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56.暴かれた秘密
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だだっぴろいリビングに、俺と、屋敷の所有者の白井と、異様な存在感を放つ弟が、同時にそこにいた。
「何で白井と兄貴が、こんなとこにいるんだよ」
テーブルを囲んで、俺は洋介と向かいあって座り、白井はテーブルに散らかった、蝋燭や本を片付けていた。
「洋介こそ、どうやってここに?」
「あやしかったから、コンビニからつけてきた」
洋介はマガジンの発売日が昨日だったというのに、立ち読みし忘れていたので、夜明けとともにコンビニに来た。
雑誌コーナーで立ち読みをしていると、ヤッくんちに泊まっているはずの兄ちゃんが、寝ボケ眼で自動ドアをくぐった。ヤッくんちから、このコンビニはあまりに遠く離れている。昨夜、兄ちゃんは嘘をついてまで、どこに泊まったのだろうか。コンビニから程近いところに、答えは隠れているはずである。洋介は迷わず、兄の跡をつけた。
だまされた不平をまくし立てる洋介と、黙ってテーブルを拭いている白井を、交互に見ていると、あることが思い当たった。洋介が夢中になっている女子って、白井のことじゃないだろうか。今なら、いじめをすり抜けるような超越した女子と、白井の存在が、ぴったりと重なる。
「あのコンビニにいたのか……。全然気づかなかった。信じられねえ、ひとことも声掛けずに、黙って兄貴の跡つけるなんて」
「よく言うぜ。最初に裏切ったのは兄ちゃんだろ」
「裏切ったあ?」
外にいるときくらいのプライバシーはくれよ。そりゃ、ヤッ君ちに泊まるって、嘘は吐いたけど。
「おかしいよ、こんな荒れ果てた空き家で、二人でこっそり一夜をともにするなんて」
「おいおい、誤解を招くようなことを言うな」
「あやしいとは思っていたけど、まさか兄ちゃんの彼女が、中学生だったとはな。それも」
弟は横目で白井を見た。白井はテーブルを拭き終わり、カフェオレの残りを優雅に飲んでいる。
「だから違うんだよ。それにここは空き家じゃない」
「じゃあ誰んち?」
「誰んちって、白井さんのうちに決まってるだろ」
それまで論戦に参加せず、静かに成り行きを見守っていた白井が、素早く席を立った。
「お茶淹れてくる」
「水出ないのに? いいからここにいろよ。白井さんがいないと、誤解が解けないじゃないか」
「でも、私には関係ないし」
突然洋介が乱入してきて、兄弟の言い争いになっているのに、どこまでも澄ましてい白井が、取り乱し立ち去ろうとしている。
「なに言ってんだよ。ここが白井の家のわけないじゃん」
中腰になって右往左往している白井に、洋介が言った。
「白井、寮生だよね」
今、何て言った。寮生だって? 寮生ってことは、寮から学校に通ってるわけだから、だから?
「だから、寮から学校に通っていて、ここが実家なんだろ?」
「いいや、確か実家は他県で、もっと遠いところだったぜ」
こめかみを、歯医者のドリルでキュイーンと抉られるような衝撃があった。
「兄ちゃんは、ここがアンタの家だと思ってるみたいだけど、いったいどういうこと?」
彼女はもう一歩も動かず、その場にしゃがみ込んだ。
「何で白井と兄貴が、こんなとこにいるんだよ」
テーブルを囲んで、俺は洋介と向かいあって座り、白井はテーブルに散らかった、蝋燭や本を片付けていた。
「洋介こそ、どうやってここに?」
「あやしかったから、コンビニからつけてきた」
洋介はマガジンの発売日が昨日だったというのに、立ち読みし忘れていたので、夜明けとともにコンビニに来た。
雑誌コーナーで立ち読みをしていると、ヤッくんちに泊まっているはずの兄ちゃんが、寝ボケ眼で自動ドアをくぐった。ヤッくんちから、このコンビニはあまりに遠く離れている。昨夜、兄ちゃんは嘘をついてまで、どこに泊まったのだろうか。コンビニから程近いところに、答えは隠れているはずである。洋介は迷わず、兄の跡をつけた。
だまされた不平をまくし立てる洋介と、黙ってテーブルを拭いている白井を、交互に見ていると、あることが思い当たった。洋介が夢中になっている女子って、白井のことじゃないだろうか。今なら、いじめをすり抜けるような超越した女子と、白井の存在が、ぴったりと重なる。
「あのコンビニにいたのか……。全然気づかなかった。信じられねえ、ひとことも声掛けずに、黙って兄貴の跡つけるなんて」
「よく言うぜ。最初に裏切ったのは兄ちゃんだろ」
「裏切ったあ?」
外にいるときくらいのプライバシーはくれよ。そりゃ、ヤッ君ちに泊まるって、嘘は吐いたけど。
「おかしいよ、こんな荒れ果てた空き家で、二人でこっそり一夜をともにするなんて」
「おいおい、誤解を招くようなことを言うな」
「あやしいとは思っていたけど、まさか兄ちゃんの彼女が、中学生だったとはな。それも」
弟は横目で白井を見た。白井はテーブルを拭き終わり、カフェオレの残りを優雅に飲んでいる。
「だから違うんだよ。それにここは空き家じゃない」
「じゃあ誰んち?」
「誰んちって、白井さんのうちに決まってるだろ」
それまで論戦に参加せず、静かに成り行きを見守っていた白井が、素早く席を立った。
「お茶淹れてくる」
「水出ないのに? いいからここにいろよ。白井さんがいないと、誤解が解けないじゃないか」
「でも、私には関係ないし」
突然洋介が乱入してきて、兄弟の言い争いになっているのに、どこまでも澄ましてい白井が、取り乱し立ち去ろうとしている。
「なに言ってんだよ。ここが白井の家のわけないじゃん」
中腰になって右往左往している白井に、洋介が言った。
「白井、寮生だよね」
今、何て言った。寮生だって? 寮生ってことは、寮から学校に通ってるわけだから、だから?
「だから、寮から学校に通っていて、ここが実家なんだろ?」
「いいや、確か実家は他県で、もっと遠いところだったぜ」
こめかみを、歯医者のドリルでキュイーンと抉られるような衝撃があった。
「兄ちゃんは、ここがアンタの家だと思ってるみたいだけど、いったいどういうこと?」
彼女はもう一歩も動かず、その場にしゃがみ込んだ。
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