53 / 90
53.蝋燭の火
しおりを挟む
紙をめくる音だけが、部屋に響く。
外からはカキーンカキーンと硬度の高いものが、ぶつかる音が聞こえてくる。マッチ一本火事の元、とつぶやきたくなるあれだ。
テーブルの上は、やわかな灯がともっている。部屋中が、夜の訪れとともに真っ暗闇になり、テーブルの周辺だけが、ちらちらと照らされていた。
灯とは蝋燭のことであり、正面に彼女の顔が浮かび上がった。彼女は、身体にそぐわない、ずっしりとした大きな本を捲りながら、文字に目を寄せている。
「どうしたの、お腹でも空いた?」彼女が顔を上げた。
「こんな暗いところで活字なんか読んでると、目悪くなるぞ」
「悪かったね、こんなところで。いやだったら出てけば」
冗談じゃない。古い家だけに、風で窓枠ががたがたと鳴っている。寒空の下、放り出されてたまるか。
「電気が止まってるって、どういうことだよ。そんなに生活、困ってるのか」
白井の視線が、宙を一周した。
「たまたま振込忘れただけだって」
疑わしい。かなり滞納しているんじゃないのか。
「なにか俺にできることがあれば、言ってみろ、力になるぞ」
「高校生になにができるっていうの。他人の家の事情に口をはさまないで」
白井は、はんと鼻で笑った。
「ほんとに払い忘れてただけ。今日から止められてるんだから。真っ暗も、たまにはいいじゃない」
「でも、俺たち、本読んでるんだし」
白井はもっともだという表情をして、顎に手を当てた。
「でも、電気がつかないのはどうしようもないんだし、あ、ちょっと待ってて」
立ち上がりながら、右手で待てのポーズを取って、いそいそと白井は部屋を出て行った。
しばらくして戻ってくると、袋いっぱいに入ったロウソクを抱えていた。
「え、おい、これ全部灯すのか?」
「全部じゃないよ、いくつか増やせばいいんじゃない。きっと部屋も明るくなるよ」
「本気?」下手すりゃ火事を呼ぶぞ。
白井が火をつけていき、俺が蝋を皿の上に垂らし、ロウソクを立てていった。テーブルの中央に、全部で五つのロウソクが並び、原始的な炎が赤々と灯る。
「これで大分、マシになったね」
マッチの火をふっと吹き消しながら、白井は満足気味にロウソクの明かりを見つめていた。これからどんな儀式を始めるんだ、といったあやしさは残ったが、テーブルの周りはとても明るくなった。
外からはカキーンカキーンと硬度の高いものが、ぶつかる音が聞こえてくる。マッチ一本火事の元、とつぶやきたくなるあれだ。
テーブルの上は、やわかな灯がともっている。部屋中が、夜の訪れとともに真っ暗闇になり、テーブルの周辺だけが、ちらちらと照らされていた。
灯とは蝋燭のことであり、正面に彼女の顔が浮かび上がった。彼女は、身体にそぐわない、ずっしりとした大きな本を捲りながら、文字に目を寄せている。
「どうしたの、お腹でも空いた?」彼女が顔を上げた。
「こんな暗いところで活字なんか読んでると、目悪くなるぞ」
「悪かったね、こんなところで。いやだったら出てけば」
冗談じゃない。古い家だけに、風で窓枠ががたがたと鳴っている。寒空の下、放り出されてたまるか。
「電気が止まってるって、どういうことだよ。そんなに生活、困ってるのか」
白井の視線が、宙を一周した。
「たまたま振込忘れただけだって」
疑わしい。かなり滞納しているんじゃないのか。
「なにか俺にできることがあれば、言ってみろ、力になるぞ」
「高校生になにができるっていうの。他人の家の事情に口をはさまないで」
白井は、はんと鼻で笑った。
「ほんとに払い忘れてただけ。今日から止められてるんだから。真っ暗も、たまにはいいじゃない」
「でも、俺たち、本読んでるんだし」
白井はもっともだという表情をして、顎に手を当てた。
「でも、電気がつかないのはどうしようもないんだし、あ、ちょっと待ってて」
立ち上がりながら、右手で待てのポーズを取って、いそいそと白井は部屋を出て行った。
しばらくして戻ってくると、袋いっぱいに入ったロウソクを抱えていた。
「え、おい、これ全部灯すのか?」
「全部じゃないよ、いくつか増やせばいいんじゃない。きっと部屋も明るくなるよ」
「本気?」下手すりゃ火事を呼ぶぞ。
白井が火をつけていき、俺が蝋を皿の上に垂らし、ロウソクを立てていった。テーブルの中央に、全部で五つのロウソクが並び、原始的な炎が赤々と灯る。
「これで大分、マシになったね」
マッチの火をふっと吹き消しながら、白井は満足気味にロウソクの明かりを見つめていた。これからどんな儀式を始めるんだ、といったあやしさは残ったが、テーブルの周りはとても明るくなった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

釣りガールレッドブルマ(一般作)
ヒロイン小説研究所
児童書・童話
高校2年生の美咲は釣りが好きで、磯釣りでは、大会ユニホームのレーシングブルマをはいていく。ブルーブルマとホワイトブルマーと出会い、釣りを楽しんでいたある日、海の魔を狩る戦士になったのだ。海魔を人知れず退治していくが、弱点は自分の履いているブルマだった。レッドブルマを履いている時だけ、力を発揮出きるのだ!

ティラノサウルスの兄だいジンゴとツノ
モモンとパパン
児童書・童話
ティラノサウルスのお兄ちゃんのジンゴと弟のツノは、食事を済ませると
近くの広場へ遊びに行きました。
兄だいで、どちらが勝つのか競争をしました。勝ったのはどちらでしょうか?
そこへ、トリケラトプスの群れがやって来ました。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?

キミと踏み出す、最初の一歩。
青花美来
児童書・童話
中学に入学と同時に引っ越してきた千春は、あがり症ですぐ顔が真っ赤になることがコンプレックス。
そのせいで人とうまく話せず、学校では友だちもいない。
友だちの作り方に悩んでいたある日、ひょんなことから悪名高い川上くんに勉強を教えなければいけないことになった。
しかし彼はどうやら噂とは全然違うような気がして──?

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる