end of souls

和泉直人

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一章4

前夜

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  宿に入って数時間が経ち、夜。
  ベルの用意した宿はなかなか良い。
  スタッフは無愛想で、余計な詮索はされない。
  床は軋んで、接近者がよくわかる。
  ベッドは固くて、寝過ぎる心配が無い。
  部屋は狭くて、罠など仕掛けようもない。
  ああ、良い宿だ。
  素敵だ。
  最高だ。
  もういいか、くそったれ。
  バックパックの中身は複数の『筒』だった。
  説明書によれば、本体は竹でできていて、上下二つの節を使用している。
  長さは三十センチメートル、直径五センチメートルほどか。
  下の節には易燃性の液体が封入されており、上の節の底部、下からすれば蓋部分に穴が開けられている。
  上の節は縦方向に半分切り欠かれていて、穴が見え、コルクで栓をされ、蝋で補強されている様子がよく分かる。
  使用時はコルクを抜き、布を丸めて突っ込む。
  そして下の節から液体を吸い上げた布に着火し、横向きに置く。
  上の節に残った部分が風防の役目を果たし、自然消火を防ぐ。
  時間経過と共に竹は熱に負け、割れる。
  その際に下の節内部の液体が燃えながらぶちまけられて、容易に消せない炎となる。
  所要時間は一分から二分。
  時限式の発火装置の様な物だ。
  火種は我々の標準装備である、火縄箱から取る。
  俺は腰ベルトの後ろのケースに、これを入れている。
  一応確認したが、ゆっくりと、しかし確実に燃え続ける火縄が充分な長さで有った。
  作戦は神殿騎士団の野営地に忍び寄り、この発火装置で食料、武器、医薬品を焼き払うという単純なもの。
  奴らは補給線を持たない。
  多少の余裕は想定しているだろうが、必要充分な物資だけを持ち、フュネス領に到着して物資を手に入れればいい。
  道中の戦闘が目的ではない以上、物資面では充分だ。
  そう考えるだろう。
  俺だってきっとそうする。
  迂回のせいでフュネス領までは数日かかる距離で、進軍を続けるには厳しすぎる。
  急遽物資を調達しようにも、進軍を快く思わないノムリル共和国の中であり、最寄りのマグダウェル公国の領地は非協力的なウィレム領。
  不可能だ。
  さらに進むより戻った方が距離は短い。
  つまり、物資を失ったら神殿騎士団奴らは来た道をすごすごと戻るしか無くなるのだ。
  バクスター領へ戻ったとしても、マグダウェル公国王からの厳命が下った今、二度もごり押しは効かない。
  義理として『中央教会』までの物資位は渡して、はいさようなら、だ。

  「とにかく迅速に実行し、離脱する事だ」

  声に出して、自分自身に念を押す。
  何しろ『バレるとマズい』のだから。
  とはいえリーノロス教団向こうもどんな勢力が妨害したか、などすぐに解るだろう。
  しかし公式に名指しで糾弾して、マグダウェル公国大国と軋轢を生む行為には出ない。
  反感を買い、マグダウェル公国から締め出されれば、平民からの布施や貴族からの寄付という巨額の収入を失うから。
  それを見越しての、この任務だ。

  『もう寝よう』

  さすがに疲労が溜まりすぎている。
  固いベッドと薄い毛布に舌打ちしながら、横になった。
  作戦実行日時は明日の夜だ。
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