10 / 40
一章4
前夜
しおりを挟む
宿に入って数時間が経ち、夜。
ベルの用意した宿はなかなか良い。
スタッフは無愛想で、余計な詮索はされない。
床は軋んで、接近者がよくわかる。
ベッドは固くて、寝過ぎる心配が無い。
部屋は狭くて、罠など仕掛けようもない。
ああ、良い宿だ。
素敵だ。
最高だ。
もういいか、くそったれ。
バックパックの中身は複数の『筒』だった。
説明書によれば、本体は竹でできていて、上下二つの節を使用している。
長さは三十センチメートル、直径五センチメートルほどか。
下の節には易燃性の液体が封入されており、上の節の底部、下からすれば蓋部分に穴が開けられている。
上の節は縦方向に半分切り欠かれていて、穴が見え、コルクで栓をされ、蝋で補強されている様子がよく分かる。
使用時はコルクを抜き、布を丸めて突っ込む。
そして下の節から液体を吸い上げた布に着火し、横向きに置く。
上の節に残った部分が風防の役目を果たし、自然消火を防ぐ。
時間経過と共に竹は熱に負け、割れる。
その際に下の節内部の液体が燃えながらぶちまけられて、容易に消せない炎となる。
所要時間は一分から二分。
時限式の発火装置の様な物だ。
火種は我々の標準装備である、火縄箱から取る。
俺は腰ベルトの後ろのケースに、これを入れている。
一応確認したが、ゆっくりと、しかし確実に燃え続ける火縄が充分な長さで有った。
作戦は神殿騎士団の野営地に忍び寄り、この発火装置で食料、武器、医薬品を焼き払うという単純なもの。
奴らは補給線を持たない。
多少の余裕は想定しているだろうが、必要充分な物資だけを持ち、フュネス領に到着して物資を手に入れればいい。
道中の戦闘が目的ではない以上、物資面では充分だ。
そう考えるだろう。
俺だってきっとそうする。
迂回のせいでフュネス領までは数日かかる距離で、進軍を続けるには厳しすぎる。
急遽物資を調達しようにも、進軍を快く思わないノムリル共和国の中であり、最寄りのマグダウェル公国の領地は非協力的なウィレム領。
不可能だ。
さらに進むより戻った方が距離は短い。
つまり、物資を失ったら神殿騎士団は来た道をすごすごと戻るしか無くなるのだ。
バクスター領へ戻ったとしても、マグダウェル公国王からの厳命が下った今、二度もごり押しは効かない。
義理として『中央教会』までの物資位は渡して、はいさようなら、だ。
「とにかく迅速に実行し、離脱する事だ」
声に出して、自分自身に念を押す。
何しろ『バレるとマズい』のだから。
とはいえリーノロス教団もどんな勢力が妨害したか、などすぐに解るだろう。
しかし公式に名指しで糾弾して、マグダウェル公国と軋轢を生む行為には出ない。
反感を買い、マグダウェル公国から締め出されれば、平民からの布施や貴族からの寄付という巨額の収入を失うから。
それを見越しての、この任務だ。
『もう寝よう』
さすがに疲労が溜まりすぎている。
固いベッドと薄い毛布に舌打ちしながら、横になった。
作戦実行日時は明日の夜だ。
ベルの用意した宿はなかなか良い。
スタッフは無愛想で、余計な詮索はされない。
床は軋んで、接近者がよくわかる。
ベッドは固くて、寝過ぎる心配が無い。
部屋は狭くて、罠など仕掛けようもない。
ああ、良い宿だ。
素敵だ。
最高だ。
もういいか、くそったれ。
バックパックの中身は複数の『筒』だった。
説明書によれば、本体は竹でできていて、上下二つの節を使用している。
長さは三十センチメートル、直径五センチメートルほどか。
下の節には易燃性の液体が封入されており、上の節の底部、下からすれば蓋部分に穴が開けられている。
上の節は縦方向に半分切り欠かれていて、穴が見え、コルクで栓をされ、蝋で補強されている様子がよく分かる。
使用時はコルクを抜き、布を丸めて突っ込む。
そして下の節から液体を吸い上げた布に着火し、横向きに置く。
上の節に残った部分が風防の役目を果たし、自然消火を防ぐ。
時間経過と共に竹は熱に負け、割れる。
その際に下の節内部の液体が燃えながらぶちまけられて、容易に消せない炎となる。
所要時間は一分から二分。
時限式の発火装置の様な物だ。
火種は我々の標準装備である、火縄箱から取る。
俺は腰ベルトの後ろのケースに、これを入れている。
一応確認したが、ゆっくりと、しかし確実に燃え続ける火縄が充分な長さで有った。
作戦は神殿騎士団の野営地に忍び寄り、この発火装置で食料、武器、医薬品を焼き払うという単純なもの。
奴らは補給線を持たない。
多少の余裕は想定しているだろうが、必要充分な物資だけを持ち、フュネス領に到着して物資を手に入れればいい。
道中の戦闘が目的ではない以上、物資面では充分だ。
そう考えるだろう。
俺だってきっとそうする。
迂回のせいでフュネス領までは数日かかる距離で、進軍を続けるには厳しすぎる。
急遽物資を調達しようにも、進軍を快く思わないノムリル共和国の中であり、最寄りのマグダウェル公国の領地は非協力的なウィレム領。
不可能だ。
さらに進むより戻った方が距離は短い。
つまり、物資を失ったら神殿騎士団は来た道をすごすごと戻るしか無くなるのだ。
バクスター領へ戻ったとしても、マグダウェル公国王からの厳命が下った今、二度もごり押しは効かない。
義理として『中央教会』までの物資位は渡して、はいさようなら、だ。
「とにかく迅速に実行し、離脱する事だ」
声に出して、自分自身に念を押す。
何しろ『バレるとマズい』のだから。
とはいえリーノロス教団もどんな勢力が妨害したか、などすぐに解るだろう。
しかし公式に名指しで糾弾して、マグダウェル公国と軋轢を生む行為には出ない。
反感を買い、マグダウェル公国から締め出されれば、平民からの布施や貴族からの寄付という巨額の収入を失うから。
それを見越しての、この任務だ。
『もう寝よう』
さすがに疲労が溜まりすぎている。
固いベッドと薄い毛布に舌打ちしながら、横になった。
作戦実行日時は明日の夜だ。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル
ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。
しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。
甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。
2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる