たまり場に湯気

48.野良猫

　昨日の晩から、翌早朝に出かけると決めていた。
　まだ家族が寝静まっている時間、静かに飛び起きた。洋介はおれが服を着替えているあいだ、布団の中で安らかに寝息を立てていた。　
　外に一歩踏み出せば、まばゆい一筋の光が、うす暗い空に閃光を射している。新聞が届くか届かないかくらいの朝、こうして外に一人で歩いているのは初めてだった。
胸の内から、どこにあったのか知らない爽快感が込み上げてくる。一歩二歩と足を踏み出すと、妙にふわふわする。
　何車線もある国道二号線が、早朝から活動する車両を導き、橋の向こう側まで、ずっとつづいている。鳩や雀が羽ばたき、えさを探して飛び回っている。人の姿は、ほとんど見ない。
　流行る足そのままに、冷たい風を切って、地面を蹴りながら進んだ。頭の上を、雀が電線を伝いながら、みんなで飛んでいった。
　空気がひんやりとし、長袖一枚では寒かった。もう一枚なにか着てくるかすればよかった。できるだけ気にしないようにし、目的地に向かって進む。そこはあと十分も歩けばたどり着く。
　近づくにつれ、どきどきが重たい。なぜ緊張するのか、よくわからない。早朝に慣れないからだろうか。この道をまっすぐ行って、角を右に曲がると、公園が見えてくる。
　朝焼けに包まれた象が鼻を垂らし、きりんが首をもたげている。跳び箱のような遊具が、不揃いに顔を並べている。
　野良猫が前を横切った。前足を腹の下に折り込み、じっとしている猫もいた。薄目を開けている。遊具の後ろの林にも、猫がたくさんいた。みんな寄り集まって、暖をとっているようだ。こちらに気づき、目を見張っている猫もいる。人間の存在はいっこうに無視し、尻尾を舐めている猫もいる。猫たちは人間に臆さない。おれが突然棒を振り回して追いかけ始めても、かわいいかわいいと撫で回しても、どっちでも構わない。
　そんなこと、十分経験しているし、見てきたのだ。今更人間がどう動こうが驚かない。動作に応じて逃げるか、目を閉じてうっとりするか、しかないのだ。