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25.後継ぎ
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掃除は次回やることを決心し、ベッドの上に座ったが、埃が舞い上がり、また咳き込む羽目になった。
ベッドは諦め、椅子の上をはたいてから、腰かけた。
猫は埃などまったく気にせず、ベッドの上で耳をかいている。ベッドで寛ぐのは、今は猫の特権だ。
『シューベルト』で出されたかぼちゃのポタージュは、アメリカの素朴な家庭料理を再現しながら、一段上のレストランの味に仕上がっていた。
俺が作るポタージュは、個性に欠けるだけでなく、おいしいといえるレベルにも達していない。牛乳が主張しすぎているのかもしれない。
学生鞄からをノートとシャーペンを取り出し、丸机に向かって、それぞれのポタージュのちがいを書き出していく。
急に、今朝の風景が脳裏をよぎった。
今朝、洋介と朝飯を食べていたときのことだ。
「『シューベルト』ってだれが継ぐんだろうな。弟子はいないし、俺らが継ぐなんて、親は思ってないだろうし」
俺は牛乳の入ったコップを手に取った。
「そうだな。父さんたち、そういう欲ないもんな」
洋介はウインナーの刺さっているフォークを握ったまま、ぴたっと動きを止めた。
「俺、考えてみようかなあ」洋介はつぶやくと、ウインナーをかじった。
今度は、俺がコップを持ったまま、動きを止められてしまっていた。
ポタージュのレシピを書きだしながら、何度もシャーペンがノートから持ち上がる。
意思とは関係なく、頭の中で何度も繰り返される、今朝の風景がわずらわしくて、頭をかきむしった。
途方もない時間が流れた気がして、本とノートを閉じると、時計の針は午後7時5分前を指していた。そろそろ帰らなければいけない時刻だ。
部屋を借りた一日目の今日。自分なりに研究内容をノートに書き留めたり、図書館で借りたフランス料理の本を読んだり、有意義な時間を過ごせた。
椅子から立ち上がり、服についた埃を払って、そっと一階に下りた。
見送ってくれたのは、ずっととなりで寝ていた猫だけで、白井は帰り際、姿を見せることもなかった。
「お邪魔しました」
玄関で誰に告げるでもなく挨拶し、その場をあとにした。
ベッドは諦め、椅子の上をはたいてから、腰かけた。
猫は埃などまったく気にせず、ベッドの上で耳をかいている。ベッドで寛ぐのは、今は猫の特権だ。
『シューベルト』で出されたかぼちゃのポタージュは、アメリカの素朴な家庭料理を再現しながら、一段上のレストランの味に仕上がっていた。
俺が作るポタージュは、個性に欠けるだけでなく、おいしいといえるレベルにも達していない。牛乳が主張しすぎているのかもしれない。
学生鞄からをノートとシャーペンを取り出し、丸机に向かって、それぞれのポタージュのちがいを書き出していく。
急に、今朝の風景が脳裏をよぎった。
今朝、洋介と朝飯を食べていたときのことだ。
「『シューベルト』ってだれが継ぐんだろうな。弟子はいないし、俺らが継ぐなんて、親は思ってないだろうし」
俺は牛乳の入ったコップを手に取った。
「そうだな。父さんたち、そういう欲ないもんな」
洋介はウインナーの刺さっているフォークを握ったまま、ぴたっと動きを止めた。
「俺、考えてみようかなあ」洋介はつぶやくと、ウインナーをかじった。
今度は、俺がコップを持ったまま、動きを止められてしまっていた。
ポタージュのレシピを書きだしながら、何度もシャーペンがノートから持ち上がる。
意思とは関係なく、頭の中で何度も繰り返される、今朝の風景がわずらわしくて、頭をかきむしった。
途方もない時間が流れた気がして、本とノートを閉じると、時計の針は午後7時5分前を指していた。そろそろ帰らなければいけない時刻だ。
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見送ってくれたのは、ずっととなりで寝ていた猫だけで、白井は帰り際、姿を見せることもなかった。
「お邪魔しました」
玄関で誰に告げるでもなく挨拶し、その場をあとにした。
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