たまり場に湯気

闇雲の風

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66.イライラの度合い

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 いつものようにノックをしたが、白井は現れない。鍵がかかっていないのは分かっているので、扉を引いた。
「おーい、白井さん。いないの」  
 屋敷の中へ向かって叫んだが、誰かが出てくる気配はない。
 こんなことは初めてだった。
「ほんとにいないのかな」
 靴を脱いで、足を踏み入れた。
「そんなに大きな声出さないでよ。近所に聴かれたらあやしまれるでしょ」
 玄関を振り返ると、白井がびしょびしょに髪を濡らして、立っていた。先のほうからぽたぽたと雫が垂れている。
「どうしたの、それ。びしょ濡れ」
 その濡れっぷりはただごとじゃない。水分を吸いつくした重たげな髪は、制服のブレザーまで滴らせ、肩は生地の色が変わるほどに染み込んでいた。
「どうしたもこうしたもないよ。イラっとしたから、公園で水かぶっただけ」
「何やってんだよ」
 近づくと白井は寒さで、がたがたと震えていた。その冷たい腕を支えようとして、時折、白井が見せる、人が近づくことを許さない態度を思い出して躊躇したが、次の瞬間には震える両腕を支えていた。予想通り、その腕は氷のように冷たく、掌から伝わる震えは、激しくなっていった。
「ちゃんと拭いた?」
 予備のトレーナーとスウェット。その上に俺のぶかぶかの学生服を羽織って、さらに毛布をかぶり、そのさらに上に布団をかぶせている。 
「うん」
 やっと落ち着いたのか、たくさんの衣服と掛け物におおわれて、白井は静かに座っていた。震えも止まった。
「風邪引くなよ」 
 リビングにキチが入ってきた。おいでおいでと呼ぶと、トットットッと近くまで駆けてきた。
「よし、よく来た」
 そのままビヨーンと持ち上げ、胡坐を掻いている白井の膝の上に乗せる。キチは体をまるめて、喉をごろごろと鳴らし始めた。
「猫乗せとくと、あったかいだろ」
 白井はまんざらでもないようで、愛しそうにキチの背中に指を滑らす。それから抱き上げて、頬擦りをした。
「最近は寒いから、水なんか、かぶるもんじゃないな」
「そうだよ、こないだ冷たいから、ぬるま湯で米を研ごうとしたら、父さんに水で研げ、汚れを吸い込むからって怒られた」 
 手作りのホットレモネードを両手に抱えて、白井がはっと顔を上げた。
「えっ、お父さんの前で料理したの?」
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