たまり場に湯気

闇雲の風

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53.蝋燭の火

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 紙をめくる音だけが、部屋に響く。
 外からはカキーンカキーンと硬度の高いものが、ぶつかる音が聞こえてくる。マッチ一本火事の元、とつぶやきたくなるあれだ。
 テーブルの上は、やわかな灯がともっている。部屋中が、夜の訪れとともに真っ暗闇になり、テーブルの周辺だけが、ちらちらと照らされていた。
 灯とは蝋燭のことであり、正面に彼女の顔が浮かび上がった。彼女は、身体にそぐわない、ずっしりとした大きな本を捲りながら、文字に目を寄せている。
「どうしたの、お腹でも空いた?」彼女が顔を上げた。
「こんな暗いところで活字なんか読んでると、目悪くなるぞ」
「悪かったね、こんなところで。いやだったら出てけば」
 冗談じゃない。古い家だけに、風で窓枠ががたがたと鳴っている。寒空の下、放り出されてたまるか。
「電気が止まってるって、どういうことだよ。そんなに生活、困ってるのか」
 白井の視線が、宙を一周した。
「たまたま振込忘れただけだって」
 疑わしい。かなり滞納しているんじゃないのか。
「なにか俺にできることがあれば、言ってみろ、力になるぞ」
「高校生になにができるっていうの。他人の家の事情に口をはさまないで」 
 白井は、はんと鼻で笑った。
「ほんとに払い忘れてただけ。今日から止められてるんだから。真っ暗も、たまにはいいじゃない」
「でも、俺たち、本読んでるんだし」
 白井はもっともだという表情をして、顎に手を当てた。
「でも、電気がつかないのはどうしようもないんだし、あ、ちょっと待ってて」
 立ち上がりながら、右手で待てのポーズを取って、いそいそと白井は部屋を出て行った。
 しばらくして戻ってくると、袋いっぱいに入ったロウソクを抱えていた。
「え、おい、これ全部灯すのか?」
「全部じゃないよ、いくつか増やせばいいんじゃない。きっと部屋も明るくなるよ」
「本気?」下手すりゃ火事を呼ぶぞ。
 白井が火をつけていき、俺が蝋を皿の上に垂らし、ロウソクを立てていった。テーブルの中央に、全部で五つのロウソクが並び、原始的な炎が赤々と灯る。
「これで大分、マシになったね」
 マッチの火をふっと吹き消しながら、白井は満足気味にロウソクの明かりを見つめていた。これからどんな儀式を始めるんだ、といったあやしさは残ったが、テーブルの周りはとても明るくなった。
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