62 / 90
62.体育の時間
しおりを挟む
うちの学校は、どれだけ運動場の整備というものを、やっているんだろうか。乾いた砂煙が、ばっさばっさと埃のごとく舞い上がっている。
「ジョセフの新曲聴いた?」
「聴いた、聴いた。すごいいいよ、もうすごすぎる。絶対カラオケ、マスターする」
前の奴が、先生に先導されて、スタートラインに立った。ピッという笛の合図とともに、一斉にスタートし、白いハードルを越えていく。
「次、数学じゃん。宿題やってきてねえよ」
「マジアホだな。見せてやらねえぞ」
「頼むよ。これ忘れたら絶対やばいんだ」
「そう思うんなら、何でやってこないんだよ」
この時期、二時間目の体育ってやつは厳しい。まだ気温も上がりきってないし、今日なんかは運動場全体が日陰だ。
笛が吹かれて、次の四人がスタートした。タイムが計られているわけでもないので、ほとんどの生徒が、たらたらと走っている。
「自分にばっかり作ってって言わずに、それなら俺にも作れって言うんだ」
「そうしてあげたら?」
後ろで腕組みしながら並んでいる綿谷から、かなり長く付き合っているらしい彼女の相談をされていた。綿谷は先週ピアスを開けたばかりで、趣味の悪そうなでっかいピアスを耳に光らしているが、これが実に良く似合っている。
「作るわけないだろ! なんで男の俺が料理なんかしなくちゃいけないんだ!」
綿谷はペンペンと膝を叩きながら、地団駄を踏んでいる。
「男だからとか、決めつけなくてもいいんじゃないの?」
「甘いな」
となりの列で順番待ちをしていた衣笠が、盗み聞きしていたのか、話に割り込んできた。こいつはバスケ部のキャプテンで運動神経抜群。春のクラスマッチ(学年ごとのクラス対抗でスポーツを競う。種目は男子女子ともに、バスケット、バドミントン、卓球である。たいていやる気のある者がバスケットを選択し、どうでもいい者は卓球をすると相場が決まっている)にもなれば、先陣を切ってクラス優勝に貢献するだろう。
「別にクッキングでお返しする必要はないんだ。他のことで、なにか返してあげたらいいんだ」
「うん、うん。良いこと言う」綿谷はくねくねと身をくねらしている。
「そうかなあ」
「そうさ!」
衣笠に肩を叩かれて、前につんのめりそうになった。これだから、手加減を知らない体育会系は困るんだ。
「要は、自分ばっかり面倒くさいことをさせられていやだから、俺たち男子にも何か作れって言うんだろ。だったら別に料理じゃなくてもいいじゃないか。原チャリの免許でも取って、彼女を後ろに乗せてやりゃあいいんだ」
「そうそう! 女子ども、なにか勘違いしてるよな! 原チャの免許なんか取る気ねえけど、そういうんでいいんだ!」
木枯らしが一陣を通り抜け、綿谷は胸板のない細い身体を、ぶるぶると震わせた。男にしとくのが勿体ない奴だ。
「ジョセフの新曲聴いた?」
「聴いた、聴いた。すごいいいよ、もうすごすぎる。絶対カラオケ、マスターする」
前の奴が、先生に先導されて、スタートラインに立った。ピッという笛の合図とともに、一斉にスタートし、白いハードルを越えていく。
「次、数学じゃん。宿題やってきてねえよ」
「マジアホだな。見せてやらねえぞ」
「頼むよ。これ忘れたら絶対やばいんだ」
「そう思うんなら、何でやってこないんだよ」
この時期、二時間目の体育ってやつは厳しい。まだ気温も上がりきってないし、今日なんかは運動場全体が日陰だ。
笛が吹かれて、次の四人がスタートした。タイムが計られているわけでもないので、ほとんどの生徒が、たらたらと走っている。
「自分にばっかり作ってって言わずに、それなら俺にも作れって言うんだ」
「そうしてあげたら?」
後ろで腕組みしながら並んでいる綿谷から、かなり長く付き合っているらしい彼女の相談をされていた。綿谷は先週ピアスを開けたばかりで、趣味の悪そうなでっかいピアスを耳に光らしているが、これが実に良く似合っている。
「作るわけないだろ! なんで男の俺が料理なんかしなくちゃいけないんだ!」
綿谷はペンペンと膝を叩きながら、地団駄を踏んでいる。
「男だからとか、決めつけなくてもいいんじゃないの?」
「甘いな」
となりの列で順番待ちをしていた衣笠が、盗み聞きしていたのか、話に割り込んできた。こいつはバスケ部のキャプテンで運動神経抜群。春のクラスマッチ(学年ごとのクラス対抗でスポーツを競う。種目は男子女子ともに、バスケット、バドミントン、卓球である。たいていやる気のある者がバスケットを選択し、どうでもいい者は卓球をすると相場が決まっている)にもなれば、先陣を切ってクラス優勝に貢献するだろう。
「別にクッキングでお返しする必要はないんだ。他のことで、なにか返してあげたらいいんだ」
「うん、うん。良いこと言う」綿谷はくねくねと身をくねらしている。
「そうかなあ」
「そうさ!」
衣笠に肩を叩かれて、前につんのめりそうになった。これだから、手加減を知らない体育会系は困るんだ。
「要は、自分ばっかり面倒くさいことをさせられていやだから、俺たち男子にも何か作れって言うんだろ。だったら別に料理じゃなくてもいいじゃないか。原チャリの免許でも取って、彼女を後ろに乗せてやりゃあいいんだ」
「そうそう! 女子ども、なにか勘違いしてるよな! 原チャの免許なんか取る気ねえけど、そういうんでいいんだ!」
木枯らしが一陣を通り抜け、綿谷は胸板のない細い身体を、ぶるぶると震わせた。男にしとくのが勿体ない奴だ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる