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57.訳アリ
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星がわずか薄暗い空に瞬いていた。テーブルには、ひとつ、またひとつと、蝋燭が揺らめいている。謎が謎を呼ぶたび、それは意図も簡単な答えで示されていった。
「ここがただの空家だったとはな」
改めて室内を見回して、一息ついた。技巧を知らしめた絨毯。白井がいつも何気なく横になる、スエード張りのでっかいソファ。百合がかたどられているアンティーク調の照明。キッチンには色のはげたお玉やら、フライパン返しが、ちらほらと吊るされている。
「よくここまで、何もかも揃ったまま、放り出された家があったものよね」
頼りなげな蝋燭の灯りとともに、テーブルには、チョコレートやスナック、一・五リットルのスポーツドリンクが入ったペットボトルが置かれていた。話は夕方まで長引き、途中、三人でコンビニに買い出しに行ったのだ。
「すっかり騙されてた。てっきり訳ありだろうけど、この家に住んでるのは、間違いないと思ってた」
「あら、私、ここに住んでるなんて、ひとことも言ってないけど」
つんと澄ました白井が、チョコレートに指先を伸ばす。お菓子の匂いにつられてたのか、キチがどこからか、のそのそとやってきて膝に座った。どうして自分の膝に来ないのだろうかと、白井がキチを凝視している。
「やられた。なんにも言わないから、ここに住んでるんだと思うんだろ?」
テレビの前まで行き、回転式の電源をカチャカチャと回してみた。暗い画面が俺たちをぬぼうっと映すだけで、うんともすんとも言わない。
「最初っから、まったく電気は止まってたのか」
白井はたっぷりのスポーツドリンクをコップに注ぎながら、
「うん。灯りも冷蔵庫も、それだけじゃなくてガスも全然通ってないよ。いつバレるんじゃないかとひやひやしてた」と答えた。
そういえばいつも白井のためにしていた料理は、ガス缶を使う簡易コンロだったじゃないか。しまった。
新しいスナックを開けようとしていた洋介が、けらけら膝をたたいて笑った。
「それじゃ騙されたとはいえないぜ。周到に用意されてたわけでもなく、普通なら気づくよ。本当に一ヶ月も通っときながら気づかなかったの?」
変声期がかったかすれた声が、薄暗く重厚な空き家に響いた。
「ここがただの空家だったとはな」
改めて室内を見回して、一息ついた。技巧を知らしめた絨毯。白井がいつも何気なく横になる、スエード張りのでっかいソファ。百合がかたどられているアンティーク調の照明。キッチンには色のはげたお玉やら、フライパン返しが、ちらほらと吊るされている。
「よくここまで、何もかも揃ったまま、放り出された家があったものよね」
頼りなげな蝋燭の灯りとともに、テーブルには、チョコレートやスナック、一・五リットルのスポーツドリンクが入ったペットボトルが置かれていた。話は夕方まで長引き、途中、三人でコンビニに買い出しに行ったのだ。
「すっかり騙されてた。てっきり訳ありだろうけど、この家に住んでるのは、間違いないと思ってた」
「あら、私、ここに住んでるなんて、ひとことも言ってないけど」
つんと澄ました白井が、チョコレートに指先を伸ばす。お菓子の匂いにつられてたのか、キチがどこからか、のそのそとやってきて膝に座った。どうして自分の膝に来ないのだろうかと、白井がキチを凝視している。
「やられた。なんにも言わないから、ここに住んでるんだと思うんだろ?」
テレビの前まで行き、回転式の電源をカチャカチャと回してみた。暗い画面が俺たちをぬぼうっと映すだけで、うんともすんとも言わない。
「最初っから、まったく電気は止まってたのか」
白井はたっぷりのスポーツドリンクをコップに注ぎながら、
「うん。灯りも冷蔵庫も、それだけじゃなくてガスも全然通ってないよ。いつバレるんじゃないかとひやひやしてた」と答えた。
そういえばいつも白井のためにしていた料理は、ガス缶を使う簡易コンロだったじゃないか。しまった。
新しいスナックを開けようとしていた洋介が、けらけら膝をたたいて笑った。
「それじゃ騙されたとはいえないぜ。周到に用意されてたわけでもなく、普通なら気づくよ。本当に一ヶ月も通っときながら気づかなかったの?」
変声期がかったかすれた声が、薄暗く重厚な空き家に響いた。
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