たまり場に湯気

闇雲の風

文字の大きさ
上 下
84 / 90

84.恋というよりも

しおりを挟む
「勝手なこと、言ってんじゃないよ。勝手に日記見て、勝手に幻滅して、自分が悪いのに見つかったら謝りもしないで帰って、勝手にショック膨らまして何日も音沙汰なくて。自分がどれだけひどいことしてるか、わかってる?」
 前かがみになった背中。振り絞った声。
 人に見られたくない黒い心理を、盗み見られたこと。いつの間にか白井の目には、涙がいっぱい溜まっていた。白井が泣いたら、こっちまで悲しくなる。白井の滞った人間不信を払拭できるか、心配になる。
「嫌いになりたかった。盗み見たものから、私がどういう人間か判断しようとするのって最低でしょう?」
 硬く握り締められた拳に、やるせない気持ちも、許せない気持ちも、全部そこに集まっているようだった。
「でも、どんなに嫌いになりたくても、今までいろんな若林さんを見てきたから。いいところ、好きなところをたくさん知ってるから。どうしても嫌いになんかなれない。最後は、好きって答えしか出てこない」
 覚悟を決めた。白井の腕に手を伸ばすと、座っているソファから引っ張って降ろし、そっと肩を抱いた。
 いやがってない、はず。いやなら、拒絶しているはず。腕の中に収まった白井は、微動だにしない。緊張が伝わってくる。それでも、いやがっていないはず。
 恋という感情は、ぴんと来なかった。この感情が恋? それよりも、憧れていた。どこかで、彼女のようになりたいと、思っていたのかもしれない。頭の中をしめるのは、いつも白井のことばかりで、料理のことにしても、弟への嫉妬の在り方にしても、この人にだけは、認めてもらいたいと思っていた。どうしてだか、白井には本当の自分を、知ってもらいたいと思っていた。
 なぜこんなにも、彼女とは本音の関係を築きたいと思っていたのか。彼女は俺にとって特別で、願わくば、彼女にとっても、特別になりたいと、願っていたからかもしれない。いったい、いつから――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...