たまり場に湯気

闇雲の風

文字の大きさ
上 下
39 / 90

39.行き過ぎた行動

しおりを挟む
 しばらく待ったが洋介は帰ってこず、家族三人は文句をいいながら、中華料理店をあとにした。家に帰る途中、雨が降っていた。雨がやむまで時間をつぶそうと、遅くまでやっている本屋に途中寄ったが、少々のことではやみそうもないようで、結局タクシーを使って家まで帰ってきた。
 玄関の前にずぶ濡れになった洋介が立っていた。滝に当たってきたかのようにずぶ濡れになった服、髪をつたって額からこぼれる雫。
 当然、父さんと母さんは洋介の勝手な行動怒ったが、本人は.聞き耳を持たず、バスタオルで髪を乱暴に乾かしている。どこに行っていたのか聞いても、ちょっと友達がいたから、と答えるだけ。自分が悪いくせに、なんでも聞いてくる両親をうっとうしがるのはわかる。プライバシーを守りたいのもわかる。でも今回の洋介は行き過ぎだった。
 両親の説教から解放されて、洋介が玄関側の部屋に入って来た。濡れた体を拭き、服も着替え終わっている。髪はまだ湿っていた。
「洋介が悪い。なにも言わずに勝手にいなくなって、すぐ戻るっていいながら全然戻ってこない。今度こそ反省しろ」
 洋介は横目で俺を睨みながら、カーペットの上に座り込んだ。
「今度こそってなに。戻ってもいなかったら一人で家に帰ってきただけだろ」
 小学一年のときに買ってもらった、学習机とセットのキャスター付き木のイスを後ろに引きながら、弟の顔色をうかがうが、洋介は顔を上げようともしない。
「なんで、あんなことしたんだ。どこに行ってた?」
「どこだっていいじゃん」胡坐をかいてオーディオ機器に手をかける。
「急に出て行くってことは、それなりの理由があったんだろ」
 オーディをからは勇ましいロックが流れ始める。いつものようにヘッドホンを装着しない。
「知ってる子がいたんだ」
「友達か?」
「いや、友達なんかじゃない。話したことがあるか、ないかくらいの知り合い程度なんだけど」
 胡坐をかいたまま、洋介はこちらに体を向けた。
「だれ、学校の人?」
 洋介は頷いた。
「あそこにいるってわかってたのか」
「神宮百貨店でときどき見かけるって、噂が流れてたから」恥ずかしそうに目を反らす。
「ただの知り合いに向かって、走って行ったのか?」
「知り合いかすら、わからない。向こうがぼくのことを覚えてるかどうか」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

秘密

阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

鳥の詩

恋下うらら
児童書・童話
小学生、名探偵ソラくん、クラスで起こった事件を次々と解決していくお話。

山姥(やまんば)

野松 彦秋
児童書・童話
小学校5年生の仲良し3人組の、テッカ(佐上哲也)、カッチ(野田克彦)、ナオケン(犬塚直哉)。 実は3人とも、同じクラスの女委員長の松本いずみに片思いをしている。 小学校の宿泊研修を楽しみにしていた4人。ある日、宿泊研修の目的地が3枚の御札の昔話が生まれた山である事が分かる。 しかも、10年前自分達の学校の先輩がその山で失踪していた事実がわかる。 行方不明者3名のうち、一人だけ帰って来た先輩がいるという事を知り、興味本位でその人に会いに行く事を思いつく3人。 3人の意中の女の子、委員長松本いずみもその計画に興味を持ち、4人はその先輩に会いに行く事にする。 それが、恐怖の夏休みの始まりであった。 山姥が実在し、4人に危険が迫る。 4人は、信頼する大人達に助けを求めるが、その結果大事な人を失う事に、状況はどんどん悪くなる。 山姥の執拗な追跡に、彼らは生き残る事が出来るのか!

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

鎌倉西小学校ミステリー倶楽部

澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】 https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230 【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】 市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。 学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。 案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。 ……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。 ※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。 ※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。 ※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)

ベンとテラの大冒険

田尾風香
児童書・童話
むかしむかしあるところに、ベンという兄と、テラという妹がいました。ある日二人は、過去に失われた魔法の力を求めて、森の中に入ってしまいます。しかし、森の中で迷子になってしまい、テラが怪我をしてしまいました。そんな二人の前に現れたのは、緑色の体をした、不思議な女性。リンと名乗る精霊でした。全九話です。

処理中です...