たまり場に湯気

闇雲の風

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27.馬鹿丁寧

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「そんな雑巾だけじゃ、拭ききれないだろう」
「ねえ、このまま床を綺麗にしてしまわない? ほうきで埃を掃きとってから、汚れを雑巾で拭くより、二度手間にならなくていいかも」
 白井は勝手にビニール袋から洗剤を取り出して、水浸しの床の上に液体をまいた。
 それから水分を吸いきった雑巾で擦すると、黒ずんでいた床は、みるみるうちに本来の木の色を取り戻していった。
 あっけにとられていると、服の裾を引っ張られた。
「見てないで、若林さんもやって」
 仕方なく、びしょぬれの雑巾を手に、床を擦ってみる。水浸しの効果か、洗剤の泡立ちがよく、意外にも簡単に汚れは落ちた。
「よかったね、もうほうきで掃かなくてもいいよ」白井は得意げに歯を見せた。
「でも埃が全部雑巾につく」
 泡立ちがいいのはいいが、埃を掃いて取り除いていないため、少し拭いただけでも雑巾には大量の埃が付着する。拭き続けている彼女の雑巾は、すでに埃にまみれていた。痛いところをつかれたのか、白井は豪快にぼくの背中をばしばしと叩いた。
「まあまあ、小さいことは気にしなさんな。代わりにあたしが手伝ってあげるから」
「本当か? 最初だけじゃあ、ないだろうな」
「若林さんだけだったら、馬鹿丁寧でいつ終わるかわかんないからね。私がちゃんと見ておかないと」
「白井なんて、どうせ掃除自体しないんだろ」
 白井は気分を害したのか手を止めた。
「そんなことないよ。一ヶ月に一度くらいは掃除する」
「一ヶ月に一度? そんなんで、ちゃんとなんていえるのか」
「それだけすれば十分でしょ。あんたが几帳面すぎるの」
 そうなのか? いや、そんなことはないはずだ。
「それで大丈夫か?」
「なにが?」
 白井はなにをいっているのかわからないという顔でこっちを見ている。
「いや、体とか。精神的にとか。困ったことにはならないのか?」
「ならない。なに、若林さんは体調的にも精神的にも弱いの?」
「白井さんと比べたらそういうことになるんだろうな」世間一般からしたら、俺のほうが正しい、と思う。
「そういえば窓の埃はたいてなかった? もういいの?」
 白井がバケツをひっくり返すまでは、部屋全体にはたきをかけていた。まず高いところのごみを下に落としてから、床に掃除機をかけようと思っていたのだ。すっかり忘れていた。
 手順通りにやれば、効率も完璧だったはずなのに、とんだ手ちがいが起こって台無しだ。
「もういい、あとで雑巾で拭き取ることにするから」
「そう。先に高いところから綺麗にしたほうが効率がいいんじゃない?」
 だからおまえが言うな。

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