たまり場に湯気

闇雲の風

文字の大きさ
上 下
18 / 90

18.かぼちゃの旬

しおりを挟む
「試作って、何作ってるの?」
 よくぞ聞いてくれた、とでも言うように、父さんは左手に拳を作り胸に当てながら、上体を大きく反らした。
「かぼちゃのポタージュだ。これから寒くなるし、きっとうまいぞー」
 すでに自信があるのか、顔からホクホクとあったかそうな笑顔を溢す。まるでジャムおじさんのような。これは試作といいながら、ほぼメニューにすることは決まっているのだろう。かぼちゃは夏に収穫し、数カ月保管して追熟した秋から冬に食べるほうが、甘みが詰まっておいしい。
「それ、かぼちゃのポタージュとオムライスを大盛りにして」
「何だ、宙兄もオムライスか。人気があるなあ」
 今やオムライスは人気の頂点まで駆け足で昇りつめていた。最高潮のブームを迎えたあとも、その人気は衰えることを知らず、洋食屋や喫茶店では人気メニューの座を目下独走中である。ぼくも例に漏れず好物だが、そればかりというのでもなく、単に昼間に食いそびれたオムライスを食べておきたいというか、またそればかりでもなく、白井が「本当においしい」と言った、ぼくが作ったオムライスと、父さんのオムライスに、どれくらい差があるのか気になったからだ。
「洋介は、どうする」
 手元のメニューをぱらぱらとめくりながら、洋介は決めかねているようだ。
「ビーフシチューを、パンで」
 めずらしく、お子様らしくないものだった。お勧めということもあってだろうが。父さんはにんまりと笑った。
「かぼちゃのポタージュとオムライスとビーフシチュー、セットメニューはパンでよろしいですね」
 実に満足そうである。
「はい」
 ぼくたちは揃って返事をした。どうでもいいから早く持ってきて欲しい気分である。すっかり腹が減ってきていた。父さんはそんな状態を知ってか知らずか、まだ話したりなさそうだが、同時に自慢の料理を早く息子たちに食べてもらいたくもあるようで「ちょっと待っててな」と足早に厨房へと去った。
 それから料理が来るまで、ぼくと洋介は、テレビ番組や、学校のむかつく先生、音楽の話で盛り上がった。弟とは二歳年が離れていて、性格もなんとなく自分と違うような気がするが、不思議と気が合う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

おかたづけこびとのミサちゃん

みのる
児童書・童話
とあるお片付けの大好きなこびとさんのお話です。

なんでおれとあそんでくれないの?

みのる
児童書・童話
斗真くんにはお兄ちゃんと、お兄ちゃんと同い年のいとこが2人おりました。 ひとりだけ歳の違う斗真くんは、お兄ちゃん達から何故か何をするにも『おじゃまむし扱い』。

とあるぬいぐるみのいきかた

みのる
児童書・童話
どっかで聞いたような(?)ぬいぐるみのあゆみです。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

美しさはバラの中

葵桜
児童書・童話
ノア この少年に起こる不思議な出来事...。 楽しくて美しい日々は終わってしまう、しかし大切な思い出であることに変わりはないと、今大人になって思う。

ヴァンパイアハーフにまもられて

クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。 ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。 そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。 ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。 ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。

【完結】またたく星空の下

mazecco
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 君とのきずな児童書賞 受賞作】 ※こちらはweb版(改稿前)です※ ※書籍版は『初恋×星空シンバル』と改題し、web版を大幅に改稿したものです※ ◇◇◇冴えない中学一年生の女の子の、部活×恋愛の青春物語◇◇◇ 主人公、海茅は、フルート志望で吹奏楽部に入部したのに、オーディションに落ちてパーカッションになってしまった。しかもコンクールでは地味なシンバルを担当することに。 クラスには馴染めないし、中学生活が全然楽しくない。 そんな中、海茅は一人の女性と一人の男の子と出会う。 シンバルと、絵が好きな男の子に恋に落ちる、小さなキュンとキュッが詰まった物語。

処理中です...