たまり場に湯気

闇雲の風

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84.恋というよりも

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「勝手なこと、言ってんじゃないよ。勝手に日記見て、勝手に幻滅して、自分が悪いのに見つかったら謝りもしないで帰って、勝手にショック膨らまして何日も音沙汰なくて。自分がどれだけひどいことしてるか、わかってる?」
 前かがみになった背中。振り絞った声。
 人に見られたくない黒い心理を、盗み見られたこと。いつの間にか白井の目には、涙がいっぱい溜まっていた。白井が泣いたら、こっちまで悲しくなる。白井の滞った人間不信を払拭できるか、心配になる。
「嫌いになりたかった。盗み見たものから、私がどういう人間か判断しようとするのって最低でしょう?」
 硬く握り締められた拳に、やるせない気持ちも、許せない気持ちも、全部そこに集まっているようだった。
「でも、どんなに嫌いになりたくても、今までいろんな若林さんを見てきたから。いいところ、好きなところをたくさん知ってるから。どうしても嫌いになんかなれない。最後は、好きって答えしか出てこない」
 覚悟を決めた。白井の腕に手を伸ばすと、座っているソファから引っ張って降ろし、そっと肩を抱いた。
 いやがってない、はず。いやなら、拒絶しているはず。腕の中に収まった白井は、微動だにしない。緊張が伝わってくる。それでも、いやがっていないはず。
 恋という感情は、ぴんと来なかった。この感情が恋? それよりも、憧れていた。どこかで、彼女のようになりたいと、思っていたのかもしれない。頭の中をしめるのは、いつも白井のことばかりで、料理のことにしても、弟への嫉妬の在り方にしても、この人にだけは、認めてもらいたいと思っていた。どうしてだか、白井には本当の自分を、知ってもらいたいと思っていた。
 なぜこんなにも、彼女とは本音の関係を築きたいと思っていたのか。彼女は俺にとって特別で、願わくば、彼女にとっても、特別になりたいと、願っていたからかもしれない。いったい、いつから――。
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