【本編完結】溺愛してくる敵国兵士から逃げたのに、数年後、××になった彼に捕まりそうです

萌於カク

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星空の出会い

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 星空に銀色の月が浮かんでいた。
 エミーユの栗色の髪が夜風になぶられ、ハシバミ色の瞳に夜空を映す。
 雨が降ったあとの草原は星に照らされてつやつやと光っている。湿った草の匂いが心を落ち着かせる。

 エミーユは町外れの草原に一人きりで住んでいる。ときおり山に登っては薬草を摘み、干したりいぶしたり薬に調合したりして、町の薬問屋に持っていく。
 そこで少しばかりの銅貨を得て、塩やハチミツに、たまには肉や干し魚を買う。
 薬問屋には買い叩かれていることを知っているが、畑から取れる野菜とヤギの乳とでエミーユは十分に腹いっぱいになるので文句をつけたことはなかった。それに買い上げてくれるだけで十分にありがたい。

(今日は良い夜だ)

 エミーユはバイオリンを構えた。父の遺したバイオリンのサイズに体が合ってきた。
 もの・・寂しい夜には、エミーユはバイオリンを弾いた。
 しんとした星空に弦の音色。
 弾ける曲は多くはないが、思うような音色を出せるように丁寧に弾く。
 誰に聞かせるでもなく自分のためにメロディを奏でる。
 弾いているうちに声が重なってくる。父親の弦の音に合わせて歌う母親の声だ。記憶に残っている声。
 両親と三人で過ごしていたころがよみがえる。
 バイオリンの音色と記憶の声はエミーユの心を慰める。
 
 緩やかなリズムに、新たな音が重なった。
 ぽっこぽっこ、とそれは次第に大きくなってくる。

 エミーユはハッとして目を開けた。弓を持つ手を止める。
 何かが近づいてくる。 
 ゆっくりと歩んでくるひづめの音だと気づいたとき、エミーユは小走りで小屋に戻った。
 小屋の灯りをすべて消してバイオリンを棚に仕舞って、ナイフを帯に挟んでもう一度外に出た。
 草むらに隠れて様子をうかがう。

 やがて、馬の姿が見えてきた。馬上で何かが揺れたかと思えば、ドサリと何かが落ちる音がした。
 馬はそこで止まった。そのまま首を上げたり下げたりして、そこを動かない。
 誰かが落馬したのか。
 鞍のついた馬は農家の馬ではない。兵馬だ。
 馬はその場所から動かずにじっとしているが、ヒヒンと助けを求めるようにいなないた。
 エミーユは長いこと草に隠れてじっとしていたが、十数回目に馬がいななくのを聞き終えると、草むらを移動した。
 馬の近くまで来ると、そこでもじっと様子をうかがう。
 男が地面に落ちている。さっき落馬したのはこの男だろう。
 腰に剣を刺しているということはやはり兵士だ。

(せっかくの良い夜が台無しになってしまった)

 馬がときおり首を下ろしては鼻で男をつつくが、男はピクリとも動かない。

(死んだのかな)

 なら安心だ。

(息を確かめておくか)

 エミーユは右手にナイフを構えて、草むらから出た。
 馬がエミーユに気づいて首を上下に振る。落ちた男のために助けを求めているようだ。
 しかし、エミーユには助けるつもりはない。兵士など勝手に死ねばいい。そう思っている。

(どこの兵士だ)

 うつぶせの男を足でひっくり返すと胸章が見えた。

(グレン兵……! グレンがこんなところまで)

 エミーユの目に憎悪の炎が灯る。

「………っ」

 男が呻いた。まだ息があるらしい。エミーユはナイフをかざした。

(グレン兵など!)

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