特有の華奢な体つきも町に出るときには肩に布を詰めたマントで隠していた。



「エミーユ……?」

 エミーユのテーブルの上に置いた手をマリウスの手が掠めた。
 エミーユが思わず躱すと、マリウスはテーブルの上を探っている。しかし何も触れるものがなく今度は宙を探し始める。
 黙り込んだエミーユのことが気になったのだろう。

「エミ……、エミーユ?」

 エミーユはマリウスの手に手の甲で触れた。
 マリウスはエミーユの居場所がわかるとホッとしたように頬をほころばせた。
 そしてエミーユの手をしっかりと掴んできた。
 エミーユは手を掴まれたまま立ち上がる。

「お腹いっぱいになりましたか」
「うん」
「さあ、そろそろ寝ましょう。ベッドに連れて行きますね」

 マリウスはまだ何か話したそうにしていたが、エミーユはマリウスをベッドに連れて行った。

「あ、あなたはどこで寝ているの?」

 マリウスは見えないながらも、粗末な小屋であることに気が付いているのだろう。それもそうだ。トイレは小川だし、隙間風も入ってくる。椅子もテーブルも棒と板を繋げただけのものだ。
 エミーユは床に敷いた鹿の皮の上に寝ていたがそれを言うことはなかった。

「もう一つベッドがあるんです」

 マリウスはベッドに横たわると、鼻をスンスンと鳴らしてもじもじして、それからエミーユに背中を向けた。エミーユは掛布をかけてやった。
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