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19.覇気がない
しおりを挟む太く鈍い音を鳴らし、玄関のドアはゆっくりと開いた。
ぼくより二十センチくらい背の低い白井が、斜め下の角度から、つり気味の目で見上げてきた。
「本当に来てしまったんだけど、よかったよな…?」
「―――真に受ける奴がいたんだな。ーーーどうぞ」
はい? 今なんて?
玄関まで上がり、靴を脱いでもいいものかと考えながら、いざ流れで脱ごうと屈んだとき、つぶやくような声が聞こえ、思わず動作を止めて顔を上げた。
「さ、早く入って。玄関は寒いから、さっさと部屋に行きましょう」
白井は二つに分けた髪を耳より高い位置で結び、ふりふり揺らしながら、一人で先に部屋の奥へと進んでいった。ぼくは慌てて靴を脱ぎ、彼女のあとを追った。
リビングに入ると、白井はテーブルの前に座り込んだ。明かりは窓からわずかに差し込む太陽の光しかなく薄暗かった。
白井はぼくがいることなんてお構いなしに、テーブルに置いていた読みかけの本を開き、目を通し始めた。
「あのさ、どうすればいいんだろうか」立ちつくしたまま、座り込んでいる白井に尋ねた。
彼女はぼんやりとこちらを見上げた。
「…ああ、そうだった。あんたの部屋に案内しないとね」
そう言うとだるそうに立ち上がり、おぼつかない足取りでリビングの外へと歩いて行った。
またしても彼女のあとを追いながら、リビングを出て玄関先に向かった。そこには二階につづく階段があり、彼女は踏み締めるように一歩一歩、階段を上っていく。背中からは覇気を感じられない。木の軋みが煩く、手摺は汚れていた。階段を上りきると、左手に廊下がつづき、扉が三つあった。
白井はゆっくりと歩きながら、真ん中の扉の前で立ち止まり、振り返った。頬がこけた、疲れた顔が、ぼくを見据えていた。……疲れた顔?
「ここが、あんたの部屋。ちょっと埃っぽいかも」
ドアノブに手をかけて開けると、向こう側に開いた扉と一緒に、ドアノブをつかんだまま上体が前方にぐらっと揺れた。
ガクッ。
一瞬人間の体が折れたと思った。間一髪で後ろから服をつかんだが、彼女は危険を本能で察し、顔面から倒れこむ直前に右手で床を支えようとしていた。とはいえ、ぼくがいなければ、怪我を負っていただろう。
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