57 / 90
57.訳アリ
しおりを挟む
星がわずか薄暗い空に瞬いていた。テーブルには、ひとつ、またひとつと、蝋燭が揺らめいている。謎が謎を呼ぶたび、それは意図も簡単な答えで示されていった。
「ここがただの空家だったとはな」
改めて室内を見回して、一息ついた。技巧を知らしめた絨毯。白井がいつも何気なく横になる、スエード張りのでっかいソファ。百合がかたどられているアンティーク調の照明。キッチンには色のはげたお玉やら、フライパン返しが、ちらほらと吊るされている。
「よくここまで、何もかも揃ったまま、放り出された家があったものよね」
頼りなげな蝋燭の灯りとともに、テーブルには、チョコレートやスナック、一・五リットルのスポーツドリンクが入ったペットボトルが置かれていた。話は夕方まで長引き、途中、三人でコンビニに買い出しに行ったのだ。
「すっかり騙されてた。てっきり訳ありだろうけど、この家に住んでるのは、間違いないと思ってた」
「あら、私、ここに住んでるなんて、ひとことも言ってないけど」
つんと澄ました白井が、チョコレートに指先を伸ばす。お菓子の匂いにつられてたのか、キチがどこからか、のそのそとやってきて膝に座った。どうして自分の膝に来ないのだろうかと、白井がキチを凝視している。
「やられた。なんにも言わないから、ここに住んでるんだと思うんだろ?」
テレビの前まで行き、回転式の電源をカチャカチャと回してみた。暗い画面が俺たちをぬぼうっと映すだけで、うんともすんとも言わない。
「最初っから、まったく電気は止まってたのか」
白井はたっぷりのスポーツドリンクをコップに注ぎながら、
「うん。灯りも冷蔵庫も、それだけじゃなくてガスも全然通ってないよ。いつバレるんじゃないかとひやひやしてた」と答えた。
そういえばいつも白井のためにしていた料理は、ガス缶を使う簡易コンロだったじゃないか。しまった。
新しいスナックを開けようとしていた洋介が、けらけら膝をたたいて笑った。
「それじゃ騙されたとはいえないぜ。周到に用意されてたわけでもなく、普通なら気づくよ。本当に一ヶ月も通っときながら気づかなかったの?」
変声期がかったかすれた声が、薄暗く重厚な空き家に響いた。
「ここがただの空家だったとはな」
改めて室内を見回して、一息ついた。技巧を知らしめた絨毯。白井がいつも何気なく横になる、スエード張りのでっかいソファ。百合がかたどられているアンティーク調の照明。キッチンには色のはげたお玉やら、フライパン返しが、ちらほらと吊るされている。
「よくここまで、何もかも揃ったまま、放り出された家があったものよね」
頼りなげな蝋燭の灯りとともに、テーブルには、チョコレートやスナック、一・五リットルのスポーツドリンクが入ったペットボトルが置かれていた。話は夕方まで長引き、途中、三人でコンビニに買い出しに行ったのだ。
「すっかり騙されてた。てっきり訳ありだろうけど、この家に住んでるのは、間違いないと思ってた」
「あら、私、ここに住んでるなんて、ひとことも言ってないけど」
つんと澄ました白井が、チョコレートに指先を伸ばす。お菓子の匂いにつられてたのか、キチがどこからか、のそのそとやってきて膝に座った。どうして自分の膝に来ないのだろうかと、白井がキチを凝視している。
「やられた。なんにも言わないから、ここに住んでるんだと思うんだろ?」
テレビの前まで行き、回転式の電源をカチャカチャと回してみた。暗い画面が俺たちをぬぼうっと映すだけで、うんともすんとも言わない。
「最初っから、まったく電気は止まってたのか」
白井はたっぷりのスポーツドリンクをコップに注ぎながら、
「うん。灯りも冷蔵庫も、それだけじゃなくてガスも全然通ってないよ。いつバレるんじゃないかとひやひやしてた」と答えた。
そういえばいつも白井のためにしていた料理は、ガス缶を使う簡易コンロだったじゃないか。しまった。
新しいスナックを開けようとしていた洋介が、けらけら膝をたたいて笑った。
「それじゃ騙されたとはいえないぜ。周到に用意されてたわけでもなく、普通なら気づくよ。本当に一ヶ月も通っときながら気づかなかったの?」
変声期がかったかすれた声が、薄暗く重厚な空き家に響いた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
化け猫ミッケと黒い天使
ひろみ透夏
児童書・童話
運命の人と出会える逢生橋――。
そんな言い伝えのある橋の上で、化け猫《ミッケ》が出会ったのは、幽霊やお化けが見える小学五年生の少女《黒崎美玲》。
彼女の家に居候したミッケは、やがて美玲の親友《七海萌》や、内気な級友《蜂谷優斗》、怪奇クラブ部長《綾小路薫》らに巻き込まれて、様々な怪奇現象を体験する。
次々と怪奇現象を解決する《美玲》。しかし《七海萌》の暴走により、取り返しのつかない深刻な事態に……。
そこに現れたのは、妖しい能力を持った青年《四聖進》。彼に出会った事で、物語は急展開していく。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

釣りガールレッドブルマ(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~
橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち!
友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。
第2回きずな児童書大賞参加作です。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる