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チートでコロンブス交換を実践する
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色々ずーっと考えていたが、結局俺はセックスがしたかっただけなのだろう。
メリッサと何回かセックスしたら、異世界とかスキルとかメリッサとか、全てがどうでも良くなった。
英雄になりたいとか、救世主になりたいとか、主人公になりたいとか、そんなものは後付けの話で。
結局、可愛い女の子とセックスが出来れば何でも良かったんだろ?
なあ、伊勢海地人。
残ったのは標準座標≪√47WS≫への底意地の悪い復讐心だけだな。
俺は色々欠落した人間だが、陰湿な粘着性だけは人に優ってるらしい。
神を名乗っていたアイツが無様に絶望して破滅する顔を見る事が一番の望みだ。
よくわかったよ。
男の望みなんて女と寝るか、敵を殺すかくらいしかない。
セックスはもうした。
標準座標≪√47WS≫はまだ殺してない。
それだけの話だ。
正直に打ち明けよう。
世界の平和なんてどうでもいい。
だが、世界の平和を口実に正義の立場から悪者に仕立てあげた誰かを攻撃するのは実に楽しい!
標準座標≪√47WS≫。
高い所から神様ごっこをしているオマエらが惨めに絶滅する日が楽しみだ。
今から煽り台詞を考えておかなきゃなw
俺が転移してからたったの数か月。
オマエらの座標を能吏のレザノフ卿と高度な文明を持つリザードに早速バラしてやったぜw
この世界にはオークとコボルトも存在するらしいな。
当然、この2種にもオマエらの母星の位置を教える。
オマエらの魂胆も暴く。
これ、俺の勘なんだけどさ。
リザードもオークもコボルトも、全く同じ神話を標準座標≪√47WS≫から与えられてるよね?
いや絶対そうだよ。
だって自分で言ってただろ?
【ぷぷぷのぷーーww
実はワシの仕事って蠱毒に投げ込む全種族に同じセリフを言うだけなんだけどねーーwwww
これで成果が上がるんだから楽な商売やでぇwww
どいつもこいつも真に受けすぎいいいwwww】
俺、忘れてねーから。
死んでも忘れねーよ。
こんな素晴らしい屈辱は、グランバルドの全種族で共有するべきだよなあ。
全種族で言語を共有出来たら、どんなに勘が鈍い奴でも《誰が敵か?》気付くと思うんだ。
みんなどんな顔するのかな?
特にコボルトというのは滅茶苦茶恐ろしい種族らしいじゃないかw
やっぱり怒るかなw
笑いを堪えるのが難しいなw
なあ、神野郎。
みんなで標準座標≪√47WS≫に遊びに行けたら面白いと思わないか?
俺、オマエに再会する日が楽しみで楽しみで待ちきれないんだw
ぶっ殺してやるよ。
-------------------------------------------------------------
「チート君、上機嫌だね。」
『そう見えます?』
「君のリザード愛は飛び抜けてるよ。
メリッサちゃんだっけ?
折角可愛い恋人が出来たのに、リザードの話ばっかりしているじゃないか?」
『ああ、メリッサ…。
俺が死んだら、アレが生き延びれる様に取り計らってくれませんか?
親切な金持ちの妾か何かになるのが本人の為だと思います。』
「了解。
チート君、死ぬの?」
『いつ殺されても仕方ない状況でしょ?』
「まあねえ。
僕は政治とかに無知だけど。
いつ死刑になってもおかしくはないよね。」
『貴方を巻き込まない様には努力しますが…』
「いや、もう秘書室長だしw」
『そっか。そうですよね。
確かに一蓮托生だ。』
「魔石の売買も仕切らせて貰う事になったし。
夢は全部叶っちゃったかな。」
『結局、リーダーのお爺さんは商都に引っ越しちゃったんですね。』
「あの人、ロドリゴ社長の派閥だしね。
若い頃から色々つるんでたらしいし
付いて行く以外に選択肢ないでしょ。」
俺は今、魔石売買に直接的には携わっていない。
取引会場が俺のビルの裏口だし、仕切っているのは小太りオジサンである。
流石にこの状態で俺がプレイヤーになるのは、ヘイトコントロールの観点から拙いだろう。
もういいのだ。
今更取引に顔を出して小銭で恨みを買いたくない。
今、前線都市の魔石相場に関しては、ほぼリアルタイムで把握出来るようになっている。
何よりほぼ自由に希望の魔石が入手出来るようになった。
少なくとも、前線都市の魔石は誇張抜きで俺の管理下にある。
例えば、昨日ホーンラビットの魔石がどれだけ新規入荷して、誰がどんな目的で幾つ何を目的に購入したかを俺は全て知っている。
魔石に関しては嫌でも俺にカネと情報が入ってる仕組みが出来上がった。
『一芸は道に通ずる。』
今の俺は真にチートだ。
-------------------------------------------------------------
途中別れた小太りオジサンは城壁に上り、警戒態勢に入る。
警戒対象はリザード族ではなく、人間側の目撃者。
当然、レザノフ卿は何らかの手段でこちらを監視している。
そこは計算内。
問題はそれ以外の事情を知らない人間が首を突っ込んで場を壊す事である。
小太りオジサンには、そのイレギュラーの監視を任せてある。
信号の種類も打ち合わせ済み。
俺なりの人事は尽くした。
そして台設置地点。
天命もまた応えてくれている。
銀線は消えており、台には蛇革のような素材の袋が10袋。
(まさか自分たちの皮膚じゃないよな?)
中には彼らがコインと呼ぶ翡翠性の通貨が大量に入っている。
数えてみると1袋につき100枚の翡翠コイン。
計1000枚の翡翠コインである。
『ああ、これレートというより物の考え方を計られているな。』
要は「銀線を1000コインで買い取りますよ」という意味ではなく。
相場が解らない状態で大金を託された場合、幾らを売値として提示するか。
向こうが知りたいのは、そこら辺の匙加減だ。
ギバーか?テイカーか?
近視眼的か? 長期的視野を持ってるか?
強欲か? 清廉か?
本質的な部分で友人になれるか? 結局は敵か?
カネの受け取り方一つで幾らでも計れる。
俺は一旦受け取りを保留すると、城壁内に戻り手当たり次第に硬貨レートを尋ねて回る。
特に貴金属の価値を念入りに尋ねて回る。
グランバルドの通貨単位はウェン。
銅貨1枚が10ウェン
銀貨1枚で1000ウェン
金貨1枚で1万ウェン
高額決済用の白金貨は100万ウェン。
それ以上の巨額な取引や納税には為替が用いられる。
翡翠は変動が大きいので厳密にレートを明記する事が困難なのだが、去年の最安値が㌘単価9000ウェン最高値が㌘17500ウェンだった。
工業需要にかなり左右されるらしく、10年前には㌘50000を越えた事もある。
リザードの翡翠コインが31グラム。
27900ウェン~54250ウェンか…
…額面通り、四角四面にやってみるか。
俺は木板を裏の家具屋で分けて貰うと、27900ウェン(金貨3枚銀貨7枚銅貨90枚)と54250ウェン(金貨5枚銀貨4枚銅貨250枚)を貼り付けた。
また、金貨1枚・銀貨10枚・銅貨1000を貼り付けて等号で結ぶ。
その下にグランバルド語で
「我々にとって翡翠は実需品なので価格が変動する。
君達のレートより随分高いので、不当な利益を貪ろうとする人間種が出現される事が予測される。
その様な不心得者によって君達の財産や名誉が傷付かない仕組みを一緒に作らせて欲しい。
前線都市市長 伊勢海地人」
と署名した。
人力車を飛ばして執務室に居たレザノフ卿に提出。
「そうですか。」
と事も無げに頷いたレザノフ卿は俺の署名の下にサラサラと筆を走らせた。
《子爵 イワン・レナートヴィチ・レザノフ》
正気か?
アンタ頭がおかしいんじゃないのか?
俺と違って家名を背負ってるんだよな?
しばし、無言で見つめ合う。
ほんの1分ほどだったが、緊張感のある一時だった。
俺はただ黙礼して退出した。
俺が交易用に設置した銀線は市場価格で合計10万ウェン。
翡翠コインは1枚5万のレートを適用する。
(売店のお釣りに対しては額が大きすぎるか?)
いや、固定相場と解釈されると、後々拙いか?
結構責任重いな。
『ゲ――――――ヴィ!!! (こんにちわーーーー!)』
俺の叫びが響いて消える。
もう一度、叫ぼうかと思った瞬間に【ゲ――――――ヴィ!】という複数の返答が帰って来る。
結構近いぞ?
藪に隠れていた?
そう思ってるとすぐに2匹のリザードが出現する。
爬虫類の呼吸構造はよく分からないのだが、少し息が荒い気がする。
付近に張り付いていてくれたのか?
『ケーヴィ♪ ケーヴィ♪』
俺は精一杯の愛想を総動員して、友好的ムードを醸し出そうとする。
向こうも両手を広げるジェスチャーをしきりに繰り返す。
【本当に俺達のジェスチャー通じるのかな?】
【村長が馬鹿だから。】
【人間種の間でもこのジェスチャーに《敵意が無い》って意味があれば楽なんだがな。】
なるほど。
こうやって両手を広げてユラユラさせればいいのか?
武器を持ってないアピールなのかな?
【おお! マジか!?】
【え? これ通じたってこと?】
【だろうな。 俺達の意図は伝わってるぞ!】
俺は持参したレート表木版を彼らに渡す。
【???】
【え? え?】
【何コレ?】
【メッセージ?】
【これ… 彼らの通貨?】
【ああ、そういうことね。 人間種は金属片を通貨として使用する。】
おお、伝わるぞ。
多分、機転の利くタイプの者が配置されていたのだろう。
【ねえ、シチョー・チート。
人間種は金属を使って決済をするって意味?
そうだよね?】
しかも、俺をチートだと認識できている。
情報は共有してくれてるみたいだな。
『はい!コクコク』
【おお! じゃあこれ…
君達の通貨レートを明かしてくれてるってこと?
いいのかい?】
『はい!コクコク』
【あのさあ、ここからが一番重要なんだけど。
…あー、誤解しないでね。
君達を侮辱する意図の発言ではないからね…
君達も…
十進法を使うんだよね?】
『はい!はいはい!!! コクコクコクコク!!』
【おお! 思わぬ共通点!!】
【ほらな言っただろ。 指の数で決まるんだってw】
俺とリザードは互いの指を見せ合い、恐らくは微笑み合えた。
リザードの指は一本一本が太く長く、ゴツゴツしていたが。
それでも俺達人間と同じ五指構造だった。
しばらく笑い合った後、俺は机の上に金貨1枚と金貨5枚を離して置いてから
彼らの翡翠コインを両方の間で何度も往復させた。
【??? え? 何?】
【僕たちのお金が欲しいの? ん? 人間種も翡翠を決済に使うのかい?】
『いいえ!ブルンブルン』
【いや、これは1枚と5枚に何か意味があるな。
手数料が欲しい?
うーん、何が言いたいんだろう?】
まるでジェスチャーゲームだな。
俺はしばらく、翡翠コインを揺ら揺ら動かし始めた。
ゲームの様に二人のリザードが次々に解釈を提案し続ける。
【翡翠は実需があり、通貨として用いない。
相場は数万ウェン前後で変動する。】
彼らがこの正解に辿り着くのに5分も掛からなかった。
むしろ俺が驚かされる。
みんな極めて優秀だ。
俺、もっと周囲に色々委ねよう。
『はいはい! コクコク』
【オッケー。
そちらの提示したレートを信じる。
上司もそのまま伝えるよ。
ん? この板は持ち帰っていいの?
わかった。
では我々も似たものを作ってみるよ。】
おお、マジか…
リザード社会の通貨レート、ちょっと興味あるな。
【一番太い銀線あったよね?
あれのもっと長いものは買わせて貰えないか?
勿論、君達にとって稀少なものなら押し買いする意図はないからね。】
『街に帰って探してみます。
それらしいものがあれば、この台に置かせて頂きます。』
俺はそのまま日本語で伝えた。
2匹のリザードには通じたらしい。
【心を読む】より先に、それはわかった。
彼らの袋から、2枚だけ翡翠コインを取り出し
『対価はこれでいい。』
と言った。
【いや、それは不当に安い。】
【わかってるのか? こっちではコイン2枚なんて子供の小遣いなんだぞ?】
【正当な対価を受け取ってくれ。】
【損をさせる意図はないからな。】
向こうは慌てて、口々にそう言った。
俺は20枚袋から取り出し、『ではこれを貰っていいか?』と尋ねる。
【いやいや、そこは袋ごと持っていこうよ】
【僕達が怒られてしまうw】
大体彼らの価値観が見えてくる。
俺は笑顔で『ズジュー(さよなら)』と言ってその場を立ち去ろうとするが、リザード達が慌てて袋を押し付けてくる。
【せめて一袋は受け取って貰わないと俺達が困るんだよ!】
【そこは空気読んで欲しいな!】
仕方が無いので1袋だけ受領してその日は立ち去った。
向こうもレート板を持って河面に浮かぶ中型船に戻っていった。
ズジュー!
-------------------------------------------------------------
「…あのねえ、伊勢海クン。
こんなに大量の翡翠。
アナタ、どこから盗んできたの?」
『ちゃんと買った。』
「幾らで?」
『10万ウェン。』
「それ、安過ぎない?
犯罪性を感じるわよ?」
『そこはちゃんと確認してある。
グランバルドの刑法上、犯罪には該当しない…
…叛逆罪以外では訴追されない筈だ!』
「あっそ、それじゃあ縛り首用の縄を用意しておくわ。」
『そいつは親切なサービスだな。
じゃあ、これで冬用万能薬とやらが作れるんだな?
冬は越せる?』
「10年位はね。
但し、帝国薬事法上の消費期限が5年だから…」
『余れば外に売ればいいんじゃないか?
それか、アンタへの報酬をその翡翠から支払うのも構わないぜ?』
「え!? 本当!?
これ何枚入ってるの?」
『丁度、100枚だと思う。』
「じゃあ、ワタクシの取り分は…
そうね、こっちは大活躍してあげてるんだから
半分は頂くわよ!
当然の権利よね!?
ねえ、後から返せって言っても絶対に応じないからね!
アナタも安く買い叩いたんだから共犯よね!?」
『うーん。
こっちとしては痛い出費だが…
他ならぬアンタだ。
翡翠50枚で手を打つよ。』
ベスおばは狡そうな表情で必死に笑いを堪えていた。
気持ちは解からなくもない。
こういう人間が余計な事をしない為にも、互いのレートを把握出来る仕組みを早めに作らなきゃな。
よし、これで越冬用の薬剤は何とかなりそうだ。
-------------------------------------------------------------
『以上の経緯です。
私が死んだらレザノフ卿に後事をお任せします。』
面と向かってそう言ってやったら、物凄く考え込みながら激怒していたので猛省する。
いかんいかん、テンションが上がり過ぎているな。
これ以上刺激するのはやめておこうw
メリッサと何回かセックスしたら、異世界とかスキルとかメリッサとか、全てがどうでも良くなった。
英雄になりたいとか、救世主になりたいとか、主人公になりたいとか、そんなものは後付けの話で。
結局、可愛い女の子とセックスが出来れば何でも良かったんだろ?
なあ、伊勢海地人。
残ったのは標準座標≪√47WS≫への底意地の悪い復讐心だけだな。
俺は色々欠落した人間だが、陰湿な粘着性だけは人に優ってるらしい。
神を名乗っていたアイツが無様に絶望して破滅する顔を見る事が一番の望みだ。
よくわかったよ。
男の望みなんて女と寝るか、敵を殺すかくらいしかない。
セックスはもうした。
標準座標≪√47WS≫はまだ殺してない。
それだけの話だ。
正直に打ち明けよう。
世界の平和なんてどうでもいい。
だが、世界の平和を口実に正義の立場から悪者に仕立てあげた誰かを攻撃するのは実に楽しい!
標準座標≪√47WS≫。
高い所から神様ごっこをしているオマエらが惨めに絶滅する日が楽しみだ。
今から煽り台詞を考えておかなきゃなw
俺が転移してからたったの数か月。
オマエらの座標を能吏のレザノフ卿と高度な文明を持つリザードに早速バラしてやったぜw
この世界にはオークとコボルトも存在するらしいな。
当然、この2種にもオマエらの母星の位置を教える。
オマエらの魂胆も暴く。
これ、俺の勘なんだけどさ。
リザードもオークもコボルトも、全く同じ神話を標準座標≪√47WS≫から与えられてるよね?
いや絶対そうだよ。
だって自分で言ってただろ?
【ぷぷぷのぷーーww
実はワシの仕事って蠱毒に投げ込む全種族に同じセリフを言うだけなんだけどねーーwwww
これで成果が上がるんだから楽な商売やでぇwww
どいつもこいつも真に受けすぎいいいwwww】
俺、忘れてねーから。
死んでも忘れねーよ。
こんな素晴らしい屈辱は、グランバルドの全種族で共有するべきだよなあ。
全種族で言語を共有出来たら、どんなに勘が鈍い奴でも《誰が敵か?》気付くと思うんだ。
みんなどんな顔するのかな?
特にコボルトというのは滅茶苦茶恐ろしい種族らしいじゃないかw
やっぱり怒るかなw
笑いを堪えるのが難しいなw
なあ、神野郎。
みんなで標準座標≪√47WS≫に遊びに行けたら面白いと思わないか?
俺、オマエに再会する日が楽しみで楽しみで待ちきれないんだw
ぶっ殺してやるよ。
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「チート君、上機嫌だね。」
『そう見えます?』
「君のリザード愛は飛び抜けてるよ。
メリッサちゃんだっけ?
折角可愛い恋人が出来たのに、リザードの話ばっかりしているじゃないか?」
『ああ、メリッサ…。
俺が死んだら、アレが生き延びれる様に取り計らってくれませんか?
親切な金持ちの妾か何かになるのが本人の為だと思います。』
「了解。
チート君、死ぬの?」
『いつ殺されても仕方ない状況でしょ?』
「まあねえ。
僕は政治とかに無知だけど。
いつ死刑になってもおかしくはないよね。」
『貴方を巻き込まない様には努力しますが…』
「いや、もう秘書室長だしw」
『そっか。そうですよね。
確かに一蓮托生だ。』
「魔石の売買も仕切らせて貰う事になったし。
夢は全部叶っちゃったかな。」
『結局、リーダーのお爺さんは商都に引っ越しちゃったんですね。』
「あの人、ロドリゴ社長の派閥だしね。
若い頃から色々つるんでたらしいし
付いて行く以外に選択肢ないでしょ。」
俺は今、魔石売買に直接的には携わっていない。
取引会場が俺のビルの裏口だし、仕切っているのは小太りオジサンである。
流石にこの状態で俺がプレイヤーになるのは、ヘイトコントロールの観点から拙いだろう。
もういいのだ。
今更取引に顔を出して小銭で恨みを買いたくない。
今、前線都市の魔石相場に関しては、ほぼリアルタイムで把握出来るようになっている。
何よりほぼ自由に希望の魔石が入手出来るようになった。
少なくとも、前線都市の魔石は誇張抜きで俺の管理下にある。
例えば、昨日ホーンラビットの魔石がどれだけ新規入荷して、誰がどんな目的で幾つ何を目的に購入したかを俺は全て知っている。
魔石に関しては嫌でも俺にカネと情報が入ってる仕組みが出来上がった。
『一芸は道に通ずる。』
今の俺は真にチートだ。
-------------------------------------------------------------
途中別れた小太りオジサンは城壁に上り、警戒態勢に入る。
警戒対象はリザード族ではなく、人間側の目撃者。
当然、レザノフ卿は何らかの手段でこちらを監視している。
そこは計算内。
問題はそれ以外の事情を知らない人間が首を突っ込んで場を壊す事である。
小太りオジサンには、そのイレギュラーの監視を任せてある。
信号の種類も打ち合わせ済み。
俺なりの人事は尽くした。
そして台設置地点。
天命もまた応えてくれている。
銀線は消えており、台には蛇革のような素材の袋が10袋。
(まさか自分たちの皮膚じゃないよな?)
中には彼らがコインと呼ぶ翡翠性の通貨が大量に入っている。
数えてみると1袋につき100枚の翡翠コイン。
計1000枚の翡翠コインである。
『ああ、これレートというより物の考え方を計られているな。』
要は「銀線を1000コインで買い取りますよ」という意味ではなく。
相場が解らない状態で大金を託された場合、幾らを売値として提示するか。
向こうが知りたいのは、そこら辺の匙加減だ。
ギバーか?テイカーか?
近視眼的か? 長期的視野を持ってるか?
強欲か? 清廉か?
本質的な部分で友人になれるか? 結局は敵か?
カネの受け取り方一つで幾らでも計れる。
俺は一旦受け取りを保留すると、城壁内に戻り手当たり次第に硬貨レートを尋ねて回る。
特に貴金属の価値を念入りに尋ねて回る。
グランバルドの通貨単位はウェン。
銅貨1枚が10ウェン
銀貨1枚で1000ウェン
金貨1枚で1万ウェン
高額決済用の白金貨は100万ウェン。
それ以上の巨額な取引や納税には為替が用いられる。
翡翠は変動が大きいので厳密にレートを明記する事が困難なのだが、去年の最安値が㌘単価9000ウェン最高値が㌘17500ウェンだった。
工業需要にかなり左右されるらしく、10年前には㌘50000を越えた事もある。
リザードの翡翠コインが31グラム。
27900ウェン~54250ウェンか…
…額面通り、四角四面にやってみるか。
俺は木板を裏の家具屋で分けて貰うと、27900ウェン(金貨3枚銀貨7枚銅貨90枚)と54250ウェン(金貨5枚銀貨4枚銅貨250枚)を貼り付けた。
また、金貨1枚・銀貨10枚・銅貨1000を貼り付けて等号で結ぶ。
その下にグランバルド語で
「我々にとって翡翠は実需品なので価格が変動する。
君達のレートより随分高いので、不当な利益を貪ろうとする人間種が出現される事が予測される。
その様な不心得者によって君達の財産や名誉が傷付かない仕組みを一緒に作らせて欲しい。
前線都市市長 伊勢海地人」
と署名した。
人力車を飛ばして執務室に居たレザノフ卿に提出。
「そうですか。」
と事も無げに頷いたレザノフ卿は俺の署名の下にサラサラと筆を走らせた。
《子爵 イワン・レナートヴィチ・レザノフ》
正気か?
アンタ頭がおかしいんじゃないのか?
俺と違って家名を背負ってるんだよな?
しばし、無言で見つめ合う。
ほんの1分ほどだったが、緊張感のある一時だった。
俺はただ黙礼して退出した。
俺が交易用に設置した銀線は市場価格で合計10万ウェン。
翡翠コインは1枚5万のレートを適用する。
(売店のお釣りに対しては額が大きすぎるか?)
いや、固定相場と解釈されると、後々拙いか?
結構責任重いな。
『ゲ――――――ヴィ!!! (こんにちわーーーー!)』
俺の叫びが響いて消える。
もう一度、叫ぼうかと思った瞬間に【ゲ――――――ヴィ!】という複数の返答が帰って来る。
結構近いぞ?
藪に隠れていた?
そう思ってるとすぐに2匹のリザードが出現する。
爬虫類の呼吸構造はよく分からないのだが、少し息が荒い気がする。
付近に張り付いていてくれたのか?
『ケーヴィ♪ ケーヴィ♪』
俺は精一杯の愛想を総動員して、友好的ムードを醸し出そうとする。
向こうも両手を広げるジェスチャーをしきりに繰り返す。
【本当に俺達のジェスチャー通じるのかな?】
【村長が馬鹿だから。】
【人間種の間でもこのジェスチャーに《敵意が無い》って意味があれば楽なんだがな。】
なるほど。
こうやって両手を広げてユラユラさせればいいのか?
武器を持ってないアピールなのかな?
【おお! マジか!?】
【え? これ通じたってこと?】
【だろうな。 俺達の意図は伝わってるぞ!】
俺は持参したレート表木版を彼らに渡す。
【???】
【え? え?】
【何コレ?】
【メッセージ?】
【これ… 彼らの通貨?】
【ああ、そういうことね。 人間種は金属片を通貨として使用する。】
おお、伝わるぞ。
多分、機転の利くタイプの者が配置されていたのだろう。
【ねえ、シチョー・チート。
人間種は金属を使って決済をするって意味?
そうだよね?】
しかも、俺をチートだと認識できている。
情報は共有してくれてるみたいだな。
『はい!コクコク』
【おお! じゃあこれ…
君達の通貨レートを明かしてくれてるってこと?
いいのかい?】
『はい!コクコク』
【あのさあ、ここからが一番重要なんだけど。
…あー、誤解しないでね。
君達を侮辱する意図の発言ではないからね…
君達も…
十進法を使うんだよね?】
『はい!はいはい!!! コクコクコクコク!!』
【おお! 思わぬ共通点!!】
【ほらな言っただろ。 指の数で決まるんだってw】
俺とリザードは互いの指を見せ合い、恐らくは微笑み合えた。
リザードの指は一本一本が太く長く、ゴツゴツしていたが。
それでも俺達人間と同じ五指構造だった。
しばらく笑い合った後、俺は机の上に金貨1枚と金貨5枚を離して置いてから
彼らの翡翠コインを両方の間で何度も往復させた。
【??? え? 何?】
【僕たちのお金が欲しいの? ん? 人間種も翡翠を決済に使うのかい?】
『いいえ!ブルンブルン』
【いや、これは1枚と5枚に何か意味があるな。
手数料が欲しい?
うーん、何が言いたいんだろう?】
まるでジェスチャーゲームだな。
俺はしばらく、翡翠コインを揺ら揺ら動かし始めた。
ゲームの様に二人のリザードが次々に解釈を提案し続ける。
【翡翠は実需があり、通貨として用いない。
相場は数万ウェン前後で変動する。】
彼らがこの正解に辿り着くのに5分も掛からなかった。
むしろ俺が驚かされる。
みんな極めて優秀だ。
俺、もっと周囲に色々委ねよう。
『はいはい! コクコク』
【オッケー。
そちらの提示したレートを信じる。
上司もそのまま伝えるよ。
ん? この板は持ち帰っていいの?
わかった。
では我々も似たものを作ってみるよ。】
おお、マジか…
リザード社会の通貨レート、ちょっと興味あるな。
【一番太い銀線あったよね?
あれのもっと長いものは買わせて貰えないか?
勿論、君達にとって稀少なものなら押し買いする意図はないからね。】
『街に帰って探してみます。
それらしいものがあれば、この台に置かせて頂きます。』
俺はそのまま日本語で伝えた。
2匹のリザードには通じたらしい。
【心を読む】より先に、それはわかった。
彼らの袋から、2枚だけ翡翠コインを取り出し
『対価はこれでいい。』
と言った。
【いや、それは不当に安い。】
【わかってるのか? こっちではコイン2枚なんて子供の小遣いなんだぞ?】
【正当な対価を受け取ってくれ。】
【損をさせる意図はないからな。】
向こうは慌てて、口々にそう言った。
俺は20枚袋から取り出し、『ではこれを貰っていいか?』と尋ねる。
【いやいや、そこは袋ごと持っていこうよ】
【僕達が怒られてしまうw】
大体彼らの価値観が見えてくる。
俺は笑顔で『ズジュー(さよなら)』と言ってその場を立ち去ろうとするが、リザード達が慌てて袋を押し付けてくる。
【せめて一袋は受け取って貰わないと俺達が困るんだよ!】
【そこは空気読んで欲しいな!】
仕方が無いので1袋だけ受領してその日は立ち去った。
向こうもレート板を持って河面に浮かぶ中型船に戻っていった。
ズジュー!
-------------------------------------------------------------
「…あのねえ、伊勢海クン。
こんなに大量の翡翠。
アナタ、どこから盗んできたの?」
『ちゃんと買った。』
「幾らで?」
『10万ウェン。』
「それ、安過ぎない?
犯罪性を感じるわよ?」
『そこはちゃんと確認してある。
グランバルドの刑法上、犯罪には該当しない…
…叛逆罪以外では訴追されない筈だ!』
「あっそ、それじゃあ縛り首用の縄を用意しておくわ。」
『そいつは親切なサービスだな。
じゃあ、これで冬用万能薬とやらが作れるんだな?
冬は越せる?』
「10年位はね。
但し、帝国薬事法上の消費期限が5年だから…」
『余れば外に売ればいいんじゃないか?
それか、アンタへの報酬をその翡翠から支払うのも構わないぜ?』
「え!? 本当!?
これ何枚入ってるの?」
『丁度、100枚だと思う。』
「じゃあ、ワタクシの取り分は…
そうね、こっちは大活躍してあげてるんだから
半分は頂くわよ!
当然の権利よね!?
ねえ、後から返せって言っても絶対に応じないからね!
アナタも安く買い叩いたんだから共犯よね!?」
『うーん。
こっちとしては痛い出費だが…
他ならぬアンタだ。
翡翠50枚で手を打つよ。』
ベスおばは狡そうな表情で必死に笑いを堪えていた。
気持ちは解からなくもない。
こういう人間が余計な事をしない為にも、互いのレートを把握出来る仕組みを早めに作らなきゃな。
よし、これで越冬用の薬剤は何とかなりそうだ。
-------------------------------------------------------------
『以上の経緯です。
私が死んだらレザノフ卿に後事をお任せします。』
面と向かってそう言ってやったら、物凄く考え込みながら激怒していたので猛省する。
いかんいかん、テンションが上がり過ぎているな。
これ以上刺激するのはやめておこうw
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