【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

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星空の出会い2

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 しかし、エミーユは、振り上げたその手を下ろせなかった。
 兵士の体は大きいが、顔はまだ少年と呼べるほどに幼く見えた。エミーユよりも幾分若そうだ。

(息がある……。グレンはこんな年少者まで戦いに駆り出しているのか)

 エミーユは兵士を背負ってズルズルと引きずりながら小屋へ向かった。馬がついてくる。

 自分よりも二回りは大きい少年の体を何とかしてベッドに乗せると、血まみれの軍服をハサミで切って脱がせた。
 少年は一瞬、意識を取り戻し呻いたが、また気を失った。
 少年の左肩から右腹まで斜めに切れ目が入っている。傷口を糸で縫って出血を止めたが、少年の顔は土色をしたままだ。体温も低く、心音も弱まっている。

(このままでは死んでしまう)

 少年の口に手を突っ込んで歯を確かめた。犬歯がとがっている。

(体格も良いし犬歯もある。獣人だ。やったことないけど試してみるか)

 エミーユは上衣を脱いだ。

(何で私はグレン人なんかを助けるんだろう。しかも兵士だぞ?)

 ちらりとそんな考えが浮かんだが、このまま捨て置くこともできない。
 上半身裸になると、少年におおいかぶさる。
 目を閉じた。

(移れ) 

 しばらくの間、傷口のある部分と自分の胸を重ね合わせる。

(私に移れ)

 そのうち、エミーユに痛みが襲ってきた。

「うっ……、痛いなあ」

 エミーユが体を起こせば、エミーユの肩から胸にかけて赤い筋が盛り上がって血が出ていた。

(もうちょっと引き受けても大丈夫かな)

 エミーユはもう一度少年におおいかぶさった。

(私に移ってこい)

 しばらくして体を起こす。

「イテテ」

 エミーユの傷は広がって肩から腹まで薄く裂けている。
 これで少年の切れた血管も少しは治っただろう。
 エミーユが少年の呼吸を確かめると幾分しっかりしている。
 エミーユは自分の胸に蒸留酒を振りかけて、移ってきた傷に薬草を漬けたオイルを塗った。

 翌朝、少年の顔色は随分と良くなっていた。

(もう死にそうにないな)

 エミーユは安堵するも、今度はこの少年をどうすればいいのかわからなくなって思案する。
 グレン兵を助けたものの、暴れられたりすれば困る。
 グレン兵など民家を見れば略奪し、人を見れば襲うような生き物だ。

(どうして助けてしまったんだろう。助かれば助かったで面倒なことになるだけなのに)

 少年の顔を眺めて考えた。少年の髪は燃えるような真っ赤だ。眉はまっすぐに横に伸び、鼻筋も通っている。頬にはまだあどけなさが残っており、凶悪さはまったくない。しかし、それでも用心に越したことはない。

(足でも痛めてないかな。それなら安心なのに)

 そんなことを考えながら少年の足を持ち上げた。足は大きくずっしりと重い。

(これからまだ大きくなりそうだな、獣人だしな)

 少年の頑丈そうな足を確かめたが、足は何ともなさそうだ。

(利き腕が使えなくなってないかな)

 少年の両手を見比べた。やはりその手はエミーユの手よりも二回りほど大きい。少年の右手に剣だこがあった。利き腕は右だ。両手とも痛めたところはなさそうだ。

(目でも怪我してないかな)

 少年の目を見ると、まぶたの下でときおり眼球が動く。少年の目にも何も起きてはなさそうだ。
 エミーユはひらめいた。

(目を怪我したことにすればいいんだ)
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