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【降臨16日目】 所持金715万1958円 「殺すぞ屑共。」

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朝起きると、エモやんがプリキュア菓子を肴に飲み残しのワインを片づけていた。
「なんでマリンばっかり出るねんやろな。」
等と呟く声は、どこかリラックスしているように聞こえる。


『おはようございます。
お身体、大丈夫ですか?』


「あ、おはようございます。
昨日はお見苦しいところをお見せしました。」


『いえいえ。
皆が褒めてましたよ。
エモやんさん程、仕事が出来る人は居ないって。』


「大袈裟ですよ。
自分はチョコマカ動いとるだけです。」


『その動きに助けられました。』


「お役に立っているなら幸いです。
では、役立ちついでに。
新宿署に行きましょうか。」


『え?
エモやんさんも来てくれるんですか?』


「jetさんとは、連絡先交換した仲ですし。
もうトイチさんは1人で動いてええ段階やないと思いますよ?
警察の中にもトイチさんを目の敵にしてる人らがいっぱい居るようですし。」


『そうですねえ。
私は仲良くしたいのですが、一部のお巡りさんには毛嫌いされているんです。』


『そらあ、トイチさんが女を殴った動画が全世界でバズり中ですからね。

あ!
今、検索したら…
国連人権委員会が名指しでトイチさんを批判してますね。』


参ったな。
ステルスするつもり満々で帰って来たのに。
まあ、いいか。
どうせ、そのうち嫌でも有名になるんだろうからな。
さらば、愛しき匿名性。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



寺之庄が用意したレンタカーで新宿署に向かう。
俺はエモやんの指示で、帽子を目深に被りマスクとサングラスで顔を隠す。
余計怪しい気もするが、思考は放棄する。


早朝6時前。
留置所から釈放されるのは大抵この時間らしいので、署正門の見える位置に停車して時を待つ。
エモやんの指示があったので、後部座席でブランケットで顔を覆って横たわる。


「ああ、また写メ撮られた。
お巡りさんは朝から仕事熱心だねえ。」


『やっぱりこの車、怪しいんですかね?』


「レンタカーでこの停車位置は露骨に怪しいでしょ(笑)
僕が警官でも一応チェックするかな。」


寺之庄は冗談めかして言っているが、これも俺と行動を共にするリスクなのだ。
心の中の預り帳にしっかりとこの借りを刻む。
男とは信義なのだ。
借りを返さずして男子を名乗る資格はない。



「jetさん出て来られました!
今、入口で警官と話をしているので、1人になったら声を掛けます。
トイチさんは、まだ顔を出さないで下さい!」



言うなりエモやんが音を立てずに車外に出た。
何故、無音でドアを閉めれるのかまでは分からない。
15分程経過して、足元でドアが空いた。


「リンか?」


『jet、お疲れ。
色々ごめんな。』


「好きでやったことだよ。」


俺達が再会を喜んでいる間に車は発進していた。


『jetはこれからどうするの?』


「歌舞伎町に戻るよ。
居酒屋のバイトもあるし。
まずは、店長や仲間に報告したいから。」


『バイトしてたんだ。』


「そりゃあ、東横でブラブラするのにもカネは掛かるからな.。
ネカフェやレンタルルームで寝るのも無料じゃない。」


『だよな。

…なあ、今回の件。
幾らか包ませて貰えないかな?
俺を助ける為にjetの経歴にキズが付いちゃったから。
オマエが割って入ってくれなかったら、あのオッサンに追撃で殺されてたよ。』


「あのオッサン、結局何だったの?」


『友達の父親。
鷹見がクラス転移を笑いものにする動画バズらせただろ?
それが許せなかったんだってさ。』


「ああ、シネウンコか。
そりゃあ100回殺されても文句は言えないよな。

なあ、リン。
オマエ、アイツと付き合うの?」


『あ、いや。
連絡先も知らないし。
多分、粘着されそうな気はしてるけど。』


「そっか、相棒の女関係に口を挟む気はないけどさ。
気をつけろよ。
あの女、武装してる事で有名だから。
ナイフで人を刺した事もあるしな。」



…鷹見の爬虫類の様な眼玉を思い出す。
あの女は常時ヘラヘラ笑っている癖に、眼球だけは世界を睨み続けていた。
まさしく、人間の皮を被った憎悪。

…俺もか。



『なあ。
本当に幾らか受け取ってくれないか?
今は大した金額は持ってないけど、近いうちに軌道に乗ると思うんだ。』


「うーん。
そうは言われてもな。

あ、じゃあさ。
何か割のいい仕事する時、俺を使ってくれよ。
多少危ない橋でも渡るからさ。」



危なくない橋を探すことを内心決意する。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



車が着いたので、4人で東横にゆっくりと進む。
早朝なので、まだ人はそんなに居ない。
何人かの界隈民が酔っ払って倒れている



『今日はどうする?』


「腹が減ったな。
リン、何か買ってきてくれないか?」


『食べたいものとかある?』


「…ケンタ喰いたい。」


『買って来る。
そこでのんびりしとけよ。』



買い物の最中、横目で広場を見ておく。
jetとエモやんが談笑していたので少し安心する。
飲み物は寺之庄がコンビニで買ってくれているので、チキンだけを多目に買った。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

553万1350円
  ↓
552万1480円


※オリジナルチキン10ピース×3セットを9870円で購入


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「こんなに喰えねーよw」


『腹減ってる奴が居たら分けてやってくれないか?
あっちの連中もjetの知り合いだろ?』


「ちょっと声掛けて来るわ。」


jetが周囲に声を掛けると、どこから湧いて来たのか10人くらいが集まってくる。
見覚えのある顔も幾つかあった。
隣に座って来たのは、いつぞやの13歳。



「あ、ガルパンだぁ♪
アタシの友達も呼んでいい?」


『どうぞどうぞ。
皆で食おうぜ。』


「ガルパンの動画、ずっとニュースでやってたよ。
コクレンのエライオバサンがギャーギャー怒ってたww
ヤバくないw?」


『大丈夫。
俺は怖いおばさん耐性がある方だから。』


「あはははw
懲りてねーーwww」


『懲りるも何も、俺は元々暴力が嫌いだからな。
年齢相応の憧れはあるけれど。』


「えー?
ホントに?
女殴ってそうな顔してるよー?」


『この傷の所為だよ。
傷が無けりゃ、モブ顔・チー顔。』



2人で笑い合う。



「ねえ、ガルパン。」



『んーーー?』



「差し入れの袋の中、ウーロン茶ばっかりじゃね?
アタシ、酒飲みたい。
こう見えて大人より強いんだよ?」



『脂物と酒の組み合わせは太るぞ。』



「…太らないし。
ねえ、ストゼロ買ってよ。」



『朝から酔ってどうするんだよ。』



「酔わなきゃやってらんないよ。
嫌なことばっかりだから。

…ねえ、ウチの母親殺してくんない?
っていうかそのヒモを何とかして欲しい。」



『俺は暴力が嫌いだ。
オマエの事は助けてやりたいけど…
あまり血生臭いやり方には関わって欲しくない。』



「…ねえ、ガルパンってお金持ちなんでしょ?」



『今は普通。
でも来月辺りには少なくとも大富豪になってるんじゃないかな?』



「お願いなんだけど、一緒に住ませてくんない?
ガルパンって年下好きなんでしょ?
Hなこと好きなだけしてくれていいから。
コスプレとかでならヤッタことあるよ?
フェラも上手いって褒められたことあるし。」



『住む所は何とかしてやるよ。
コスプレとかはいらない。』



「えへへ、アタシは逆でも歓迎だよ?
住むトコいらないけど、色々なコスでヤッテあげる。」



『駄目。』



「何で?
アタシのこと子供扱いしてる?
シネウンコなんかより、アタシの方が100倍可愛いと思わん?」



『オマエは主体性あるし、精神的には大人なんじゃない?
ただなあ、俺自身がガキなんだよ。
だから君を守り切れる力がない。
それに日本の法律では13歳とセックスする事は禁止されてるはず。』



「どいつもこいつもホーリツホーリツってウザいわ…」



『俺、そのうち法律を作る側に回っちゃうからさ。
他の連中より真面目に振舞う義務があると思ってる。』



「何?
ガルパンってセージカ志望?
結構権力欲強いんだ。」



『権力とカネは引かれ合うものだからさ。
俺の思惑とか関係なく、そうなって行くよ。』



「はああ…
なーんだ、政治家のボンボンかよ。
いいなあ、ガルパンは親ガチャ当てて。
アタシもせめてフツーに生まれて来たかったわ。」



『…他にもオマエみたいな子、いるの?
この界隈に。』



「アタシみたいな奴は多いよ。
昨日もジャンカラでジンセー語り合ってたトコ。
《一緒に死のっか?》
って話してた。

練炭が意外に高かったから諦めたけど。
3000円とかボッタクリでしょ!」


『何?
みんなカネないの?』


「あのねえ。
アタシら中学だよ?
P活が生命線だし、ホスクラとかメンコンのツケもあるし。」


『え? ホス… 何?』


「ホストクラブの略♪
アタシの推し、めっちゃイケメンなんだよ♪
しかもオーナー兼代表!!!
お父さんが伝説のホストだった人♥
ヤクザに埋められるほど凄い人だったの♪
それで♪
アタシの推しがその息子♥
超イケメンで大金持ちなの!
乗ってる車フェラーリだよフェラーリ!!
イケメンの上にすっごく優しいから
本当は500万のツケなのに、400万を払ってくれたの!
アタシは100万だけのある時払いでいいって♪
《風俗行こうか?》って提案したら
《自分を大事にしろ》って怒られちゃった♥
もう幸せぇーーーー♥
生まれて初めて愛されちゃった♪
AVの方がタイパがいいんだって♪」



『ほーん、凄い金額なんだな。』



「そりゃあ天下の歌舞伎町だもん!!
アタシら全員、パパ活頂きしてホスクラメンコンマシマシなんだから♪
ニッポンケーザイ回してるんだよ!!」



『そっか。
まあ、おカネは大事だからちゃんと貯金しとけよ。』



「チョキンって…
二ホンはオワコンだから、そのうち円が紙屑になるって
みんな言ってるよ!」



『え? 
そうなの?』



「アタシの見てるyoutuberは全員言ってるもん!
推しも言ってたし!!!」



『なあ、ホストクラブの支払いって
ドルとかユーロでも払えるの?』



「あはははww
ここは日本だよww
円の現金払いしか受け付けてくれねーってww
そんなの常識じゃんwww」



『そっか。
まあ、ホストクラブは程々にな。』



「ヤダ!
寂しくて死んじゃう!」



『オマエは可愛いから
みんな優しくしてくれるだろ?』



「皆はイヤ!!
キモいオッサンはヘコヘコしてくるけど
キモおぢとかチー牛とか視界に入っただけで殺したくなる!」



『…人生中々上手く行かないよな。』



「ガルパンが彼氏になってくれたら…
ホスクラ行く回数減らすよ?
P活も許可貰った相手としかしないし。
アタシ尽くすタイプだから、ガルパンが行けって言ったら
フーゾクで働く覚悟はあるから!」



『いや、女はそんなに無理して働かなくてもいいぞ?
贅沢しなけりゃ男の収入だけで生きていけるだろ?』



「うーーん。
センギョーシュフって奴?
それツマンナクね?
ずっと家に居なきゃいけないって奴隷みたいじゃん。」


『あ、それわかる。
どれだけ善意でも、自由を奪われるって辛いよな。』


「へへっ♥
ガルパンわかってるーーー♪
そういう所がちゅき♥
推し変しちゃおっかな♪」



13歳が馴れ馴れしく抱き着いてくる。
年齢の近いコレットを思い出した。
あの子のことも、もっと優しくしてやれば良かったな。
今頃、何をしているんだろう。
無事で居てくれれば嬉しいのだが。



『なあ。
jetとは連絡先交換してる?』



「ん?
jet君?
仲はいいけど…
アタシ、スマホ持ってないし。」



『オマエラの住処、ちょっと真面目に考えさせてくれ。
俺とjetは連絡取れるから。
アイツの側に居ておけ。

ホストクラブは、もう行くな。』



「ホスクラ行かなきゃ死んじゃうよ。」



『行くな。』



「…ねえ。」



『ん?』



「…ガルパンはアタシを殴らない?」



『感情的に殴る事はないんじゃないかな?』



「あははは、サイテーww

ん、わかった。
jetのグループに入っとく。
ホスクラは…
どうせカネもないし、自粛の方向で。」



『…ゴメンな。』



「ゴメンくないよ。」




かつて、ロメオ・バルトロなる聖者が存在していた。
彼は孤児の身から自助奮励し、宗教団体の中で頭角を現し…
孤児が社会において公平にスタートを切る為の制度を完成させようと奔走していた。
真の英傑であった。
その願いがようやく叶う日に彼は無惨に殺された。
殺したのは孤児の俺だった。

俺が勝手に命名した彼の遺稿《平等論》は残念ながら地球に持ち込む事は出来なかったが、その内容と崇高な理念は俺の心に刻みつけられている。

別に篤志家を気取りたい訳じゃない。
ただ、バルトロの未来を奪った俺には、彼の志を代行する責務がある。
そう思っただけなのだ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



jetと地べたに座って下らない話で盛り上がっていると、どこから湧いたのか界隈民が続々と集まって来る。
俺は余程有名になっているのか、目が合うなり皆が話し掛けて来てくれる。
写メや配信出演を依頼されたので、快く応じてやる。



  「いやあ、あの有名なガルパン君とツーショットとか!
  早起きは三文の得だべ♪
  あ! 表垢でtweetしてもいい?」


  「キャー♪  ガルパンの人だぁ♪
  握手して下さぁい♪
  ホ別1万円でいいよ♪」


  「あのっ! 俺、今からTikTokに投稿するんだけど!
  ガルパン君もポーズお願いしてもいいかな?
  あっ! 何かコメントくれると嬉しいっす!」


  「おーう、ガルパンww
  すっかり有名人になっちまったな。
  ちくしょー、絶対オマエに知名度負けたわ。
  王の座は諦めざるを得ないか…」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

552万1480円
 ↓
551万1610円


※オリジナルチキン10ピース×3セットを9870円で購入


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「リン、あらかた配り終わった。」


『驚いたよ。
jetって顔が広いんだな。』


「キョロ充なだけだよ。
皆は内心では馬鹿にしてるんじゃないかな?」


『大丈夫。
女子勢がjetの話する時に好意的だったから。』


「ふふっ。
お世辞でも嬉しいよ。」


『なあ、jet。
前に言ってた各地の東横っぽいトコ。
アレ、詳しく教えてくんない?』


「ああ、そんな話したっけ。

大した事じゃねーよ。
前にさぁ。
ここら辺仕切ってる、テル君って子が
《東横増やそうぜ》
って言いだして、あちこちの界隈に遊びに行ったんだ。」


『東横を増やす?』


「東横に来たくても来れねえ奴は多いから。
北海道とか九州とかの中坊は資金的に難しいだろ?
それでSNSに書き込みが多かったんだよ。
《関東住みだったら、東横に行けたのに》
ってさ。」


『確かに。
関東から離れちゃうと、来るだけでも一苦労だもんね。』


「それでテル君と一緒にアチコチ回ってた。
名古屋とか大阪とか福岡とか。」


『すげえな!』


「俺は大したことないよ。
ただ、配信やってた関係で病みアカのフォロワー多くてさ。
テル君の連絡係みたいなことしてただけ。」


『いや、それも十分凄いって!』


「はは、ありがとな。

それで俺とテル君のフォロワーだけでもかなりの数が居たからさ。
《界隈出張オフ》みたいなノリで、1週間ずつくらい現地に泊まって
東横のノウハウを説明して回ってたんだ。

名古屋だったら、栄のドン横とかさ。
あ、栄ってのは名古屋の中心の繁華街な。
ドンは勿論ドンキ。
最上階がクラブになってるから、俺らみたいなのがタムロってるんだよ。」


『クラブって行ったことないな。
どんなトコかもわからない。』


「オマエが座ってる後ろ、そこの地下がクラブだぞ?」


『え!? マジ!?』


「21時から開店。
今度行ってみるか?」


『あ、ちょっと興味ある!』


「…いや、ネンカクの為に身分証が必要なんだけど。
リンって住所不定だろ?
持ってる?」


『警察病院の診察カードなら2枚。
警視庁と神奈川県警。』


「えー。
それってどうだろ?
入れるのかな?
嫌がられるかも。」


『まあな。
俺だって警察病院の診察カード見せて来る奴は怖いわ。』



「今度駄目元で聞いてみようぜ。

話が逸れたな。
名古屋の他には大阪のグリ下とか、福岡の警固公園にも行った。
札幌なら狸小路のラウンドワン。
最初、冬に行って死にかけたww」


『へえ、jetって冒険家なんだな。
尊敬するよ。』


「大したことないって。
日本は交通網充実してるし、SNSも発達してるからな。
コンカフェ嬢とかダンス動画上げてる奴に声かけたら、普通に人が集まったよ。

まあ、グリ下にしろドン横にしろ、元々そういう雰囲気のある場所だからさ。
東横っぽくなる下地はあったの。」


『あ、俺今度大阪行こうと思ってるんだけど。
グリ下行った方がいい?』


「マジ?
是非、行っとけよ。
オマエ、界隈でバズってるから
普通に歓迎されるんじゃないかな?

行ったら教えて。
向こうのフォロワーに声掛けるから。」


『jet凄いな。
顔が広いのは素直に尊敬する。』


「さっきも言っただろ、キョロキョロしてるだけw
皆にチキン喰わせてやったリンの方がよっぽど偉いよ。」


『カネのチカラだよ。
俺自身は下らない奴。』


「カネを誰かの為に使えるのはオマエのチカラだろ?
そこは自信持っていいぞ。
現に腹減らしてエンコ―する奴ばっかりなんだ。
今日、オマエが誰かを助けたかもな。

だから、胸を張れ。
恥ずかしいことなんかじゃない。」


『…ありがと。
励みになったよ。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



jetと別れてから気付いたのだが。
いつの間にか後藤達もやって来たらしく、俺とjetの会話を遠くから静かに眺めていた。
そこらで購入したのか、地雷系のファッションに身を包んでいたので、すぐには分からなかった。


「いやあ、トイチさん…
見直しましたわ。」


会うなり、後藤がそう言う。



『え?
見直すって?』



「トイチさん、復活されてまだ2週間でしょ?
完全に居場所作ってますやん。」



『ああ、そういう。

…俺は、彼らの居場所に立ち寄らせて貰っただけですよ。
元々、界隈民的な境遇で育ったんです。
親和性は最初から有ったんじゃないですかね。』



「ふふっ、そういう事にしておきましょうw
どんな話してはったんですか?」



『いや、大阪の話とか。』



「え!?
ホンマに来はるんですか!?」



『後藤さんが《来るな》と言えば自粛しますよ?』



「いや、この話の流れでそんなん言えませんやん。」



『安心して下さい。
後藤さんの故郷で妙な真似はしません。
実験的にカネを配るだけです。』



「あーーー。
昔バーチャンに読んで貰った絵本にそんな話ありましたわ。」



『どんな話ですか?』



「その街が滅びる話ですw」



『うわあw』



「カネに目が眩んだらアカン、って趣旨の教訓話やったんでしょうねえ。」



『確かに。
欲で滅んだ街なんて幾らでもあるでしょうからね。』



「大阪滅ぼさんとって下さいよ!」



『あはは、後藤さんは大袈裟だなあ。
そんな事はしませんよぉ。』



「ホンマですね?
信じますからね?

俺、ちゃんとトイチさんに貢献しますから。
大阪滅ぼさんとって下さいね!?」



『後藤さんにそこまで言われちゃ仕方ないですね。
じゃあ大阪は優遇枠で!』



「ふーーー。

よし、これで地元への義理は返せた。」



改めて思う事だが…
関西人と言うのは、どこまでが冗談か分かりにくい連中だ。
だからこそ、俺とは相性が良い気がする。
後藤の前では口が裂けても言えないことだが…
関西人のオープンでユーモアを好む(と聞いている)気質であれば、一方的にカモれる予感がしている。



「トイチ先生。
ちょっといいですか?」



背後から安宅に声を掛けられる。
30を越えているという話だが、随分地雷系パーカーが似合う。



「投資家なんて究極の地雷ですよww
しょっちゅう誰かが爆死してますww」


『ははは、安宅さんは安全ルートを行って下さいね。』


「安全ルートを行きたいから、トイチ先生に全ツッパしてます!」


『それ一番ヤバい奴ーーーww』



2人で腹を抱えて笑う。



「えっと、金額が金額なんで…
分配は前のホテルを使わせて頂けませんか?
スイート押さえましたので。」


『前?』


「ええ、見えてるでしょ?
頭上。」



地べたに座っている俺が何気なく首を上に向けると…
ああ、気が付かなかった。
結構立派なビルに囲まれてたんだな…


「あの、先生。
怒ってます?」


『え!?
いや、別に安宅さんに怒ったりなんかしませんよ。』


「…先生がビルを見る目。
少し厳しかったので。
あまり贅沢を好まないのかな、と。
お気に触るようでしたら、ランク落としましょうか?」


『ああ、いえいえ!
本当に気にしないで下さい。
縁のない世界ですから、戸惑っただけです。』



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



案内されたのはスイートルーム。
複数名で入室しても良いらしい。


「俺こういう場所、かなり緊張するんですけど。
トイチさんは妙に落ち着いてはりますね。」


『え?
でも後藤さんもそんなに委縮してないでしょ?』


「ははは、虚勢ですわ。」


『貴方はそのうち、このランクより1つ上のホテルを泊まり歩く羽目になるんじゃないかな?』


「…え? それは。
わかりました。
…励みます。」


『ああ、勘違いしないで下さい。
別に私がどうこうするのではなくて…
後藤さんって上昇志向強いじゃないですか?
だから結果として、そういう域には到達すると思います。』


「ふふっ。
お世辞でも言いすぎですって。」



『エモやんさんはどう思います?』



  「後藤響は当然そこまで辿りつきます!」



「うわあ、プレッシャーやめろやw

コイツ、リトルの頃からずっとこの調子なんですよ。」



『私は、エモやんさん程の方の予想なら
まず外れないと思いますよ。』



そんな軽口を叩きながらスイートに入る。
窓の外には東京。
いや、隙間なくビルが埋まった関東平野。
窓に張り付いて東横が見えないか試行錯誤するが、《下》は一切視界に入らなかった。
軽く溜息を吐く。



「ではトイチ先生。」


『あ、はい。』


「やや金額が膨れて来て
正直私も怖いのですが…
机の上、広げますね。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



【所持金】

551万1610円
  ↓
9551万1610円


※出資者6名から9000万円を預かり。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



『ああ、金額膨れてきましたね。』


「寺之庄君とも話し合ったのですが…
最終的に2億円ほど預けさせて頂ければ…
大丈夫ですか?」


『ええ、まあ。
多分、恩寵に上限はないんじゃないですかね?』


「おお、頼もしいです。」


『しかし。
確かにこの金額は怖いですね。
歌舞伎町でこんな金額を持ち歩いてる人間は居ないんじゃないですか?』


そこでエモやんが口を挟む。


「いえ、インド系の金持ちはかなりの大金を持ち歩いています。」


『え?
そうなのですか?』


「はい。
金持ち系インド勢のグループを観察すると、必ず1人体格の良い大男が居ます。
これがボディーガード兼金庫番です。」


『はええ。』


「彼らキャッシュを見せながらエグい買い物しますから。
小さなテナントビルくらいなら即決で買い叩きますよ。」


『ほええ。』


「ちなみにトイチさんは不動産は…?」


『あ、言ってなかったかも知れませんが
私は不動産は一切取得しないルールを設けております。』


「え!?
そうなんですか?」


『土地に恩寵が発動しちゃったら大変でしょ?
ただでさえ我が国は地震大国なんだから。』


「え?  地震…
あっ!!
え? 嘘、そういうことなんですか?」


『年長の友人に指摘されたんですけど。
私が土地を保有しちゃうと、高い確率で土地に利息が付いて広がっちゃうんですね?
で、我が国の土地は下に水道管やガス管が通ってる訳じゃないですか?
悪影響、あると思いません?』


ポールとはこの話は散々した。
《土地が毎日広がったら地震や崖崩れが起こり続けるから自粛しよう》と。
だから俺は迂闊に土地を取得しない。

だってそうだろ?
俺のマックス日利は6割弱なんだぜ?
北京やニューヨークの真ん中に土地でも買っちゃったら、多分酷い事になっちゃうよね?
そんなことをせずに済む地球であって欲しいよね?

俺はあくまで万事を穏便に済ませようと思っている。
だから皆も俺に対して穏当に振舞ってくれれば、双方にとって不幸を避けられる。
協力してくれると嬉しい。



《286万5348円の配当が支払われました。》



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

9551万1610円
 ↓
9837万6958円

※配当286万5348円を取得


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「うわあ。
リン君、天井知らずだねえ。」


飯田清磨が溜息を吐く。
ここまで精密に金額を増やせるとは思っていなかったらしい。
コンビナート破壊の話は、まだ当分出来そうにない。


『清磨さん。
いつか、貴方だけの為に100倍デーを設けます。』


「う、うわああ。
ちょ、貯金頑張るよ!!」



皆で笑い合う。
安宅の持参した紙幣計数機をキャイキャイ言いながら触って遊んだ。
こういうガジェットって男心をくすぐる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

9837万6958円
  ↓
9747万6958円
  ↓
747万6958円


※配当金90万円を出資者に支払い
※預り金9000万円を出資者に返還


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



700万越えか…
単独行動可能な元手が溜まってしまったな。
日利3%なら、毎日21万以上ずつ手元に入って来る。
つまりこの先誰も俺に出資しなかったとしても、新卒サラリーマンの手取り相当額を毎日こっそり入手できるのだ。

…改めてこのスキル、反則過ぎる凶悪性能だ。
まだ帰還してから半月だぞ。




「トイチ君。
風呂、入っとく?
さっき覗いてみたけど、すっごい眺めだよ!」


『すみません。
これから知り合いに会いに行くので。』


「あ、ゴメン。」


『いえいえ。
お気遣いなく。』


「タクシー呼ぼうか?」


『あ、近所なんで
用事が終わったらすぐに連絡…
フロントの人に伝言頼んだら電話してくれますかね?』


「…護衛、してもいい?」


『そうですね。
じゃあ、ヒロノリさんを指名で。』


「後藤君…
いや、じゃあ寺之庄君
リン君をお願いします。」


あまり数が多いと目立つからね。
護衛は1人で。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「トイチ君、ここでいいの?」


『ええ、ちょっと知り合いに会うだけです。』


「はええ、夜の店は付き合いで何回か行ったけど
流石にこういう店は初めてだよ。
逆にドキドキする。」


『ふふっ、ヒロノリさんイケメンだから、こういう所で働いてもいいかも。』


「性格的に無理だよぉ。」



イケメンを否定しない辺り、寺之庄は性格が擦れていない。
真っ直ぐなのだ。
なので、こういう店で働くのは難しいだろう。



『こんちわー。』



「…何、体験入店?
ここ女の子の居る店じゃないよ?」



『あ、違います。
遼介さんから顔を出す様に言われてて。』



「ッチ!
遼介派かよ!
ホストはオマエが思ってるほど甘い世界じゃねーぞ!」



『いや、今日は飲みに来たっていうか。
あ、こういう店って男でも飲めるんですか?』



「…お客様はお客様だ。
嬢を連れて来られる社長も居られるからな。
一応念を押しておくが、高いぞ?
当然、他の女客に絡むの禁止、大丈夫か?」



『あ、はい。』



「ようこそロミオへ、ジュリ…  ティボルト。」



ここは以前出逢った中矢遼介が勤務するホストクラブ【ロミオ】。
業界では(悪い意味で)かなり有名らしい。



「おおお!!
リン!!!
久し振り!!
え? 何? ホストになってくれるの!?」


『あ、いえ。
遼介さんに逢いに来ただけです。
こういう店って普通に飲み屋として使えるんですか?』


「…いや。
OK,、歓迎するよ。
初めてのお客さんは1万ポッキリで飲めるんだけど
男の場合はどうだったかな…」


『じゃあ10万だけ払うので、ちょっとお時間下さい。
相談に乗って欲しいことがあるので。』


「え!?
10万?
ああ、俺達ダチ同士だから、オフの時間でも大丈夫だよ?
今度2人で焼肉でも行くか?」


『あ、いいっすね。
この前、ミノが好きってわかったんです。
是非、御一緒しましょう。

それはそれで、今日は飲んで帰ります。』


「…リン。
カネに余裕出来た?」


『ええ、皆さんのお陰で。
これからは還元のターンかなって思って…
まずは東横まで案内してくれた遼介さんに逢いに来ました。』


「おお…
ありがとな。
素直に嬉しい。」


俺は遼介に前金10万円を支払い、何か店の奥にある良い席に案内して貰った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

747万6958円
 ↓
737万6958円


※ホストクラブ・ロミオにて遼介(部長)を10万円で指名。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



まずは遼介に寺之庄を紹介する。
空気を読んでくれたのか、寺之庄はヘルプ(?)にやって来た遼介派と談笑を始め、俺達が2人きりで話すムードを作ってくれた。


「それで、相談って何?
あ、飲みたい酒とかある?」


『さっき東横でストゼロ飲んだんです。
なので、酔い覚ましの水を下さい。』


「10万の水とか、どんなボッタクリだよww」


『まあまあ、遼介派に入らなかった埋め合わせって事にしておきましょう。』



遼介はトニックウォータ―と水のグラスを置いてくれる。
流石に日頃高額を取っているだけあって、かなり凝った意匠のグラスだ。



「話の腰を折って悪かった。
で、相談とは?」


『単刀直入に言います。
俺、ホストクラブを規制しようと思って。
それでアクションを起こす前に、一言遼介さんに断りを入れておこうと思いました。』


「え? 規制?
なんで、突然。」


『実はあれから、東横の子と接点が増えたんです。』


「まあ、例の動画もバズってるしな。」


『それで多くの女子がホストクラブに…
えっと《掛け》って借金のことですよね?』


「ああ、《売掛金》な。
少しニュアンスは違うけど、借金と言えば借金かな。」


『大人の女性がホストクラブにハマってるのは自己責任だと思うんです。
いい歳こいて馬鹿だなぁって。
でも、中学とか高校の世代の子が…
借金で売春させられるのは、ちょっとおかしいかなって。』


「なるほど。
ウチは建前上、年齢確認は徹底しているが内情はかなり緩い。
この歌舞伎町には、もっと酷い店は多い。」


『俺、この現状を改善したいって思って。
違うな、近く改善されます。』


「リンって政治家の息子か何か?」


『まあ、そんなところだと思って下さい。』


「オマエ、意志が強そうだしな。
ふふっ、ホストクラブ潰されそうww」


『怒らないんですか?』


「ははっw
ホスクラを嫌ってるホストは多いよ。
自分のやってる事が、女を壊してるだけだって
嫌でも自覚させられるから。

あ、ゴメン。
ちょっと仕事の電話。


  クラアッッ!!!
  今日中にツケ持って来いって言ったよなぁ!!
  俺言ったよなぁ!?
  言い訳するんじゃねーよ!!
  殺すぞコルラアアアア!!!!
  新大久保で立っとれや!!!
  最低3人は客取ってこい!!!
  客取ったらダッシュで報告に来い!!!
  歩いたら殺すぞぉおおお!!!


ゴメンゴメン。 
最近、仕事が溜まっててさ。
でも確かに女の子を傷つけるのはよくないよな。」



『…俺、偉そうに言える人間じゃないんですけど。
それでも、可能なら女を大切にする社会を作りたいって思ってます。』



「そっか。
実は、俺も想いは同じだ!」



『え?』



「ずっと疑問だったんだ。
言葉には出来なかったけど。
男の仕事って、女を泣かす事じゃないもんな。
逆だよ。
俺達男の仕事は女を護る事!
だからリンのやろうとしている事の邪魔をしないことを約束する!」



『りょ、遼介さん!!』



「馬鹿w 何を泣いてるんだよw
男ならもっと堂々としてろ。
ホストクラブ潰したいんだろ?
それが正しいと信じてるなら…
堂々とやれって!」



『遼介さん!! (ガシッ)』  
「リン!! (ガシッ)」



何故か涙が零れ、俺達は固く抱き合って泣いた。
だって、そうだろ。
どんな賤業でも、潰されるのに同意する人間なんて早々いないよ。

そんな風に遼介の腕の中で感動していると、ガングロ系のホストが反対側からやって来た。
取り巻きの表情も一様に硬く、何だか不穏な雰囲気である。



「おうおう!
昇進した途端に
男にケツ穴営業かぁ?
遼介部長は仕事熱心だなあ!」


「っく!
乱舞!!!
今は接客中だぞ!
何の用だ!!」


「用?
あるに決まってるだーが!!
いきなり隣から《ホストクラブを潰す》なんて聞こえたらよー。
黙っていられる訳ねーよな!!!」


「オマエには関係のない話だ。」


「アーン?
テメエ、ちょっと先代に気に入られてたからって調子乗るなよ?

遼介ぇ、最初からテメーは気に入らなかった。」


「気に入らないなら、どうするつもりだ?」


「へへへ。
テメーの拳法と俺様のボクシング。
どっちが強ぇか勝負すっか?

散々俺様の面子を潰してくれたからなあ。
テメーの太客、片っ端から闇討ちでボコってやってもいいんだぜ!」


「乱舞!!
この卑怯者め!!!
オマエがそんな暴挙に出るのなら!
俺は正々堂々、オマエの客を殴るッ!!」



「ほう、言うじゃねーか。
吠え面かくなよ!」


「それはこっちの台詞だ!」



遼介派のホストが駆け寄って来て、目の前の男についての情報を耳打ちしてくれる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【歌舞伎町ロミオ・スタッフ名簿】 


《名前》 乱舞
《本名》 藤田勇作
《地位》 聖夜派四天王(最弱)
《年齢》 25歳
《流派》 ボクシング (厳密にはボクササイズ)


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


なるほど。
ホストってシュっとした体型の人間が多いと思ってたが、みんな何らかの運動をしてるんだな。


「乱舞ぅ、クラぁ!!!」
「遼介ぇ、コラぁ!!!」
「クラぁぁ!!!」
「コラぁぁ!!!」


どんどん2人の殺意が高まり、かなりヤバい雰囲気になって来る。
俺、無事に帰れるのか?



「オマエら、何をやっている!!!!」



突如、辺りに響く大音声。
店の奥から出て来た男は恐ろしくガタイの良い髭面。



「くっ!  愛想烈(アモーレ)さん!」
「っち!  愛想烈(アモーレ)のオッサンかよ。」



先程のホスト君が再度駆け寄って来て俺に情報を耳打ちする。
結構、サービスいいよな。
女がハマる気持ちわかるわ。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【歌舞伎町ロミオ・スタッフ名簿】 


《名前》 愛想烈(アモーレ)
《本名》 楠烈
《地位》 聖夜派四天王(筆頭)
《年齢》 41歳
《流派》 柔道


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「お客様、申し訳御座いませんでした。」



髭男は俺の前で跪くと、恭しく頭を下げた。
前から思ってたのだが、体格のゴツイ奴に平服されると逆に威圧感あって怖いな。



「お客様、お詫びに一芸披露させて下さい。」


『え? え? え?』



  「おおお! 愛想烈(アモーレ)さんの秘技が出るぞっ!!」
  「えっ! あの伝説の!?」
  「うおー! うおー!」 
  「新人、これから起こる事を目に焼き付けておけ。」
  「ホストの中のホスト! それが愛想烈(アモーレ)さんだぁ!!」



「ほあああああああッ!!!!」



突然、愛想烈(アモーレ)が着ていたシャツを破り捨てて半裸となる。
恐ろしく分厚い胸板ッ!!!



「ゆくぞッ!!!
奥義ッ!!!

リッ………シャールッ!!!!!!」



愛想烈は背後から酒瓶を取り出すと、奇妙なモーションで振りかぶる。
奇妙…?
いや、違う!!!!
この動きはッ!!!


…柔道?



「ぜあああああああああああああッ!!!!」




酒瓶の奥襟を掴んで巨体が翔ぶ!!
奥襟?
何故酒瓶に奥襟が見えた?




ズシイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!




重く、力強い衝撃が店中を揺らす…
あまりの迫力に皆が息を飲み、声を出すことすら出来ない。



「お客様。
これが我が奥義、《リッ………シャールの舞》で御座います。

さあ、当店からのサービスで御座います。
一献御笑納下さいませ。」



愛想烈(アモーレ)は再度膝を付くと、どこからか取り出したグラスに酒を注いでくれた。
瓶の口は真垂直に掛かった圧力で見事に圧し開けられている。



『え? あ? はい、どうも。
じゃあ、頂きます。
それにしても凄い投げ技ですね。』


「恐縮です。
幼少の頃より、柔道を嗜んでおりました。」


『はえええ。
お強いんですね。』


「いえ、まだまだ未熟者です。
恥ずかしながら、大学時代に腰を壊してしまいまして
今はこの柔道技も女の躾か、鬱憤晴らしのパワハラにしか使っておりません。」


『ほええ。
怖っ。』



柔和な表情を浮かべていた愛想烈(アモーレ)だったが、遼介と乱舞を振り返った時にはまるでパワハラ上司の様な恐ろしい形相になっていた。
いや、2人の反応を鑑みるにパワハラみの強い上司なのだろう。



「…乱舞。
この騒ぎはどういうことだ?」


「ヒッ!
ス、スミマセン」


「謝れとは言っていない。
事情を聞かせろ。」


「は、はい。
遼介の野郎が、いえ! 遼介部長が!
《ホストクラブを潰す》
と仰ってまして!
それで真意を尋ねているうちに…
ちょっと言葉がエスカレートしちまったって言うか…」



「遼介…
yesかnoで答えろ。
今の乱舞の言葉、事実か?」



  「りょ、遼介さんマズいですよ!」
  「否定して下さい! 殺されますよ!」
  「遼介!! 後で俺からフォローしておく! 今は謝罪に徹しろ!」



「はい、事実です!」  (バーーーーーン)



「何ィ?」



遼介の返答を聞いた愛想烈(アモーレ)が鬼の形相で詰め寄る。
そして掴まれる胸倉。
信じ難い事に愛想烈(アモーレ)は片手で遼介を持ち上げてしまった。


「ぐっ! ぐはっ! ゴホっ!!」


誇張ではなく、空気が…  歪むッ!!
気が付くと店に居た女性客が勝手に集まり、期待と好奇に満ちた表情で事態の推移を見守っている。
確かにこんなリアルな暴力ショーが見物出来るのなら、10万は安いと思う。

次にボコられるのが俺だとしても…
ホストクラブって面白ぇな!




「そこまでだッ!!!!」




俺や女性客がワクワクしながら見物していると、またしても店の奥から声が響く。
愛想烈(アモーレ)の重い声とは異なり、軽やか。
なのに、何故か圧倒的威厳!!
そして一斉に飛び交う黄色い嬌声!!



  「キャー!!!  二代目ぇ!!」
  「聖夜Mk-IIクーーン!!!」
  「抱いてーーーー!!!」
  「二代目に逢えるなんて! じあ゛わ゛ぜえ!!!」
  「赤ちゃん産ませてぇええええ!!!」
  「聖夜Mk-II様ぁああああ!!!!」 
  「旦那の命と引き換えに1秒召喚させてええ!!!」



な?
何だ?
何が起こっている?
新手のホストが登場したのか?
いずれにせよ、女共の熱狂は本物だ。


『この天丼芸、どこまで続くんだ?』



俺が呟き終わるより早く、先程のホスト君が再々度駆け寄り情報を知らせてくれる。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【歌舞伎町ロミオ頂点】 


《名前》 聖夜Mk-II
《本名》 *車坂聖夜Mk-II
《地位》 星を継ぐもの
《年齢》 15歳
《流派》 蛇拳  (結構ガチ)


*謄本ママ

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「愛想烈(アモーレ)、相変わらず見事な奥義だ。
だからこそ、蛇足は鼻につく。」



「ハッ!
若ッ! 申し訳御座いません!!」



ドサッ!



「ぐわっ!
ゴホっ! ゴホっ!」



「遼介サン…
親父は随分アンタを買っていた。」



「聖夜Mk-II様(にだいめ)!」



「…ホストを潰す?
ふふっ、面白い。
やってみるがいいさ。」



  「代表!」
  「二代目!」
  「オーナー!」
  「Mk-II様!」
  「若ッ!」



「遼介サン…
俺は…

相手がアンタであろうと!
挑んで来るものには容赦はしない!!
オラオラ経営を貫くッ!!!」



店中が狂騒に包まれる。
あの、営業時間中ですよね?
仕事しなくていいんスか?



『あ、あの。』



「ん?
何だキサマは?
入店見学? 
いや、その傷… 見覚えが…」



  「聖夜Mk-II様(にだいめ)、お耳を! (ヒソヒソ)」



「失礼致しました。
お客様。
当店のオーナー・聖夜で御座います。」



『あ、どもです。』



「何でもホストクラブを潰されるとか?
差し支えなければ、お話を伺わせて頂けませんか?」



『あ、はい。』



「皆の者、注げィ!!」



  「「「「ハッ!!!」」」」



俺が呆然としていると、ホスト達が組体操のピラミッドの隊形になって眼前にグラスを積み上げて行く。



  「キャー!!  ロミオ名物人間シャンパンタワーよ!!」
  「インスタにあげなきゃ!!!」
  「乱舞くーん、こっち目線ちょうだーい!!」
  「騎士晴斗(ナイトハルト)くーん可愛い!」
  「人間シャンパンタワー!!  いつかアタシも入れるわ!!」



「さあ、遠市厘様。
当店からのささやかな贈り物です。

人間シャンパンタワー!!! 
ofッドン・ペリニヨンッ!!」



  「「「「セイヤッ!!!」」」」

  
  「「「「セイヤッ!!!」」」」

  
  「「「「セイヤッ!! セイヤッ!! セイヤッ!!!」」」」


  「野郎共ッ!! 宇宙1の男はッ 誰だぁッーーー!!!!」


  「「「「聖夜ッ!! 聖夜ッ!! 聖夜ッ!!!」」」」


  「あッ  そぉーれッ!!」


  「「「「聖夜あああああああッ!!!!!」」」」



よくわからんギミックでグラスに酒が注がれていく。
いや、それはいいんだが…
これ、汗とか入ってない?



「さあ、遠市厘様。
どうぞ御一献。」



え? これ、俺が飲むの?
いや、汗とか…
え? 飲まないと駄目なの?
ちょ、女共!
何で俺を睨んでるんだよ!
俺は好きでこんな茶番に付き合ってる訳じゃねーつーの。
…いや、面白いけどさ。



『あ、じゃあ。
いただきますね。
ゴクゴク。

あ、どうも。
美味しかったです。』



俺の被害妄想かも知れないが、ちょっと塩っぽかった気がする。
後でストゼロ飲んで口直ししよう。
俺が呆然としている中、ホスト達がキビキビと後片づけを始める。

何事も無かったような顔で聖夜Mk-IIが俺の隣に座り、肩に手を回して来る。



『ちょ! 俺、そういう趣味はないんで!!』


「申し訳御座いません。
サービスとは加減が難しいものですね。 (ニコッ)」



女共が歯をギリギリさせながら俺に殺意を向けてくる。
いやいや、だから!
俺はそういう趣味じゃないって!



「さて、本題だ。
遠市厘。」


『ええ。』


「ホストクラブを潰す?
何故?」


『いや、被害者の子が多かったからです。
俺の知り合いも、まだ中学なんだけどホストに借金あるらしくて。』


「ふっ。
遠市厘。
いきなり現れて正義面か?
キサマも同じ穴の貉だろうに!」


『あ、いえ。
《正義面》って表現している時点で
聖夜Mk-II(にだいめ)さんは俺に賛同してくれてるんじゃないですか?』


「…。」


『あ、スミマセン。』


「なあ、遠市厘。
キサマに夢はあるか?」


『あ、はい。
ホスト風情には語りませんが、色々と。』


「俺の夢はな。
世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築くことだ!」


『へー。
意外っすね。
あ、それ賛成です。』


「その為に!
親父の起ち上げた、このロミオを守るッ!!」


『え? 脈絡?』


「なあ遠市厘。
キサマ、この店に来てどう思った?」


『あ、いや。
新鮮で面白かったです。
こういう所って、男が来ても意味ないって思ってましたけど。
結構、皆さん細かい気配りして下さって。
刺激も強いし。
女がハマる気持ち、わかるかもです。』


「ふっ、流石の眼力だな。
国連人権委員会から名指しで批判されるだけの事はある。」


『あ、どもです。』


「なあ、遠市厘。
この店の女共。
ホストの話題をする女共。
どんな表情をしていた?」


『うーん、結構楽しそうですよね。
何かワクワクしてるって言うか。
熱中してるって言うか。』


「そう!
それが幸福だ!
俺は、俺達は!
世界に幸福を届けている!!」


『あ、いや。
百歩譲って女は幸せになれたとしても…
その旦那さんとか親御さんは大変かな、と。』



「ならソイツらも女を喜ばせることにもっと全力を注げばいい!

孔雀はオスだけが煌びやかに己を飾る。
何故だ?
メスを感動させる事がオスの使命だからだ!

俺は嘆く…
世の男の不甲斐なさを!

仕事? 社会? 世界?
下らんな!
ただ女を愛し! 女に誇示することこそが男の使命!!
咲き誇らずして何らの男か!!!」



『あ、そこの部分は俺の意見は真逆なんすよ。
女なんぞにリソース注ぐのって時間の無駄じゃないっすか?
いや、俺だってセックスする相手は確保しておきたいんですけど。

でも、この店の人達みたいに雄々しくて細やかな人々は
政治や戦争みたいに、もっと大事な仕事に携わるべきでしょ?』



「ふっ、遠市厘。
キサマとは交わらない道を歩んで、共にあの星を目指すのだろうな。」



『あ、はい。
まあ、交わらないとは思うんすけど。

そこら辺がホストクラブ制限論への賛否に繋がるのかな、と。』



「俺達ホストが男を売り、奴ら女共は俺達の気を惹く為に女を売る。
商品価値のある男と、商品寿命の長い女だけが生き残り…
値札も付かないゴミが淘汰されてゆく!

それがッ! 人類の進化だ!!
違うか! 遠市厘!!」



『ああ、部分賛成っすね。
特に男の商品価値の部分はアグリーです。
まあ、俺自身が値札の付かないゴミそのものなんで…

社会に対して貢献することによって…
間接的に価値を主張したいと潜在的に考えてるのかも知れませんね。』



「キサマの価値を主張したいが為にホスト潰しか?」



『あーーー、結局はそういうことなのかも知れませんね。
そこら辺の後ろめたさもあって、遼介さんに一言断りに来たのかもです。』



「ほう。
流石は国連人権委員会に名指しで批判されるだけの事はあるな。」



『あ、でもでも。
この店に来て、ホストの皆さんの働く姿を見て…
後ろめたさ的な感情は消えました。
基本、ここは強者男性の世界ですよね?
だから…
《この人達はどこに行っても喰いっぱぐれないだろな。》
って理解して。
まあ、潰してもいいや。
位の感覚です。』


「ホストクラブは滅びんよ。
女に正気ある限り、幾ら潰されても何度でも蘇るさ!」


『でしょうね。
結局、それっぽい商品・サービスが誕生して終わりだと思います。

ただ、未成年者を食い物にする行為だけは控えて頂けませんか?
俺は、争点はそこだと思うんですよ?』



「摂理に背く事は出来んな。
考えてもみろ、10代のメスは生殖最適時期だ。
当然、形振り構わず優秀なオスを欲する。

そ・れ・が…
この俺だ!」



『ああ、それは言えてますね。
聖夜Mk-II(にだいめ)さんはイケメンだしリーダーシップもある。
おカネを払ってでも逢いたいって気持ちは理解出来ます。
誇張抜きで若手世代のナンバーワンじゃないですか?
俺も女なら、多少無茶をしてでも、この店に通ったかもです。』



「…残念ながらナンバーワンの座は、まだ俺じゃぁない。」


『?』


「目の前に世界一バズった男がいるからな。
今の俺にナンバーワンを名乗る資格はない。
そうだろ、遠市厘。」


『いやあ、俺がバズったって言うか。
勝手に撮られただけですしねえ。』


「だったら尚更だ。
必死にキメ顔作って加工アプリを使ってる俺達なんかを
キサマは一瞬で抜き去ったことになる。」


『ん?  そういうモンですかね?』


「キサマの自己評価など知らん。
だが、俺はキサマを評価する。
最大のライバルとしてな!」


『えー? それは流石に過大評価というか。』


「だからこれからも10代の客を取る!
営業は基本的にオラオラ!
AVに売る! 風俗に売る! ヤクザに売る!
カケは永劫! 薬はジャブジャブ! 原価は九層倍!
それがッ!  ホストだッ!」


『ほええ。
まあ、お互い捕まらない様に気を付けましょう。』


「ふっ、遠市厘。
俺はオマエを越える。
オマエも親父も越えて!
俺は夜の王となるッ!!!」



気が付くと女共が床に正座して聖夜Mk-II(にだいめ)の演説に聞き惚れていた。
見ると既婚者っぽい雰囲気の女が多い。
念のため確認するが、この店に来るカネって旦那の財布から抜いてないよな?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



思わぬ新キャララッシュに疲れた俺はソファーに座ってぐったりしていた。
さっき口論していた乱舞が熱いオシボリを持って来てくれる。

『あ、気持ちいい。』

流石は四天王最弱の男である。
粗暴なだけではなく、案外気配りも出来る。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

737万6958円
 ↓
737万1958円

※ホストクラブ・ロミオにて乱舞にチップ5000円を贈呈。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「遠市さん!!
あざ――――っす!!
あざーーーーーーっす!!!」


『あ、いえ。
騒ぎになっちゃってゴメンナサイ。
上司さん、怖い人っすね。』


「いや、ははは。
愛想烈(アモーレ)さんは、厳しくも厳格な上司だから。
ははは。」



  「じゃあ、明日からもビシバシ行かなきゃだな。」



「ひ、ひえええ!!
勘弁して下さいよお!!!」



一同 「「「「ははははは。」」」」」




いい雰囲気になったので、皆に挨拶をして帰ろうとしたところだった。



「ちょっとおお!!!
Mk-IIきゅん!!
今日はウ↑チ↓がお願いシンデレラって言ったでしょ!
何回ドンペリ入れたと思ってるの!!
Mk-IIきゅんとyesyes枕する為に、キモおぢの財布1000回生贄にしたんだからね!!!
このグラスには弱者男性共の涙と我慢汁が注がれてるんだよ!!!!
今すぐFuck Me!!!
セックス! セックス! 
ウ↑チ↓が愛してるのはぁ♡」



聞き覚えのある声がすると思ったら、鷹見夜色が居た。
顔中に包帯が巻かれてて大変だなと思ったが、冷静に思い出すと殴ったのは俺だった。



『よお鷹見。』


「…ヒッ!  だ、ダーリン様!?」


『オマエもよく来るの?
結構いい店だな。』


「あっ! あの!!
ち、違くて!!!
違うんです!!!!」


『?
じゃあ、俺は今から帰るから。
あんまし無駄遣いすんなよ。

ヒロノリさーん、すいませーん思ったより時間掛かっちゃって。

あ、乱舞さんお土産ありがとうございます。
え? カシューナッツっすか?
美味しそう!!』



「だだだだだ!!!
ダーリンしゃまあ!!!!!

もももも!!
申し訳御座いませーーーーーん!!!!」


『?』


「ちちち!
違うんでしゅう!!!!
ウ↑チ↓はぁ!!
ホストとか全然大嫌いだし! キョ―ミねーし!
生まれて初めて!!
無理矢理連れて来られてぇ!!!

…レイプ!!
そう! 今まさにレイプされかかってたんでしゅ!!!
ウ↑チ↓はぁ!!! 
被害者なんでしゅうう!!!!!

ウ↑チ↓が愛してるのはダーリン様だけなんでしゅ!!!
地球上のホストを皆殺しにしますからぁ!!!!
許してぇ!!!
ゆ゛る゛じでぐだじゃ゛あ゛あ゛あ゛い゛!!!!!
お゛ね゛がい゛ッ!!!
じん゛じで゛ぇ゛!!!」



『えー、殺すのは可哀想だろ。

あ、聖夜Mk-II(にだいめ)さん。
今日は御迷惑を掛けました。』




「いや、コレが遠市厘の女だと知らなくてな。
スマン。」



『ははは。
聖夜Mk-II(にだいめ)さんもさっき仰ってたでしょ。
《メスを感動させる事がオスの使命》
だって。
貴方は使命を果たしただけですよ。

俺はそういうの苦手なんで、多分実践しないと思うんですけど。
興味深い御意見でした。
勉強になりましたよ。』



「そう言ってくれると助かる。
だがケジメだ。
この女は出禁。
業界への回状は不要だろう、ウチ以外は全て出禁にされたらしいからな。
代わりと言っては何だが、今日の代金は俺が個人的に負担する。」



『いや、流石にそれはマズいですよ。
鷹見は幾ら位飲んだんですか?』



「…うーむ。
本来言うべきではない事柄だが。
ドンペリゴールド、40万。」



『そんな額を負担させるのは申し訳ないです。
払わせて貰えませんか?』



「…それでは筋が通らん。
だが、キサマと飲んだと思えば、それも一興かも知れんな。」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

737万1958円
  ↓
717万1958円

※ホストクラブ・ロミオにて鷹見夜色の飲食代20万円を支払い。
 総額40万円をオーナー・車坂聖夜Mk-IIと折半。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



俺が《ホストクラブは面白味もあるが苦手だ》と正直に言うとホスト達に「そりゃそうだ」と笑われた。
歌舞伎町ということもあり帰路がやや不安だったが、遼介と愛想烈(アモーレ)が護衛を申し出てくれたのでスムーズに東横に帰る事が出来た。



  「ゆるじで!!!!
  もう二度とじまじぇん!!!
  おねがいじまじゅっ!!
  じゅでないで!!! 
  ウ↑チ↓をじゅでないでえええええ!!!」




俺が広場に戻るとjetがホテルの部屋を皆でシェアする所だったので、俺も混ぜて貰った。
例の13歳や茨城から家出してきた少女も居て、《やはり貧困は人を不幸にするな》と思った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


【所持金】

717万1958円
  ↓
715万1958円

※宿泊費+夜食代として2万円を供出。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



女達がカラオケを強請ったが、明らかにjetが疲れ切っていたので叱責して黙らせた。
少しはホストを見習え、殺すぞ屑共。


『おい、jetオマエ
体調かなり悪いんじゃないか?』


「いつもこんなんだよ。
居酒屋も人手不足でさ。
本当は21時までの契約なんだけど
いつもこんな時間までさ。」


『人手不足ってことはないだろ?
だって新宿は時給も高いし、こんなに人が歩いてるじゃないか。』


「ははは。
人が来ねーから時給は上がってくのさw
リンだって、居酒屋で働くよりも飲む方が楽しいだろ?
そういうことw」


『そっか。』


「そうだよ。
もう少し給料が良ければ納得出来るんだけど。
所詮、バイトに毛が生えた程度の仕事だからな。」


『なあjet。
バイトの給料上げる為に、世界が滅茶苦茶になったら…
オマエ怒るか?』


「リンが…
自分を悪者にしようとしてるのなら…
そりゃあ、怒るよ。」


『そっか。
ごめん。』


「別に謝ることじゃないだろ。
例え過激でもさ。
気を掛けてくれてる奴が居るって嬉しい。

俺達なんか、誰からも…」




なあコレット。
引っ繰り返った世界で…
居酒屋の店員ってどうなってた?




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




【名前】

遠市 †まぢ闇† 厘



【職業】

詐欺師
自称コンサルタント
祈り手



【称号】

GIRLS und PUNCHER



【ステータス】 (地球上にステータス閲覧手段無し)

《LV》  3
《HP》 疲れやすい
《MP》 ずっと悪だくみ可能
《力》  女と小動物なら殴れる
《速度》 小走り不可
《器用》 使えない先輩
《魔力》 ?
《知性》 悪魔
《精神》 女しか殴れない屑
《幸運》 的盧

《経験》 30 (仮定)

※キョンの経験値を1と仮定
※ロードキルの有効性確認済



【スキル】

「複利」 

※日利3%

新札・新貨幣しか支払われない可能性高し、要検証。



【所持金】

所持金715万1958円

※但し警視庁が用意した旧札100万円は封印、タイミングを見て破棄するものとする。



【所持品】

jet病みパーカー
エモやんシャツ
エモやんデニム
エモやんシューズ
エモやんリュック
エモやんアンダーシャツ 
寺之庄コインケース
奇跡箱          
コンサル看板 



【約束】

 古屋正興     「異世界に飛ばして欲しい。」
 飯田清麿     「結婚式へ出席して欲しい。」
〇         「同年代の友達を作って欲しい。」
          「100倍デーの開催!」
〇後藤響      「今度居酒屋に付き合って下さい(但しワリカン)」
          「大阪を滅ぼさないで下さい!!!」
 江本昴流     「後藤響を護って下さい。」
×弓長真姫     「二度と女性を殴らないこと!」
×         「女性を大切にして!」   
〇寺之庄煕規    「今度都内でメシでも行きましょう。」
×森芙美香     「我ら三人、生まれ(拒否)」
×中矢遼介     「ホストになったら遼介派に加入してよ。」
          「今度、焼肉でも行こうぜ!」
〇堀田源      「トイレコインの使い方を皆に教えておいて。」
〇山田典弘     「一緒にイケてる動画を撮ろう。」
 楢崎龍虎     「いつかまた、上で会おう!」
 警視庁有志一同  「オマエだけは絶対に逃さん!」
×国連人権委員会  「全ての女性が安全で健(以下略)」
〇安宅一冬     「浅草寺周辺を一緒に散策しましょう。」
 水岡一郎     「タックスヘイブンの利用・移住をしないこと。」
 平原猛人     「殺す。」
 車坂聖夜Mk-II   「世界中の皆が笑顔で暮らせる、優しい世界を築く」


〇鷹見夜色     「ウ↑チ↓を護って」

 木下樹理奈    「一緒に住ませて」
 
 ヒルダ・コリンズ 
×         「芋羊羹…。」
          「王国の酒…。」
          「表参道のスイーツ…。」 

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