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87.洋介
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ガードレールの先から、若林洋介がポケットに手を突っ込んで、寒さに肩を尖らせながら、とぼとぼと歩いて来た。
「オス」と、歯をがちがち震わせながら、私の前で止まったので、座ったまま「ッス」と返事をした。
「兄貴、待ってるの?」
「うん」
白シャツの上に、制服のブレザーを羽織っているだけの洋介は、低気温と戦っていた。セーターかなんかを、ブレザーの下に着込めばいいのに、そうしないことによって、彼のスマートさは際立っていた。
同じ制服を着た三人組の女子が、こっちを指差しながらぴーちくぱーちく喚き出した。学校で浮いている私と、ミステリアスながら人気者の洋介が、往来でしゃべっているので、おかしくて仕方ないのだ。
どうする? という感じに、私たちは視線を交わしたが、いきなり洋介が彼女らに向かって、
「ブス」とほざいた。
ある程度の顔面下げて歩いてると思ってるやつらが、ブスといわれて、これほどショックなことはない。案の定、彼女たちはその言葉を受け取った瞬間、醜く顔を歪めて沈黙したのち、捨て台詞を吐いて、どっかに行ってしまった。
その捨て台詞は、今時の言葉過ぎて、なんて言ってるのか、わからなかった。かわいそうに。ブスだけは、未来永劫、永遠に紡がれていく言葉だ。
「……せっかく人気者なのに、わざわざ敵を作るようなこと、言わなくてもいいんじゃない?」
「いいよ、別に。どう思われても。あいつらが、ブスなのはほんとだ」
面倒くさいことが増えるのは、洋介だよ? と思ったけど、まあ、彼のばっさりな対応には感心してしまった。
「それじゃ、明日また学校でな」
洋介は手を振ると、雑多の中に消えていった。
若林さんと決別して、屋敷に閉じこもっていたとき、洋介に好きだと告白された。
そのときは、弱っていたから、心が揺らいだ。この人は、ここから救い出してくれるかもしれないと思った。だけど、そうじゃない。救われたいから手を取るって発想は、そもそも綺麗でない。そんなんではなく、猛烈に、人を好きになって、そこから人間関係を構築したい。惜しい気持ちがないわけじゃなかったけど、告白は断った。
「オス」と、歯をがちがち震わせながら、私の前で止まったので、座ったまま「ッス」と返事をした。
「兄貴、待ってるの?」
「うん」
白シャツの上に、制服のブレザーを羽織っているだけの洋介は、低気温と戦っていた。セーターかなんかを、ブレザーの下に着込めばいいのに、そうしないことによって、彼のスマートさは際立っていた。
同じ制服を着た三人組の女子が、こっちを指差しながらぴーちくぱーちく喚き出した。学校で浮いている私と、ミステリアスながら人気者の洋介が、往来でしゃべっているので、おかしくて仕方ないのだ。
どうする? という感じに、私たちは視線を交わしたが、いきなり洋介が彼女らに向かって、
「ブス」とほざいた。
ある程度の顔面下げて歩いてると思ってるやつらが、ブスといわれて、これほどショックなことはない。案の定、彼女たちはその言葉を受け取った瞬間、醜く顔を歪めて沈黙したのち、捨て台詞を吐いて、どっかに行ってしまった。
その捨て台詞は、今時の言葉過ぎて、なんて言ってるのか、わからなかった。かわいそうに。ブスだけは、未来永劫、永遠に紡がれていく言葉だ。
「……せっかく人気者なのに、わざわざ敵を作るようなこと、言わなくてもいいんじゃない?」
「いいよ、別に。どう思われても。あいつらが、ブスなのはほんとだ」
面倒くさいことが増えるのは、洋介だよ? と思ったけど、まあ、彼のばっさりな対応には感心してしまった。
「それじゃ、明日また学校でな」
洋介は手を振ると、雑多の中に消えていった。
若林さんと決別して、屋敷に閉じこもっていたとき、洋介に好きだと告白された。
そのときは、弱っていたから、心が揺らいだ。この人は、ここから救い出してくれるかもしれないと思った。だけど、そうじゃない。救われたいから手を取るって発想は、そもそも綺麗でない。そんなんではなく、猛烈に、人を好きになって、そこから人間関係を構築したい。惜しい気持ちがないわけじゃなかったけど、告白は断った。
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