たまり場に湯気

闇雲の風

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24.部屋の検分

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「俺だって腹が減るんだ。それに飯は、一人で食べるよりみんなと食べたほうがうまいだろ」
「好きな人と食べるんならおいしいけど、きらいな人と食べるときは、よっぽどお腹空いてるときじゃないと不味いけどね」
 思わずスプーンを止めた。皿からかは、すでに湯気が消えている。
「そうじゃない?」
「別に。きらいなやつなんていないし」
「そう、全然、一人も?」
「好きじゃない人くらいなら、いるけど」
 白井はスプーンを手にしたまま、こちらを見つめている。
「じゃあ、すごく好きな人はいる?」
 すごく好きな人、とは恋人とかそういったこととは別だろうか。
「いるよ」
「好きな人、ちゃんといるのか……」
 白井は眉間に皺を寄せた。
 なにを言おうとしているのか、まったくわからない。
「それってどんな風に?」
 どんな意図で質問しているのだろうか。人が人を好きになるとき、理由なんていくらでもあると思う。
「自分もこんな大人になりたいとか」
 言ってて恥ずかしい。聞かれていることに答えているだけなのに、服を一枚一枚脱がされているような気がしてくる。
「そっか、いいね」
「なんでそんなこと聞くの、白井さんにだって好きな人くらいいるだろ」
 沈黙が流れ、
「いないかも」
 彼女は寒々しい微笑を浮かべた。


 食事をすませ、俺は改めて二階の部屋へ上がった。
 白井は「勝手に使って」というと、あくびをしながら、ふらりと別の部屋へ消えていった。どうやらこのまま仮眠をとるようだ。
 借りることになった部屋は、八畳ほどの洋室だった。窓から見える外は、もう暗くなり始めていた。
 足を踏み入れると、まず窓を開け、咳きをした。
「換気もしてないのか」
 普段使われていないのだろう、何処もかしこも埃がたっぷり積もっていた。
 左側に木製のベッドと右側に棚、本棚など家具があり、中央に丸い机と椅子が一対あり、床には灰色の絨毯が敷き詰められていた。
 フニュ。
 観察しながら歩き回っていると、やわらかいものを踏んだ。体重が乗り切る前に足を上げると、猫がこちらをにらみながら、うずくまっていた。
「ニャ、ニャア」
 猫は立ち上がり、ぴんと尻尾を伸ばして鳴いた。
「い、いつのまに入った⁉︎ ごめん、気付かなかった。痛くなかったか?」
「ニ、ニ、ニャ、ニャ、ニャア」
 怒っているのか、口を左右に広げ、顔を引きつらせながら、俺の目をまっすぐ見つめてくる。感情表現豊かな猫だ。
「なんて名前なんだ?」
「ニヤア」
 頭をなでてやると、掌に擦り付けてきた。今度、白井に名前を聞いておこう。

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