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32.『欽ちゃんの仮装大賞』
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「兄ちゃん、最近帰り遅いよな」
「ん?」
台所では洋介が今日の晩飯を作っている。カツの揚がるいい匂いが居間に漂ってくる。
「このあいだまで六時頃には帰ってたのに」
「そうだっけ」
ソファに座ってテレビをつけて『欽ちゃんの仮装大賞』を見ていると、司会にSMAPの香取君も加わっていた。もはや欽ちゃん一人じゃ心許ないというわけか。
「そうさ、部活に行ってんの? んなわけないよな。兄ちゃん、あんまりサッカー好きじゃなさそうだし。やったらうまいのに。なんで高校でまたサッカー、入ったんだ?」
洋介が揚げ物を上げる長い菜箸を持って、上体だけそらして居間に顔を覗かせた。
「まあ、そんなこと今はいいわ。どっか寄ってんの?」
「うんん……」
「兄ちゃん、ぼくの言ってること聞いてないだろ」
「うんん……」
「もういい、今どき『欽ちゃんの仮装大賞』なんて見てるの兄ちゃんくらいだ」
「ううん……」
洋介はあきれて台所へ戻っていった。テレビの中では身長差のある欽ちゃんと香取慎吾が並ぶと、欽ちゃんの背の低さが異様に見える。
「はい、お待ち」
洋介が大盛りのカツ丼を両手に二つ持ってきた。一つをぼくの前に置いて、もうひとつを自分の前に置く。
「うまそう」
「だろ、食ってみて」
本当においしそうだった。揚げたてのカツが半熟の卵に囲まれて照り輝いている。洋介に急かされるまま箸を取って、一気にほお張る。あつあつのだしの効いた卵と、さっくり揚がったカツの絶妙な調和が口の中いっぱいに広がった。
「うまい! 卵とカツの火の加減もちょうどいい」
「これが実力です」
洋介もご飯とカツを、がつがつかき込んでいだ。
「どっか、こうしたらもっとうまくなる点はある?」
「そうだなあ、ご飯をもう少し硬く炊いてみたらどう? 普段より若干噛みごたえのあるご飯の方がいいんじゃないか」
洋介は箸を止めてご飯を見つめている。
「そっか、出汁で少しご飯が湿るしな。俺、料理の基本てもんを知らんからな」
ほかに言えることがなかった。
それくらい、おいしかった。
「ん?」
台所では洋介が今日の晩飯を作っている。カツの揚がるいい匂いが居間に漂ってくる。
「このあいだまで六時頃には帰ってたのに」
「そうだっけ」
ソファに座ってテレビをつけて『欽ちゃんの仮装大賞』を見ていると、司会にSMAPの香取君も加わっていた。もはや欽ちゃん一人じゃ心許ないというわけか。
「そうさ、部活に行ってんの? んなわけないよな。兄ちゃん、あんまりサッカー好きじゃなさそうだし。やったらうまいのに。なんで高校でまたサッカー、入ったんだ?」
洋介が揚げ物を上げる長い菜箸を持って、上体だけそらして居間に顔を覗かせた。
「まあ、そんなこと今はいいわ。どっか寄ってんの?」
「うんん……」
「兄ちゃん、ぼくの言ってること聞いてないだろ」
「うんん……」
「もういい、今どき『欽ちゃんの仮装大賞』なんて見てるの兄ちゃんくらいだ」
「ううん……」
洋介はあきれて台所へ戻っていった。テレビの中では身長差のある欽ちゃんと香取慎吾が並ぶと、欽ちゃんの背の低さが異様に見える。
「はい、お待ち」
洋介が大盛りのカツ丼を両手に二つ持ってきた。一つをぼくの前に置いて、もうひとつを自分の前に置く。
「うまそう」
「だろ、食ってみて」
本当においしそうだった。揚げたてのカツが半熟の卵に囲まれて照り輝いている。洋介に急かされるまま箸を取って、一気にほお張る。あつあつのだしの効いた卵と、さっくり揚がったカツの絶妙な調和が口の中いっぱいに広がった。
「うまい! 卵とカツの火の加減もちょうどいい」
「これが実力です」
洋介もご飯とカツを、がつがつかき込んでいだ。
「どっか、こうしたらもっとうまくなる点はある?」
「そうだなあ、ご飯をもう少し硬く炊いてみたらどう? 普段より若干噛みごたえのあるご飯の方がいいんじゃないか」
洋介は箸を止めてご飯を見つめている。
「そっか、出汁で少しご飯が湿るしな。俺、料理の基本てもんを知らんからな」
ほかに言えることがなかった。
それくらい、おいしかった。
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