39 / 63
チートで頓死する
しおりを挟む
昨夜は何もかも上手く行かなったので、不貞腐れて宿でゴロゴロしていた。
何か処理場に行く気力も湧かないし、誰とも顔を合わす気にもなれないので部屋に籠って何度もヴィルヘルム博士の論文を通読していた。
そんなに真面目に読む気はなかったので適当に何度も流し読む。
正直、同じ文章ばかり読んだ所で意味は無いのだが、今日は誰とも顔を合わせたくない気分だったので、現実逃避の一環としての行動である。
昼過ぎに隣の部屋で大捕り物が発生した。
響く怒声と打撃音。
放心しながらぼんやり聞き入っていると、突然隣の壁が突き破られ揉み合いながら転がって来た何者達かに踏み潰される。
『ぐえ!!!』
数名の体重が腹に乗り、俺は人生最大のダメージを負う。
「確保ーーー!!!」
「うおおおお!! 放せー!! 放しやがれーー!!」
「神妙にお縄につけ!!」
「馬鹿! 民間人を巻き込むな!!」
状況を理解出来ないながらも、俺を押し潰しているのがどうやら鎧を着用した騎士だと見当をつける。
何故そんな酷い事をするのか理解出来ないが、俺の腹の上で逮捕劇が繰り広げられているらしい。
悲鳴を挙げようにも全身が圧迫されていて声すら出せない。
何とか呼吸をしようともがくうちに、俺は…
失神したらしい。
俺は…
異世界まで来て何をしてるんだろう。
宇宙人倒すんだっけか?
何で?
え、何で?
ああ、神様のフリして奴隷商売してる屑野郎が俺を笑ったから…
何とか仕返しがしたかったんだ。
いや、殺したいな。
ムカついたから殺す。
そういう中学生みたいな妄想、誰だってするだろう?
俺の場合はさぁ
結構ガチ目のチートを手に入れちゃったから
妙な万能感があってさぁ。
敵は倒せそうな気もするし、女も抱けそうな気もしてたんだが。
ブスのババアにボコられながら童貞喪失するし、今も状況すら把握出来ないまま死にかけてるしな。
え? 俺死ぬの?
おいおいおい、ノエルとセックスする予定だったんだぞ。
アイツ絶対俺に惚れてたよな。
父親が付いて来なかったら絶対にヤレてたよな。
あーあ、十代の美少女だぜ?
身体も引き締まっててエロいし
性格も真面目で純真だしさあ。
せめて死ぬ前にノエルと一発やりたかったなあ。
なーんか、ボランティアとハーレムを同時進行させるって難しいんだよね。
ラノベとかじゃあ、みんなハーレムのついでに世界を救ってるんだけどな。
なーんで【心を読める】のにセックス出来ないのかね…
やっぱ顔なのかなぁ…
後、身長。
せめて人権身長欲しかったなあ。
俺、こんなに頑張ってるんだからさあ
誰か褒めてくれよ。
なあなあ聞いてくれよ。
スライムをさあ、色分けして活用したら結構効率的にゴミ処理出来るんだぜ。
ゲイリー親方が驚いてたよ、俺のおかげで作業効率100倍になったってさあ。
100倍は言い過ぎだろw スライムの【心中を読んだ】限りはMAX30倍がいいところだけどな。
女とはやれなかったんだが、グランバルドの国益には貢献してると思うんだよ…
おいおいグランバルド人よ、解体とかゴミ処理とかこんなに頑張ったんだからさあ。
姫とか貴族令嬢とか、そういうヒロインを支給してくれねえかな。
平凡な女じゃ駄目だぞw
ラノベのメインヒロインに出て来るような、最強で最高な女じゃなくちゃ駄目だなw
はははw 王道ツンデレ系お姫様とか支給してくれたら、グランバルドの為に死んでやるよw
あーあ。
いや、もうグランバルドには十分貢献したか…
そこらの突っ立ってるだけの騎士やら役人なんかよりよっぽど俺の方が頑張ってるつうの。
そう、グランバルドの為に奮戦したつもり。
俺なりに。
頑張って頑張って頑張って…
あーーーー。
何を頑張ったんだっけ。
いや、頑張ってるのはみんな同じか。
師匠もラルフ君も頑張ってるもんな。
あ、そうだ。
ラルフ君と一緒に納品に行かなきゃ。
俺先輩なんだからちゃんと朝起きなきゃだよな。
朝、朝、起きなきゃ。
働かなきゃ。
動かなきゃ。
何で?
理由なんて要らないよな。
仲間が一生懸命働いてるんだぜ。
みんな必死に生きてるんだぜ。
俺だって。
俺だって!
師匠の為に… 仲間の為に… 工房の為に… 前線都市の為に…
『グランバルドの為に!!』
飛び起きた。
配達? 出勤? 作業? 打ち合わせ?
記憶が混濁する。
何もわからないまま、周囲を眺めると清潔で豪華な屋内に俺は居た。
取り囲んでいるのは… 騎士? ああ、ラノベとかによくいるよな。
「おおお! 目を覚まされたぞ!」
「良かった… あのまま死なれたら切腹モノだった…」
「これこそ奇跡だ!!」
「いや! あれは不可効力ですよ!」
「大佐殿をお呼びしろ! 早く!」
「馬鹿者ッ! 軍法会議が終わるまでは一切余計な発言はするな!」
「大佐の名前を出すなって言われてるだろ!!」
「今、それどころじゃないでしょう!
ガタイのいい騎士たちが、俺を囲んでいて…
目覚めた俺の上で騒ぐ者、慌てて俺と意思疎通しようとする者。
ああ、俺。
コイツラに踏み潰されて、多分死にかけてたな。
で、コイツラは俺が息を吹き返して安心している、と。
『あの…』
「おお! チート書記!
いやあ無事で良かった。
本当に… 一時はどうなることかと…」
『ここは?』
「はい! ここは軍本部の病院区画です!」
軍本部…
ああ、思い出した。
前線都市は元々、対リザード軍団の大規模駐屯基地。
俺が不動産の手続きをした役所も、自治権を付与されるまでは軍施設だったって聞くしな。
スラムから距離はあるみたいだけど…
『俺、怪我をしてたんですか?』
「…はい。」
『その事情がよく呑み込めてないのですが。』
「…その。 …我々軍警察のミスで
…巻き込んでしまい …いや! この度は。
何と申し上げて良いのか…」
ああ、要するにあれだろ。
役人のミスで俺が怪我をして、奇跡的に息を吹き返したから
みんなホッとしていると。
『隣の人が逮捕されたんですね。』
「あ、はい。
まだ捜査中ですので詳しい事は申し上げる事は出来ないのですが
我々の任務自体は完了しております。」
ああ、あれだな。
俺がレザノフさんに差し出した賞金首か…
アイツより先に俺が死ぬところだったぜ。
「チート書記、別室で食事を用意しております。
ポーションは傷は治せても、栄養までは取れませんので。」
騎士をかき分けて俺の前に立ったのは、見覚えのある女性…
ああ、確かレザノフさんの秘書か。
商業ギルドは美人秘書が居て羨ましいなあ。
「それでは軍の皆様もそれで宜しいですね?」
「失礼致しました!
ではチート書記、埋め合わせは必ずや!
小官は南部第七騎士団副団長のボンネフェルト中佐と申します!」
騎士達は逃げる様に退出して行った。
ベッドは移動式になっているらしく、秘書さんがコロコロ押してくれる。
これ楽でいいなw
俺、金持ちになったらこの上で美少女を両脇に侍らせて暮らそう。
そんな事を考えてニヤニヤしていたら簡素な応接室のような場所の前に着いた。
「申し訳御座いません。 これ以上はベッドが。」
わかってるって。
試しに起き上ってみると、少しふらつくがちゃんと立てた。
ベッド生活は当面先送りだなw
そして。
ゆっくり扉を開くと、そこには商業ギルド支部長のレザノフ卿が立っていた。
『やはりレザノフ卿が助けて下さったのですね。
何から何まですみません。』
「チート書記、御無事で何よりです。
ただ助けたのは私ではなく貴方のパーティーメンバーですよ。
草原出身者の。」
『ゲレルさんですか?』
「ええ、彼女がポーション…
それも恐らくはとても高価なものを提供してくれました。」
ん?
ジェネリックエリクサーのことか?
ってか、そんなものを使わなければ助からない状況だったのかよ!?
実質殺されたようなものじゃないか!
「部隊の責任者には厳重な処罰が下る事でしょう。
民間人に… それも協力者に危害を加えてしまったので当然です。
この件、補償も降りますので御安心下さい。」
『責任者って大佐って人ですか?
さっきのボンネフェルト中佐の上司の?』
「はい。
責任者である大佐は事情があって顔は出せないのですが
軍規に照らし合わせ相応のペナルティが課されることでしょう。」
『あーー。
その事なんですけど。
レザノフ卿にはまた怒られるかも知れませんが…
補償とかそういうのは一切不要です。』
「チート書記は死にかけたのですよ?」
『こうして生きてます。
補償も…
もしゲレル達から薬代を請求されたら
その時は助けて下さい。』
「いえ…
その…
薬剤を譲渡して下さった草原の方は
《家賃と言えばわかる》
とだけ申されて立ち去ってしまったとのことで…」
『なるほどww
では後は我々身内の問題です。
多分、補償は不要となるでしょう。
私が眠っていたのは、どれくらいの時間ですか?』
「事件発生から丁度50時間です。」
OKOK。
丸2日も寝てたら、動ける程度には回復しているだろう。
俺は立ち上がり軽く身体を伸ばしてみる。
おお、流石はエリクサーww
ジェネリック版とは言え、最高の爽快感だな。
『何か手続きあれば応じます。
無ければ一旦宿に帰っていいですか?
チェックアウトやら荷物整理やらしなくちゃいけないのでw』
「その荷物の件なのですが!
大立ち回りで論文が破れてしまっておりまして…
今、商都に再印刷を依頼しますので。」
『はははw
ありがとうございます。
もう暗記しちゃったんですけどね。
ずっと読んでいたからw』
「暗記ですか!?」
『他に読むもの無かったんですよぉw
壁が壊れる直前まで朗読してたんですからw
《人は進歩の歩みを止めてはならない。
何故ならば、命はただ前進し飛躍し拡大する目的にのみ存在を許されるからである。
安住、安寧、安心、安楽、安逸、それらは滅亡と同義なのだから。
私はたった一人でも革新を続ける。
革命か死か。》
はは、序文の段階で頭がおかしいw
中身は結構いいこと書いてるんですけどね。
きっと相当の変わり者ですよ。
きっと仲良くはなれないと思いますが、彼に敬意は感じてます。』
「恐らく次の便で別の論文も届くと思います。
私もヴィルヘルム博士との面会の件、全力を尽くしておりますので。」
『はははw
論文だけ読んでてもいいかも知れませんねw
実際にあったらきっと嫌な奴ですよ。
絶対に喧嘩になっちゃいそうですw』
そっか、論文破れちゃったか…
少し寂しいが、まあいいや。
『じゃあ、私はこれで。』
「チート書記!
あと一つ!」
『はい?』
「眼鏡が完全に砕けてしまって!
いや、以前から気になっていたのですがかなり珍しいデザインでしたよね?
特注品ですか?
製作アトリエの名前を教えて頂ければ、発注しておきますが!」
あれ?
眼鏡?
いや、見えてるけど…。
…あ。
ジェネリック・エリクサーって視力も治してくれるのか?
改めてチートだなw
あ、見えるわ。
眼鏡無しでも、全部見える。
ファンタジーかよwwww
『大佐さんに伝えて下さい。
騒ぐ気ありませんし、恨みもしてませんので。
真面目にやっても上手く行かない時ってありますよねw
今回の件は、《無かった》という事にしておきましょう!
それじゃあレザノフ卿、また日を改めて!』
レザノフ卿の秘書さんから持ち物一式を受け取ると、俺は人力車を呼び止めてスラムに戻った。
裸眼効果かも知れないが…
前線都市って結構いい街だよな。
なんかラノベとかに出て来る、《少し治安の悪い城塞都市》みたいだ。
不満ばっかり言ってゴメンな。
俺、この街が結構好きだ。
今の生活も気に入ってる。
大丈夫、明日は全部上手く行く。
何か処理場に行く気力も湧かないし、誰とも顔を合わす気にもなれないので部屋に籠って何度もヴィルヘルム博士の論文を通読していた。
そんなに真面目に読む気はなかったので適当に何度も流し読む。
正直、同じ文章ばかり読んだ所で意味は無いのだが、今日は誰とも顔を合わせたくない気分だったので、現実逃避の一環としての行動である。
昼過ぎに隣の部屋で大捕り物が発生した。
響く怒声と打撃音。
放心しながらぼんやり聞き入っていると、突然隣の壁が突き破られ揉み合いながら転がって来た何者達かに踏み潰される。
『ぐえ!!!』
数名の体重が腹に乗り、俺は人生最大のダメージを負う。
「確保ーーー!!!」
「うおおおお!! 放せー!! 放しやがれーー!!」
「神妙にお縄につけ!!」
「馬鹿! 民間人を巻き込むな!!」
状況を理解出来ないながらも、俺を押し潰しているのがどうやら鎧を着用した騎士だと見当をつける。
何故そんな酷い事をするのか理解出来ないが、俺の腹の上で逮捕劇が繰り広げられているらしい。
悲鳴を挙げようにも全身が圧迫されていて声すら出せない。
何とか呼吸をしようともがくうちに、俺は…
失神したらしい。
俺は…
異世界まで来て何をしてるんだろう。
宇宙人倒すんだっけか?
何で?
え、何で?
ああ、神様のフリして奴隷商売してる屑野郎が俺を笑ったから…
何とか仕返しがしたかったんだ。
いや、殺したいな。
ムカついたから殺す。
そういう中学生みたいな妄想、誰だってするだろう?
俺の場合はさぁ
結構ガチ目のチートを手に入れちゃったから
妙な万能感があってさぁ。
敵は倒せそうな気もするし、女も抱けそうな気もしてたんだが。
ブスのババアにボコられながら童貞喪失するし、今も状況すら把握出来ないまま死にかけてるしな。
え? 俺死ぬの?
おいおいおい、ノエルとセックスする予定だったんだぞ。
アイツ絶対俺に惚れてたよな。
父親が付いて来なかったら絶対にヤレてたよな。
あーあ、十代の美少女だぜ?
身体も引き締まっててエロいし
性格も真面目で純真だしさあ。
せめて死ぬ前にノエルと一発やりたかったなあ。
なーんか、ボランティアとハーレムを同時進行させるって難しいんだよね。
ラノベとかじゃあ、みんなハーレムのついでに世界を救ってるんだけどな。
なーんで【心を読める】のにセックス出来ないのかね…
やっぱ顔なのかなぁ…
後、身長。
せめて人権身長欲しかったなあ。
俺、こんなに頑張ってるんだからさあ
誰か褒めてくれよ。
なあなあ聞いてくれよ。
スライムをさあ、色分けして活用したら結構効率的にゴミ処理出来るんだぜ。
ゲイリー親方が驚いてたよ、俺のおかげで作業効率100倍になったってさあ。
100倍は言い過ぎだろw スライムの【心中を読んだ】限りはMAX30倍がいいところだけどな。
女とはやれなかったんだが、グランバルドの国益には貢献してると思うんだよ…
おいおいグランバルド人よ、解体とかゴミ処理とかこんなに頑張ったんだからさあ。
姫とか貴族令嬢とか、そういうヒロインを支給してくれねえかな。
平凡な女じゃ駄目だぞw
ラノベのメインヒロインに出て来るような、最強で最高な女じゃなくちゃ駄目だなw
はははw 王道ツンデレ系お姫様とか支給してくれたら、グランバルドの為に死んでやるよw
あーあ。
いや、もうグランバルドには十分貢献したか…
そこらの突っ立ってるだけの騎士やら役人なんかよりよっぽど俺の方が頑張ってるつうの。
そう、グランバルドの為に奮戦したつもり。
俺なりに。
頑張って頑張って頑張って…
あーーーー。
何を頑張ったんだっけ。
いや、頑張ってるのはみんな同じか。
師匠もラルフ君も頑張ってるもんな。
あ、そうだ。
ラルフ君と一緒に納品に行かなきゃ。
俺先輩なんだからちゃんと朝起きなきゃだよな。
朝、朝、起きなきゃ。
働かなきゃ。
動かなきゃ。
何で?
理由なんて要らないよな。
仲間が一生懸命働いてるんだぜ。
みんな必死に生きてるんだぜ。
俺だって。
俺だって!
師匠の為に… 仲間の為に… 工房の為に… 前線都市の為に…
『グランバルドの為に!!』
飛び起きた。
配達? 出勤? 作業? 打ち合わせ?
記憶が混濁する。
何もわからないまま、周囲を眺めると清潔で豪華な屋内に俺は居た。
取り囲んでいるのは… 騎士? ああ、ラノベとかによくいるよな。
「おおお! 目を覚まされたぞ!」
「良かった… あのまま死なれたら切腹モノだった…」
「これこそ奇跡だ!!」
「いや! あれは不可効力ですよ!」
「大佐殿をお呼びしろ! 早く!」
「馬鹿者ッ! 軍法会議が終わるまでは一切余計な発言はするな!」
「大佐の名前を出すなって言われてるだろ!!」
「今、それどころじゃないでしょう!
ガタイのいい騎士たちが、俺を囲んでいて…
目覚めた俺の上で騒ぐ者、慌てて俺と意思疎通しようとする者。
ああ、俺。
コイツラに踏み潰されて、多分死にかけてたな。
で、コイツラは俺が息を吹き返して安心している、と。
『あの…』
「おお! チート書記!
いやあ無事で良かった。
本当に… 一時はどうなることかと…」
『ここは?』
「はい! ここは軍本部の病院区画です!」
軍本部…
ああ、思い出した。
前線都市は元々、対リザード軍団の大規模駐屯基地。
俺が不動産の手続きをした役所も、自治権を付与されるまでは軍施設だったって聞くしな。
スラムから距離はあるみたいだけど…
『俺、怪我をしてたんですか?』
「…はい。」
『その事情がよく呑み込めてないのですが。』
「…その。 …我々軍警察のミスで
…巻き込んでしまい …いや! この度は。
何と申し上げて良いのか…」
ああ、要するにあれだろ。
役人のミスで俺が怪我をして、奇跡的に息を吹き返したから
みんなホッとしていると。
『隣の人が逮捕されたんですね。』
「あ、はい。
まだ捜査中ですので詳しい事は申し上げる事は出来ないのですが
我々の任務自体は完了しております。」
ああ、あれだな。
俺がレザノフさんに差し出した賞金首か…
アイツより先に俺が死ぬところだったぜ。
「チート書記、別室で食事を用意しております。
ポーションは傷は治せても、栄養までは取れませんので。」
騎士をかき分けて俺の前に立ったのは、見覚えのある女性…
ああ、確かレザノフさんの秘書か。
商業ギルドは美人秘書が居て羨ましいなあ。
「それでは軍の皆様もそれで宜しいですね?」
「失礼致しました!
ではチート書記、埋め合わせは必ずや!
小官は南部第七騎士団副団長のボンネフェルト中佐と申します!」
騎士達は逃げる様に退出して行った。
ベッドは移動式になっているらしく、秘書さんがコロコロ押してくれる。
これ楽でいいなw
俺、金持ちになったらこの上で美少女を両脇に侍らせて暮らそう。
そんな事を考えてニヤニヤしていたら簡素な応接室のような場所の前に着いた。
「申し訳御座いません。 これ以上はベッドが。」
わかってるって。
試しに起き上ってみると、少しふらつくがちゃんと立てた。
ベッド生活は当面先送りだなw
そして。
ゆっくり扉を開くと、そこには商業ギルド支部長のレザノフ卿が立っていた。
『やはりレザノフ卿が助けて下さったのですね。
何から何まですみません。』
「チート書記、御無事で何よりです。
ただ助けたのは私ではなく貴方のパーティーメンバーですよ。
草原出身者の。」
『ゲレルさんですか?』
「ええ、彼女がポーション…
それも恐らくはとても高価なものを提供してくれました。」
ん?
ジェネリックエリクサーのことか?
ってか、そんなものを使わなければ助からない状況だったのかよ!?
実質殺されたようなものじゃないか!
「部隊の責任者には厳重な処罰が下る事でしょう。
民間人に… それも協力者に危害を加えてしまったので当然です。
この件、補償も降りますので御安心下さい。」
『責任者って大佐って人ですか?
さっきのボンネフェルト中佐の上司の?』
「はい。
責任者である大佐は事情があって顔は出せないのですが
軍規に照らし合わせ相応のペナルティが課されることでしょう。」
『あーー。
その事なんですけど。
レザノフ卿にはまた怒られるかも知れませんが…
補償とかそういうのは一切不要です。』
「チート書記は死にかけたのですよ?」
『こうして生きてます。
補償も…
もしゲレル達から薬代を請求されたら
その時は助けて下さい。』
「いえ…
その…
薬剤を譲渡して下さった草原の方は
《家賃と言えばわかる》
とだけ申されて立ち去ってしまったとのことで…」
『なるほどww
では後は我々身内の問題です。
多分、補償は不要となるでしょう。
私が眠っていたのは、どれくらいの時間ですか?』
「事件発生から丁度50時間です。」
OKOK。
丸2日も寝てたら、動ける程度には回復しているだろう。
俺は立ち上がり軽く身体を伸ばしてみる。
おお、流石はエリクサーww
ジェネリック版とは言え、最高の爽快感だな。
『何か手続きあれば応じます。
無ければ一旦宿に帰っていいですか?
チェックアウトやら荷物整理やらしなくちゃいけないのでw』
「その荷物の件なのですが!
大立ち回りで論文が破れてしまっておりまして…
今、商都に再印刷を依頼しますので。」
『はははw
ありがとうございます。
もう暗記しちゃったんですけどね。
ずっと読んでいたからw』
「暗記ですか!?」
『他に読むもの無かったんですよぉw
壁が壊れる直前まで朗読してたんですからw
《人は進歩の歩みを止めてはならない。
何故ならば、命はただ前進し飛躍し拡大する目的にのみ存在を許されるからである。
安住、安寧、安心、安楽、安逸、それらは滅亡と同義なのだから。
私はたった一人でも革新を続ける。
革命か死か。》
はは、序文の段階で頭がおかしいw
中身は結構いいこと書いてるんですけどね。
きっと相当の変わり者ですよ。
きっと仲良くはなれないと思いますが、彼に敬意は感じてます。』
「恐らく次の便で別の論文も届くと思います。
私もヴィルヘルム博士との面会の件、全力を尽くしておりますので。」
『はははw
論文だけ読んでてもいいかも知れませんねw
実際にあったらきっと嫌な奴ですよ。
絶対に喧嘩になっちゃいそうですw』
そっか、論文破れちゃったか…
少し寂しいが、まあいいや。
『じゃあ、私はこれで。』
「チート書記!
あと一つ!」
『はい?』
「眼鏡が完全に砕けてしまって!
いや、以前から気になっていたのですがかなり珍しいデザインでしたよね?
特注品ですか?
製作アトリエの名前を教えて頂ければ、発注しておきますが!」
あれ?
眼鏡?
いや、見えてるけど…。
…あ。
ジェネリック・エリクサーって視力も治してくれるのか?
改めてチートだなw
あ、見えるわ。
眼鏡無しでも、全部見える。
ファンタジーかよwwww
『大佐さんに伝えて下さい。
騒ぐ気ありませんし、恨みもしてませんので。
真面目にやっても上手く行かない時ってありますよねw
今回の件は、《無かった》という事にしておきましょう!
それじゃあレザノフ卿、また日を改めて!』
レザノフ卿の秘書さんから持ち物一式を受け取ると、俺は人力車を呼び止めてスラムに戻った。
裸眼効果かも知れないが…
前線都市って結構いい街だよな。
なんかラノベとかに出て来る、《少し治安の悪い城塞都市》みたいだ。
不満ばっかり言ってゴメンな。
俺、この街が結構好きだ。
今の生活も気に入ってる。
大丈夫、明日は全部上手く行く。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~
霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。
ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。
これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる