たまり場に湯気

闇雲の風

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68.白井はいない

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 自転車を全力で漕ぎ回し、肉屋を越えたあたりで雨がぽつんと頬を打った。天気予報はこんなに当てにならないものだろうか。雨が降ることをまったく予想できなかったので、雲がどんどん伸びてきたのはきつかった。細かな雨がざあっと降り出した。
 とりあえずサドルにぶら下げていた、サンドイッチの入った袋を、パーカーをめくった腹のあたりに仕舞い込んだ。
 今日もまだ白井は屋敷に来ていなかった。眠そうに目を半開きにしたキチが、ホップ、ステップ、ジャンプしながら姿を現した。
「よう、寝てたのか。目が眠そうだぞ。白井はまだ来てないの?」
「ンニャーオ。ンニャーオ」
 なつっこそうに見上げるキチの首に、見慣れないものを発見した。
「どうしたんだよ、今日は首輪をしてるのか」
 見たことのなかった首輪に白い紙が結ばれていた。不審に思い、ほどいて紙を広げてみると、そこには汚い字でメモが書かれてあった。
『日直だったのでクラスの冊子閉じの仕事を任されてしまいました。少し遅くなるかもしれないけど、洋介君が手伝ってくれてるので終わったらすぐに行きます。読み終わったらキチの首輪ははずしといてあげて。 白井 』 
「ふむふむ。なるほど」
 まず煩わしそうな首輪をはずしてあげた。キチの額をすいっと撫でると、キチは頭を上げて目を閉じる。   
「白井さん、まだなんだってな。一緒に待ってようか」 
 屋敷の奥へ向かうと、キチは先頭に立ってホップステップした。 
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