たまり場に湯気

52.泊まる

　テーブルには昼ごはんの残骸が広がっていた。
　朝、白井と一緒に買ったパンが余ったので、昼食はパンと合う食事を用意した。明太子と混ぜたマヨネーズは、カリカリのフランスパンと相性抜群。卵やベーコンが入った惣菜パンは、コンソメスープと一緒に口に入れると、体が芯からあったまる。デザートにはシナモンの効いたデニッシュパンをいただきながら、ココアを飲んで、一息吐く。
「明日休みなら、泊まってってもいいよ」と白井が言うので、家に電話しようと、リビングに置いてある受話器を上げると、
「あ。今、電話、調子悪いの」と白井から止められた。
「調子悪いって、使えないのか」
　うん、うんと、白井は首を縦に振る。
　仕方なく、鞄から携帯電話を取り出し、リダイヤルを押した。
「もしもし、若林です」
「洋介か、俺だけど、今日ヤッ君ちに泊まるから」
　ヤッ君とは中学時代の友人だ。かれこれ二年会ってない。
「兄ちゃん」
「なんだよ」心臓がどきどきしている。
「嘘ついてんじゃ、ねーだろうな」　
　案外気が弱いんだろうか。落ち付け、俺の鼓動。
「あやしいんだよな、最近。兄ちゃんのこと、信用できない」
「なに言ってんだ」
　掌に汗がにじむ。
「明日の昼には帰るから、母さんたちには、そう言っといて」
「兄ちゃんが彼女のうちに泊まるって、言う」
　わあわあ騒ぐ洋介をなだめて、電話を切った。
「泊まっていくの？」
　うしろに白井が立っていた。
「さっきいいって、言ったじゃないか」
「いいよ、どうぞ」