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二章終
終局
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クリンの調査書類の隠し場所は、首都内部であった。
その数は十数ヵ所に及び、場所の確認と回収用の大きめのバックパックを用意と、これだけで一晩かかってしまう。
ドアの向こうが騒がしい。
長官から『爪』の出動が命じられ、部隊長が動き出したのだろう。
一週間と数日でサイティエフ領は制圧される。
いきなり皆殺しとはならないはずだ。
生き残りの捕縛、その取り調べや血判状とのすり合わせ、それから裁きという流れになるはず。
……反乱は連座制だ。
一族も罰を受ける事になる。
全てを覚悟しての血判だと解っているが、なんとも……。
通行証である団服を左前腕にかけ、バックパックを背負って新しいブーツで一号室を出る。
見覚えがある顔が一つ視界に入った。
「グレイか……」
第三団アルファ部隊長、ダン=ウエイド。
『卒業式』の見届け人だ。
「三団と……二団が出るんですね」
もう一つ見慣れない顔があるが、一応知っていた。
重装歩兵主体の第三団と組む事が多い、騎兵主体の第二団のアルファ部隊長……確かアルベール=コルネという名だったはずだ。
「貴殿が今回の調査を行った『牙』か」
いかにも公国人といった、金髪碧眼の中年男。
彼の言葉に頷いて見せると、彼も頷き返して来る。
「後は任せたまえ。ダン、行こう」
「じゃあな」
促すアルベールにダンも、おう、と応えて俺に軽く右手を挙げて共に立ち去った。
俺も行こう。
一号室に鍵をかけ、司令部を出る。
まず王宮区画を出て、上級区画も抜けて、下級区域へ。
俺の住む区画だが、いつもと行動圏が違うし、念のため顔も隠した。
知り合いに会う確率は低い。
下町の中でも更に辺鄙で……法律が及びにくい場所まで入り込んだ。
隠し場所は多岐に渡った。
何者かが生活した形跡の残る廃屋に作られた、複雑なパズルの様な仕掛けの隠し扉。
穴に押し込んで漆喰で固めた後に、古く見せる偽装をした塀。
見るからにカタギではないお兄さんのたむろする酒場の、木製の壁の中。
下水道の格子にくくりつけられ、汚水に沈められた鉄の箱には閉口した。
他にも何ヵ所も走り回って、片っ端からバックパックに詰めていった。
汗と、嫌な汗と、漆喰の屑と、汚水にまみれてぐったりしたところで、やっと集め終わる。
すっかり日が暮れていた。
司令部に戻って、あの女性職員に湯浴みの手配を頼む。
無表情を貫いてきた彼女が、初めて眉間にシワを寄せた。
やっと人心地ついて、全てしっかりと油紙で梱包された書類を解く。
クリンから直接受け取った名簿の名前毎に分別していく最中、俺は気を失う様に眠りに落ちた。
夢を見た。
俺はガキの身体で、手には錆びて刃こぼれ著しいナイフを握っている。
身体は勝手に動き、十四、五歳の少女を連れた男に向かっていく。
自分の中に明確な殺意を、他人事の様に自覚する。
「グレイ、ダメっ!」
そんな俺に気づいた少女が、両手を広げて進路上に立ち塞がる。
止められる勢いとタイミングではなかった。
刃が少女の左胸に飲み込まれた。
感触は無いのに、現実味だけは嫌というほど有る。
「この……お金を、皆に……」
肺が破れた証左の、気泡を含んだ鮮血を吐きながら、少女が俺に小さな革袋を差し出した。
泣きわめく俺がそれを受け取ったのを見届けて、少女は最期の息を吐いた。
「レラ……」
俺は眼を開いた。
無意識に呼んだ少女の名が、虚しく響く。
ぎっ!
食い縛った歯が耳障りに軋む。
「続きだ」
誰に向けるでもなく宣言して、分別作業の続きにかかる。
寝てしまった時間は恐らく五時間。
窓の外が白み始めている。
書類は数百枚に及んだ。
クリンの言葉通り、名簿にある貴族の泣き所がびっしりと記されている。
「こいつは色々ひっくり返るぞ」
彼の執念が、ひしひしと感じられる書類の山を眺める。
同時に複雑な気持ちにもなる。
対象の貴族の身分が高すぎる。
しかもうち一人、『エルネスト=ヴィダリ侯爵』は政治に食い込む大物だ。
国王の勅命を以てしても、エルネストが抱き込んだ他の貴族の反発を受けて、なあなあになる可能性も出てくる。
サイティエフ領の元領主はいささか小物だが、この書類を見るに、多額の金をエルネストに献上している。
守りに動くのは目に見える。
しかもこれらは元々が『裏切り者の耳』が集めた情報だ。
だが、
「やれるだけやらないとな」
深呼吸と共に声に出す。
「見ちまった光景と感じてしまった理不尽は無視できなかった」
クリンの言葉が甦る。
俺はバックパックに書類を詰め直し、長官執務室に向かう。
「グレイです」
「入れ」
いつものやり取りを経て、室内へ。
長官はちらりと肩にかけたバックパックを見て、
「それか」
短く問う。
それに首肯を返し、バックパックを開きながら執務机に近づく。
「まずはこれを」
名簿を取り出し、机に置いて、差し出す。
「……そうそうたる面子だな」
片手で持ち、椅子に背を預けた長官が顎を撫でる。
「次はこれらです」
ばさりばさりと個別に分別した書類の束を並べて示す。
長官はそれらをざっと眺めて、口を開く。
「これをどうしろと言うんだ?」
ケルベロスは国王の直属の組織だが、政治的な影響力は無い。
無いからこそ、成り立っているとも言える。
圧倒的武力を以て政治に口を挟めば、確実に国王を傀儡に落とす。
「あくまで報告です。判断するのは国王……陛下でしょう」
じろりと睨まれ、やむなく敬称を加える。
「これだけ揃えば糾弾はできよう。だが……」
長官も恐らく俺と同じ考えに至ったのだろう。
渋い顔だ。
「イゴール=サイティエフの、国王への書簡を握り潰した疑いもあります」
「証拠は」
「……ありません」
当然の事だ。
書簡そのものが書かれた事、送られた事が証明できなければ、残るのは反逆者の言葉だけだ。
事実にならない。
長官の長いため息が沈黙を生む。
名簿を脇に置き、証拠書類を凄まじい速度で読んでいく長官を俺は突っ立って眺める。
今はそれしかできない。
「……上奏はしよう。私が、直に。陛下に」
やがて、重々しく絞り出した。
「はい」
ここまでだ。
ただの『牙』一本にできるのは。
「まずはきちんと休め。酷い顔色だ」
隻眼が見上げてくる。
サイティエフ領への往復で十日、途方もなく長く感じた任務で一日、書類集めで約二日、休み無く動いた。
確かに酷い面をしているに違いない。
「……沙汰が出るまで恐らく数日かかる。まだここに泊まるのか?」
下がる気配の無い俺に根負けしたように、長官が問う。
「できれば」
帰宅して、召集を受けてまた司令部へ来る、そんな無駄な時間は要らない。
事態がどう転ぼうが、すぐに知りたい。
「好きにしろ。私は陛下に拝謁の打診をしてから、もう少しこれを精査する。お前は下がれ」
今度こそ下がる外ない。
黙って執務室のドアへ向かう。
その背に、
「ご苦労」
長官の小さな囁きが投げかけられた。
一号室へ戻るなり、気が抜けたのか、強烈な眠気に襲われる。
逆らわずにベッドに突っ伏し、夢も見ずに眠った。
沙汰が下ったのは三日後だ。
『爪』の到着まで残り二日。
サイティエフ領元領主は不法な取引や賄賂等の罪を問われ、私財の全没収の上、処刑。
名簿に名を連ねた、他数名の貴族は私財の全没収の上、永久投獄。
問題のエルネスト=ヴィダリ侯爵は、かなりの強弁で知らぬ存ぜぬを通そうとした。
しかし処刑や永久投獄を言い渡された、いわば失うものが無くなった者達が口々に彼の悪行を列挙。
その中になんとイゴール=サイティエフの書簡の握り潰しに関する証言が飛び出した。
しかも握り潰しを指示された者が、『いつか使えるかもしれない』と保存していた書簡の現物が出てくる始末。
これには国王も厳罰を以て臨んだ。
領地を含む私財の全没収、家族もろとも鞭打ちの刑、さらに荒れ地の開墾を命じた。
この荒れ地というのはマグダウェル公国の南の地方にある、断崖絶壁に囲まれた不毛の土地だ。
硬い岩盤の上にうっすら土が乗っただけであり、永久に開墾できる見込みは無い。
ある意味永久投獄よりキツい刑罰になる。
それらの刑が勅令として下された直後、サイティエフ領は『爪』に制圧された。
長官の読み通り、一日で終わったらしい。
血判状に名を連ねた者達の一族はひとまず捕縛され、生き残った面々も同じく捕縛されたそうだ。
そしてその一週間後、イゴール=サイティエフを陥れた者達の末路を知り、晴れ晴れとした表情で……処刑された。
これは俺が直に見た。
奴らの末路を伝えたのも俺だ。
イゴールやクリンを殺したのが俺だと、薄々勘づきながらも、『良くやってくれた』『ありがとう』などと口々に叫んだ。
国王はイゴールの過去の冤罪とその死に免じ、わずかな温情をかけた。
反逆者の刑罰は本来、火刑など見せしめを兼ねた苛烈なものだが、男達は斬首、女子供は苦しみの少ない服毒により刑を執行させた。
連座制は守りつつ、温情も見せた国王は市井で少しばかり人気が上がったそうだ。
狙ったかどうかは知らんが。
「おい。終わったぞ」
サイティエフ領の騎士達に丁重に葬られていたイゴールは、さすがにそのままでは示しがつかないため、騎士達と同じ、墓とも呼べない冷たい森に埋め直された。
むしろその方が本望かもしれない。
死人の考える事は解らんが。
「面倒な事をさせてくれたもんだ」
そしてクリンの遺体は、土葬も許されずに焼かれ、棄てられた。
俺は回収できた一部のみだが、イゴール達の側に埋めた。
本当に、面倒な事をさせてくれたもんだ。
その数は十数ヵ所に及び、場所の確認と回収用の大きめのバックパックを用意と、これだけで一晩かかってしまう。
ドアの向こうが騒がしい。
長官から『爪』の出動が命じられ、部隊長が動き出したのだろう。
一週間と数日でサイティエフ領は制圧される。
いきなり皆殺しとはならないはずだ。
生き残りの捕縛、その取り調べや血判状とのすり合わせ、それから裁きという流れになるはず。
……反乱は連座制だ。
一族も罰を受ける事になる。
全てを覚悟しての血判だと解っているが、なんとも……。
通行証である団服を左前腕にかけ、バックパックを背負って新しいブーツで一号室を出る。
見覚えがある顔が一つ視界に入った。
「グレイか……」
第三団アルファ部隊長、ダン=ウエイド。
『卒業式』の見届け人だ。
「三団と……二団が出るんですね」
もう一つ見慣れない顔があるが、一応知っていた。
重装歩兵主体の第三団と組む事が多い、騎兵主体の第二団のアルファ部隊長……確かアルベール=コルネという名だったはずだ。
「貴殿が今回の調査を行った『牙』か」
いかにも公国人といった、金髪碧眼の中年男。
彼の言葉に頷いて見せると、彼も頷き返して来る。
「後は任せたまえ。ダン、行こう」
「じゃあな」
促すアルベールにダンも、おう、と応えて俺に軽く右手を挙げて共に立ち去った。
俺も行こう。
一号室に鍵をかけ、司令部を出る。
まず王宮区画を出て、上級区画も抜けて、下級区域へ。
俺の住む区画だが、いつもと行動圏が違うし、念のため顔も隠した。
知り合いに会う確率は低い。
下町の中でも更に辺鄙で……法律が及びにくい場所まで入り込んだ。
隠し場所は多岐に渡った。
何者かが生活した形跡の残る廃屋に作られた、複雑なパズルの様な仕掛けの隠し扉。
穴に押し込んで漆喰で固めた後に、古く見せる偽装をした塀。
見るからにカタギではないお兄さんのたむろする酒場の、木製の壁の中。
下水道の格子にくくりつけられ、汚水に沈められた鉄の箱には閉口した。
他にも何ヵ所も走り回って、片っ端からバックパックに詰めていった。
汗と、嫌な汗と、漆喰の屑と、汚水にまみれてぐったりしたところで、やっと集め終わる。
すっかり日が暮れていた。
司令部に戻って、あの女性職員に湯浴みの手配を頼む。
無表情を貫いてきた彼女が、初めて眉間にシワを寄せた。
やっと人心地ついて、全てしっかりと油紙で梱包された書類を解く。
クリンから直接受け取った名簿の名前毎に分別していく最中、俺は気を失う様に眠りに落ちた。
夢を見た。
俺はガキの身体で、手には錆びて刃こぼれ著しいナイフを握っている。
身体は勝手に動き、十四、五歳の少女を連れた男に向かっていく。
自分の中に明確な殺意を、他人事の様に自覚する。
「グレイ、ダメっ!」
そんな俺に気づいた少女が、両手を広げて進路上に立ち塞がる。
止められる勢いとタイミングではなかった。
刃が少女の左胸に飲み込まれた。
感触は無いのに、現実味だけは嫌というほど有る。
「この……お金を、皆に……」
肺が破れた証左の、気泡を含んだ鮮血を吐きながら、少女が俺に小さな革袋を差し出した。
泣きわめく俺がそれを受け取ったのを見届けて、少女は最期の息を吐いた。
「レラ……」
俺は眼を開いた。
無意識に呼んだ少女の名が、虚しく響く。
ぎっ!
食い縛った歯が耳障りに軋む。
「続きだ」
誰に向けるでもなく宣言して、分別作業の続きにかかる。
寝てしまった時間は恐らく五時間。
窓の外が白み始めている。
書類は数百枚に及んだ。
クリンの言葉通り、名簿にある貴族の泣き所がびっしりと記されている。
「こいつは色々ひっくり返るぞ」
彼の執念が、ひしひしと感じられる書類の山を眺める。
同時に複雑な気持ちにもなる。
対象の貴族の身分が高すぎる。
しかもうち一人、『エルネスト=ヴィダリ侯爵』は政治に食い込む大物だ。
国王の勅命を以てしても、エルネストが抱き込んだ他の貴族の反発を受けて、なあなあになる可能性も出てくる。
サイティエフ領の元領主はいささか小物だが、この書類を見るに、多額の金をエルネストに献上している。
守りに動くのは目に見える。
しかもこれらは元々が『裏切り者の耳』が集めた情報だ。
だが、
「やれるだけやらないとな」
深呼吸と共に声に出す。
「見ちまった光景と感じてしまった理不尽は無視できなかった」
クリンの言葉が甦る。
俺はバックパックに書類を詰め直し、長官執務室に向かう。
「グレイです」
「入れ」
いつものやり取りを経て、室内へ。
長官はちらりと肩にかけたバックパックを見て、
「それか」
短く問う。
それに首肯を返し、バックパックを開きながら執務机に近づく。
「まずはこれを」
名簿を取り出し、机に置いて、差し出す。
「……そうそうたる面子だな」
片手で持ち、椅子に背を預けた長官が顎を撫でる。
「次はこれらです」
ばさりばさりと個別に分別した書類の束を並べて示す。
長官はそれらをざっと眺めて、口を開く。
「これをどうしろと言うんだ?」
ケルベロスは国王の直属の組織だが、政治的な影響力は無い。
無いからこそ、成り立っているとも言える。
圧倒的武力を以て政治に口を挟めば、確実に国王を傀儡に落とす。
「あくまで報告です。判断するのは国王……陛下でしょう」
じろりと睨まれ、やむなく敬称を加える。
「これだけ揃えば糾弾はできよう。だが……」
長官も恐らく俺と同じ考えに至ったのだろう。
渋い顔だ。
「イゴール=サイティエフの、国王への書簡を握り潰した疑いもあります」
「証拠は」
「……ありません」
当然の事だ。
書簡そのものが書かれた事、送られた事が証明できなければ、残るのは反逆者の言葉だけだ。
事実にならない。
長官の長いため息が沈黙を生む。
名簿を脇に置き、証拠書類を凄まじい速度で読んでいく長官を俺は突っ立って眺める。
今はそれしかできない。
「……上奏はしよう。私が、直に。陛下に」
やがて、重々しく絞り出した。
「はい」
ここまでだ。
ただの『牙』一本にできるのは。
「まずはきちんと休め。酷い顔色だ」
隻眼が見上げてくる。
サイティエフ領への往復で十日、途方もなく長く感じた任務で一日、書類集めで約二日、休み無く動いた。
確かに酷い面をしているに違いない。
「……沙汰が出るまで恐らく数日かかる。まだここに泊まるのか?」
下がる気配の無い俺に根負けしたように、長官が問う。
「できれば」
帰宅して、召集を受けてまた司令部へ来る、そんな無駄な時間は要らない。
事態がどう転ぼうが、すぐに知りたい。
「好きにしろ。私は陛下に拝謁の打診をしてから、もう少しこれを精査する。お前は下がれ」
今度こそ下がる外ない。
黙って執務室のドアへ向かう。
その背に、
「ご苦労」
長官の小さな囁きが投げかけられた。
一号室へ戻るなり、気が抜けたのか、強烈な眠気に襲われる。
逆らわずにベッドに突っ伏し、夢も見ずに眠った。
沙汰が下ったのは三日後だ。
『爪』の到着まで残り二日。
サイティエフ領元領主は不法な取引や賄賂等の罪を問われ、私財の全没収の上、処刑。
名簿に名を連ねた、他数名の貴族は私財の全没収の上、永久投獄。
問題のエルネスト=ヴィダリ侯爵は、かなりの強弁で知らぬ存ぜぬを通そうとした。
しかし処刑や永久投獄を言い渡された、いわば失うものが無くなった者達が口々に彼の悪行を列挙。
その中になんとイゴール=サイティエフの書簡の握り潰しに関する証言が飛び出した。
しかも握り潰しを指示された者が、『いつか使えるかもしれない』と保存していた書簡の現物が出てくる始末。
これには国王も厳罰を以て臨んだ。
領地を含む私財の全没収、家族もろとも鞭打ちの刑、さらに荒れ地の開墾を命じた。
この荒れ地というのはマグダウェル公国の南の地方にある、断崖絶壁に囲まれた不毛の土地だ。
硬い岩盤の上にうっすら土が乗っただけであり、永久に開墾できる見込みは無い。
ある意味永久投獄よりキツい刑罰になる。
それらの刑が勅令として下された直後、サイティエフ領は『爪』に制圧された。
長官の読み通り、一日で終わったらしい。
血判状に名を連ねた者達の一族はひとまず捕縛され、生き残った面々も同じく捕縛されたそうだ。
そしてその一週間後、イゴール=サイティエフを陥れた者達の末路を知り、晴れ晴れとした表情で……処刑された。
これは俺が直に見た。
奴らの末路を伝えたのも俺だ。
イゴールやクリンを殺したのが俺だと、薄々勘づきながらも、『良くやってくれた』『ありがとう』などと口々に叫んだ。
国王はイゴールの過去の冤罪とその死に免じ、わずかな温情をかけた。
反逆者の刑罰は本来、火刑など見せしめを兼ねた苛烈なものだが、男達は斬首、女子供は苦しみの少ない服毒により刑を執行させた。
連座制は守りつつ、温情も見せた国王は市井で少しばかり人気が上がったそうだ。
狙ったかどうかは知らんが。
「おい。終わったぞ」
サイティエフ領の騎士達に丁重に葬られていたイゴールは、さすがにそのままでは示しがつかないため、騎士達と同じ、墓とも呼べない冷たい森に埋め直された。
むしろその方が本望かもしれない。
死人の考える事は解らんが。
「面倒な事をさせてくれたもんだ」
そしてクリンの遺体は、土葬も許されずに焼かれ、棄てられた。
俺は回収できた一部のみだが、イゴール達の側に埋めた。
本当に、面倒な事をさせてくれたもんだ。
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