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72.レストランの息子
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「家を手伝わなきゃいけないんなら、部活、サッカーだっけ?」
「ああ」
「……も行けないよな。大変だよなあ、親の都合で時間を拘束されてさ。やりたいこともできねえなんて。俺だったら耐えらんねえよ。確実に逃げ出しちゃうね」
綿谷はその間何度もライターを擦っていたが、オイルがないのか、なかなか火がつかない。
「いや。そうできるもんじゃないよ。自分がやりたいこともおさえて、家を手伝うってことは。すごいよ、若林は」
無神経な綿谷の発言に対して、おそらく個々の心境はざわつきながら、衣笠がすかさず牽制球を投げて、 “気の毒な若林” を救ったかのような図式ができあがった。
「そのカッコを見ると、男として生まれてきたのに、料理やウェイターなんかも手伝わなきゃいけないんだろ。ほんと若林って、いい奴だよな」
男特有の能力を活かすことを、男らしさだと穿きちがえている綿谷だから、悪気がないことは承知している。だが面目をつぶされた感は否めない。
「いいから早くメニュー決めろよ。ほら、そこにメニュー表があるだろ」
そのとき綿谷がしつこく擦っていたライターが突然音を鳴らし、火が灯った。
まずいな。火をつけられちゃあ……。
すると、綿谷のふたつとなりの席に座っていた後輩男子が、出し抜けにライターから火を移したばかりの煙草を、綿谷の指から抜き取った。
「禁煙みたいですよ。灰皿も見当たりませんし。ここに禁煙マークもあります」彼は壁に張られた禁煙の標識パネルを指差した。
「ああ」
「……も行けないよな。大変だよなあ、親の都合で時間を拘束されてさ。やりたいこともできねえなんて。俺だったら耐えらんねえよ。確実に逃げ出しちゃうね」
綿谷はその間何度もライターを擦っていたが、オイルがないのか、なかなか火がつかない。
「いや。そうできるもんじゃないよ。自分がやりたいこともおさえて、家を手伝うってことは。すごいよ、若林は」
無神経な綿谷の発言に対して、おそらく個々の心境はざわつきながら、衣笠がすかさず牽制球を投げて、 “気の毒な若林” を救ったかのような図式ができあがった。
「そのカッコを見ると、男として生まれてきたのに、料理やウェイターなんかも手伝わなきゃいけないんだろ。ほんと若林って、いい奴だよな」
男特有の能力を活かすことを、男らしさだと穿きちがえている綿谷だから、悪気がないことは承知している。だが面目をつぶされた感は否めない。
「いいから早くメニュー決めろよ。ほら、そこにメニュー表があるだろ」
そのとき綿谷がしつこく擦っていたライターが突然音を鳴らし、火が灯った。
まずいな。火をつけられちゃあ……。
すると、綿谷のふたつとなりの席に座っていた後輩男子が、出し抜けにライターから火を移したばかりの煙草を、綿谷の指から抜き取った。
「禁煙みたいですよ。灰皿も見当たりませんし。ここに禁煙マークもあります」彼は壁に張られた禁煙の標識パネルを指差した。
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