上 下
30 / 63

チートで感染症の経験をフィードバックする。

しおりを挟む
俺にとってのダンジョン攻略とは、ダンジョン発見に伴って発生するであろう街の損害を軽減する事だ。
具体的には、人畜に対する疫病の流行。
これを未然に防止したい。
何故こんな善行染みた振る舞いが出来るのか?
答えは簡単。
俺がグランバルド人ではないからだ。
正直、ゲーム感覚も混ざっている。
(余談ながら、俺が転移した時の地球がコ□ナ禍にあったので、その背景も俺の行動に影響を与えている可能性も高い。)

【心を読む能力】のおかげで生活に極めてゆとりがあるのも大きい。
今、俺達4名の分配金は月50万ウェンにまで上がっている。
これは上級熟練職工(大手工房責任者クラス)の月給並みの金額。
勿論、工房の貯金も積み上がっており、最近は嵩張らない高級魔石や希少鉱石を換金しないケースが増えてきている。

生活にゆとりがあるからボランティア染みた活動を出来るし、そもそも心のどこかにゲーム感覚があるから稼いだウェンも《ゲーム攻略》に惜しげもなくつぎ込めるのだろう。


さて、防疫剤という薬剤は高額で、人間1人を消毒する分量で6万ウェン強するらしい。
(これを常備出来るのだから帝都は余程裕福で、更には機能的な仕組みで運営されているのだろう。)
人や家畜を守る防疫剤を自作しようにも、討伐難易度が極めて高いワイバーンやライガーの魔石が必要らしいので現実性はない。
各ギルドに問い合わせてみたが、当然この街に防疫剤の備蓄は無い。

だが、俺には何となく成算があった。
ゴードンさんの店で購入させて貰った書籍。
【帝国本草学辞典】
【魔石取り扱いマニュアル】
この2冊に記載されていた防疫剤レシピには、ワイバーンもライガーも記載されておらず、グリーントードの毒袋やホーンラビットの角などのポピュラーな魔物の部材がレシピとして並んでいたからである。
《ジャイアントパピヨンの鱗粉》以外は簡単に手に入るものばかりである。

同じく、ゴードン夫人から借りている
【ロブスキー将軍の籠城指南】
【飢餓と人間】
には籠城戦にありがちな疫病発生等への対処方法が克明に記載されていた。
この知識だけでも、何かの役に立つのではないだろうか?

俺はゴードン夫人を尋ねて、トード毒袋・ホーンラビットの角を用いた防疫剤レシピについて尋ねる。
答えは想像していた通り、聞いたこともないとのこと。
俺は【帝国本草学辞典】の当該ページを見せるが、ゴードン夫人でも殆ど分からないらしい。
「考古学者か言語学者なら…  読めるかも知れません」

ジャイアントパピヨンの鱗粉は染料に使うケースがある、と助言して貰い、急ぎ街の反対側の染物工房に人力車を飛ばし、懇願して鱗粉を一瓶購入させて貰うとゴードン古道具店にトンボ返りする。

『私の指定するレシピで、防疫剤製作を試して貰えませんか?』

「調合自体は簡単だけど。
このレシピの使用権は…」

『勿論、自由に使って貰っても構いませんし
公開して貰っても構いません。』

「御立派な心掛けですね。
でも、世に広めたいならもっと効率の良い方法がありますよ。」

『…効率ですか?』

「論文にして帝都のアカデミアに提出するのです。
学術的な裏付けが取れれば…
チートさんが思っている以上に早く普及します。」

『ご教授ありがとうございます。
ただ、私は論文など書いた事が…
あ、奥様にお願いする事は出来ませんか?』

「ごめんね。
私はもう日の当たる所に出られない身分なの。」


ゴードン夫人が打ち明けてくれたことだが。
彼女は由緒正しい帝国貴族で、本来なら侯爵家に嫁ぐ予定だったらしい。
だが父の領地巡察に同行した際、魔物の群れに襲われ。
当時旅商人をしていた若き日のゴードン氏に救われ、恋に落ちて、そして駆け落ちしたとのこと。
一族の追手から逃れに逃れて、帝国の最南端である前線都市に辿り着き、夫婦で隠棲しているそうだ。
人に歴史ありである。

『社会に広めるには論文でなくては駄目ですか?
ポスターを貼ったり、パンフレットを配ったり…』

「現実的ではありません。
行政や学界を動かしたいのなら、彼らのフォーマットに従いませんと。」

ですよね。
参ったな、ゴードン夫人に断られたら消去法的にベスおばに頭を下げざるを得ないではないか。
レザノフ卿はどうだろうか?
いや、これ以上彼に借りを作ってしまうと、職工ギルドと商業ギルド間のパワーバランスが…



「はい、完成。」

『え!? もう出来たのですか?』

「レシピ通りに調合したというだけで、これが防疫剤である保証はないわ。
でもまあ、簡易分析上は防疫剤と同じ波長が確認出来るわね。」


ゴードン夫人はそう言うと業務サイズ瓶(目測2リットル容量)を俺に差し出してくる。


『あ、あの! ありがとうございます!
代金は幾らになりますか!?』

「代金と言われてもねえ。
チートさんが今取り組まれておられるのは公務でしょう?」

『いえ! 違います。
公務と言っても誰かに命じられた訳ではなく。
私が勝手に予防体制の必要性を感じているだけですので。』

「…それは貴いことで。」

『では職工ギルド内で必要性が認められた場合、ゴードン古道具店に予算内から発注させて頂いて宜しいでしょうか?』

「…あらあら。
そうね、出来るだけ協力致しますわ。
そうだ、一つ対価を頂こうかしら。」

『ありがとうございます!
幾ら支払えば良いでしょうか?』

「その魔石取り扱いマニュアル。
エーテルの項を読み上げて貰えないかしら?」

俺はゴードン夫人に《エーテル》の項を解説した。
聞きなれない魔石の記述に関しては【魔石取り扱いマニュアル】で補足する。
ゴードン夫人は手早くメモを取り終わると、俺と会話しながら調合を始めた。

『あの… こんな事で宜しいのですか?』

「あら…
チートさんも本当は《こんな事》の効力を良く解っておられるのでしょう?
だったらもっと堂々と振舞えば良いのですよ。」


そんな話をしているうちにフラスコの液隊が青く染まって行く。
見覚えのある色だが…

「エーテルの効能はご存じ?」

『えっと、確かスキル絡みですよね?』


「…スキルや魔法を使えば精神が疲労してしまうの。
昔の人は魔法を使う為の魂の総量という意味で、《MP/マジックポイント》と呼んだのですけどね。
この精神披露を急激に回復させる為の薬がエーテルよ。
チートさんは見覚えがあるようだけど。」


『ええ。
以前頭痛が酷くなった時に、これと似たような薬品を頂いて…
回復したことがあります。』

「…そう。
勉強熱心は結構ですけど、【読み】過ぎには注意なさってね。」

『ありがとうございます。』

「この2本は差し上げるわ。
お部屋に常備なさる事を勧めます。
後、防疫剤絡みで誰かにお願いをする時は、そのエーテルを見せて交渉してもいいかも知れませんね。」

恐らく、ゴードン夫人は俺に関して色々察しており、それを踏まえての発言であろうが…
彼女に対しては最近【心を読んで】ない。
それは礼儀からではなく、彼女が非常に鋭敏で聡明な女性だからだ。
うかつにスキルを発動して会話してしまうと今以上に不信感を持たれてしまう危険性がある。
リスクは可能な限り負わない様にしたい。
ただでさえ土地勘の無いグランバルドでの生活である。
ゴードン夫人のような賢人とは極力上手くやって来たい。

『御言葉に甘えます。
ありがとうございました。』

俺はエーテルを感謝したような表情で受け取る
そして、ゴードン夫人が「冒険者ギルドの鑑定装置で薬剤の効能防疫薬を調べて貰える」と補足してくれたので、人力車を飛ばして冒険者ギルドを訪問。
案の定、受付嬢に驚かれてしまう。

「チートさん! こんなに大量の防疫剤をどこから仕入れたんですか!?」

このセリフ、ラノベで散々読んで飽きているのでスルー。

『知り合いからです。
これって何人分くらいになりますか?』

「はっきりとしたことは言えませんが。
50人分くらいにはなりますね。」

1人分を6万で計算すると、このジェネリック防疫剤には300万ウェンの価値がある。
ということだ。

『…50人か。
冒険者の方って、一日何人くらい街に帰って来られますか?』

「野営される方が多いのでハッキリとは回答出来ませんが…
概ね200人以内です。」

ふーむ。
じゃあ、業務用サイズジェネリック防疫剤が4本、余裕をもって5本あれば一日は凌げるのだな。
つまり定価で消毒する場合、1日辺り1200万~1500万ウェンの経費が掛かる訳か。
この街の財政状況でそれが出来るとは思えない。
自治都市なので補助金も申請出来ないしな。


『あの…
仮に私が200人分持参した場合、消毒に協力して頂けますでしょうか?
後、手洗いの徹底も。』


「ちょっと待って下さい。
これだけの量の防疫剤を購入出来る訳ないですよ!」


別に売りつけるつもりはなかったのだが
そう解釈されるのも致し方ないかも知れない。
受付嬢が大声を出したのを聞きつけてドレークギルド長がやって来る。
俺は改めて事情を説明し、新ダンジョンブームが落ち着くまでの間、消毒を続けて貰えないかを要請。
既存のレシピと異なりそこまで高額ではない事も伝える。
ドレークは「一定分量あるのなら消毒に使用。 無ければ売却して対策資金にしてはどうか」と助言してくれた。
合理的な男だ。
素晴らしい。
ついでにドレークに過去の疫病発生事例を尋ねると、懇切に教えてくれる。
ギルド職員の中から高齢で賢明な者を呼び出してくれて、聞き取り調査に協力するように指示してくれた。
年齢の所為もあり、やや会話が冗長だったので要点を纏める。


・新ダンジョン発見時は、ほぼ何らかの形で疫病が流行する。
・疫病の深刻度は所得と反比例する。
・大抵、正門・東門からパンデミックが始まる。
・東門内外一帯は貧民街と畜産業者の密集地帯なので、毎回罹患率が極めて高い。
・疫病時はペニシリンが中央から配給されるが、ここに届くのは一通り死に終わった後。
・人間が疫病に罹患しない場合、ほぼ確実に家畜に罹患し養鶏業者・養魚業者に大打撃。
・稀に人間と家畜の両方に疫病が流行する悲惨なパターンもある。


俺はドレークと老職員に礼を述べると、一旦工房に帰る。
1階ではカインさんが知り得たダンジョン事情を説明中だった。

「するとカインさん。
今回のダンジョンからはガーリックスパイダーとポイズンスネークが大量に溢れて来ている訳ですね?」

「はいバラン殿。
現場に到着した冒険者達はガーリックスパイダーの捕獲に夢中になってます。
何組かのパーティーは野営する予定のようです。」

ドランさんの話によると、ニンニク相場は下がるだろう。
スパイダー系の魔石も当然値崩れするな。


「他に確認された魔物はありますか?」

「ガーリックスパイダーの匂いに引き寄せられたのか、ウルフ系の魔物が寄って来ております。
ただこれに関しては散発的なので、その場で討伐されています。

それと…
まだ未確認ですが、ダンジョンの奥に吸血コウモリが大量生息しているのではないか。
と推測されます。
私にはわからないのですが、ゲドやベテラン冒険者達がそう言っているので。」


カインさんの話を聞きながら【魔石取り扱いマニュアル】で《吸血コウモリ》を調べる。
これも伝染病の媒体って書いてる。
まあ地球でもコウモリは病原菌の塊とされているしな。
お、コウモリの魔石からもエーテルが作れるのか、近いうちにゴードン夫人に報告しよう。
などと考えているとカインさんがこちらを覗き込んで来る。

「チート殿。
所属の件、感謝します。
宿まで提供して下さるとの事で、何と礼を述べれば良いのか…」

『いえいえ。
ゲドさん達にはかなり儲けさせて頂いたので。
後、ダンジョン問題は私一人で解決できそうもないので。』

「…お一人で疫病を防ごうとされておられるとか。」

『あ、いえ。
皆さんに手伝って貰ってますので。』

「私に… 何か手伝えることはありますか?」

『ありがとうございます。
あー。 それじゃあ。
ジャイアントパピヨンの鱗粉さえあれば、防疫剤が量産出来るんですよ。
この街で売ってませんかね?』

「ジャイアントパピヨンさえあれば作れるのですか?」

『あ、いえ。
魔物の部材としては、グリーントードの毒袋・粉砕したホーンラビットの角。
後は調合に良く使われている中和剤や調整剤ですね。
ホンラビの角はここに余っているので師匠の許可を取って自分で製粉出来ますしね。』

「では冒険者ギルドにご一緒しましょう。
在庫があれば鱗粉は買えますよ。
足りなければ私が採集してきましょう。」

『あ、ありがとうございます!』


カインさんが討伐部位の売却に行くついでに俺を誘ってくれる。
ジャイアントパピヨンの鱗粉は5瓶だけ在庫があったので購入させて貰う。
頭の中で計算してみるとジェネリック防疫剤を20日分は作れる計算だ。
結構もつな。
俺はドレークギルド長に手持ちの防疫剤を渡すと東門での消毒をお願いして工房に戻った。


『取引をしたい。』

「条件次第ですわね。」

『俺の指定する配合で防疫剤を作って欲しい。』

「報酬は?」

『レシピを提供する。
皇帝時代以前のロストテクノロジーだ。
論文に起こして貰って構わない。』

「ワタクシにとっては悪い話ではないですわね。」

『おお!  じゃあ!』

「それで?
貴方にはどのような得がありますの?
伊勢海地人君。」

『…話が進む。  
多分。』

「あらぁ。
それは素晴らしいですわね。
進歩するって良いことよ。
ワタクシ、人間はただ進歩の為に存在を許されていると思っている位ですの。
レシピ、そこに書いておいて頂戴。
この作業が終わり次第、手を付けてあげる。」

『感謝します。』

「…感謝は無事に取引が終わってからでいいわ。」


防疫剤制作に目途の付いた俺は工房を出ると人力車を呼び止め東門を出てしばらく行った所の木柵まで向かって貰う。
そう、城壁で囲まれたこの街の東門の外にもバラック地帯や諸産業の工房が広がっており、それらは申し訳程度の木柵で囲まれていた。
養鶏場・ゴミ処理場・皮革工房、いずれも城内での運用が禁止されている産業なので城壁外で運用されている。
生活に必要不可欠なそれら諸産業と従事者が差別的な扱いを受けている事は、皆の【心を読まず】とも、街の人々の態度を見ていれば嫌でも想像出来た。

俺はゴミ処理場に向かう。
ここの職員とは何度も話した事があったが、現場は初めて見る。


『マックさん! いつもお世話になっています!』

「おお!  バラン君のところの!」


俺はゴミ処理場の入り口に居た初老の男に挨拶をした。
マック氏というのは、ゴミ回収員でいつも封箱(解体魔物の臓物などを捨てる箱)を回収しに来てくれている人物だ。
雑談するようになったのは最近だが、異世界に来て間もない頃に出会った人物なので、俺は密かな愛着を持っている。

俺はマック氏に親方のゲイリーを紹介して貰い、差し入れとして干し肉セットを渡した。
当初ゲイリー親方は俺が来たことを不審がりかなり警戒していたが、『職工ギルドからの指令で防疫剤を設置しようと動いてます』と説明すると納得して心を開いてくれた。
指令と言っても俺が俺に勝手に出しているだけなのだが、嘘は言っていない。

「チート君と言ったか…
それ高いんだろ?
悪いけどウチはそんな余裕ないよ。」

『いえいえ!
こちらで提供しますので!
お代は結構です。』

「え!?
ただでくれるの!?
…いや、ウチはありがたいけど。
後からやっぱり有料とか言われても、ウチは本当にお金ないからね。」


何度も確認され、その度に俺も無料であることを繰り返す。
ダンジョンが発見されると連動して疫病が流行すること自体はゲイリー親方も経験則で知っていた。
スラムで死人が大勢出る事も、誰も助けてくれないことも、それどころか自分達に落ち度があるかのような目で見られる事も、よく知っていた。

「いや…
アンタには感謝しているよ。
要はこの薬を冒険者に使わせればいいんだろう?」


『はい、先に流水で手と顔を洗ってから全身に散布して頂けると非常に助かります。
後、これがブーツの泥を落とす為のマットなんですけど。
柵門の前に置くのを手伝って頂けませんか?』


「…その、こんなのが何の役に?」


『ダンジョンの毒が泥と一緒に街に入って、それが病気の元になっているんです。
帰還した冒険者は必ず親方と話すと聞きました。
ゲイリー親方から、消毒剤使用とブーツの泥落としの徹底をお願いして欲しいのです。』


「話すと言ってもアイツらゴミを捨てに来るだけだよ?」


『ついででいいのでお願いして下さい。
このやり方をしている帝都では、もう数十年もダンジョン原因の疫病が発生していません。』

「そりゃあ、帝都の人は金持ちだから。」


『これはその帝都で使われているのと同じ薬です。
冒険者ギルドさんからも効果保証は頂いてます。』


「…わかった。
君の言うとおりにするよ。」

『感謝します。』

「色々疑う様なこと言ってしまったが気を悪くしないでくれよ。
職工ギルドが何かしてくれたことなかったからさ…。」

『申し訳ありません。
以後は改めます。』


「いやいや、君はよくやっていると思うよ。
若いのに街の事をちゃんと考えてくれている。」


ゲイリー親方とも少し打ち解けたので、ゴミ処理場を見学させて貰う。
入り口近くで話していたので、そこまで気になってなかったのだが、処理作業場の異臭は凄かった。
街中から集められた大量の封箱が巨大な穴に放り込まれて行く。

「臭いだろう。
俺達に気を遣わなくていいから、鼻を摘まんでいなさい。」

『いえ、俺も解体屋ですし。』

「…そうか。

まあ説明するまでも無い事だが
この穴の底にスライムが居る。」


スライム!?
あのラノベとかゲームで絶対に出て来るスライム!?
おお、オマエこんな所にいたのか…

「ん? どうかしたか?
それでスライムだが、コイツラがゴミを堆肥にしてくれる訳だな。
俺達はその堆肥を近隣の農家に売って利益を出している。
まあ、最下層の隙間産業だ。」

『いえ、最下層だなんて…』

「いいんだよ、自分でわかってるんだ。
息子も俺に反発して出て行ったしな。
ここの職員は大抵そうだ。
自分の子供に反発されて…
子供も近所で苛められて…
でも、子供に少しでもマシな生活をさせるには
こんな仕事にでもしがみ付かざるを得ない。
近所の連中から臭いっていつも言われてるよ。
文字通りの鼻つまみ者だな。」

地球に居た時。
住んでる団地の清掃員と父の新人(ニート)が喧嘩をしたことがあった。
「生活保護と清掃員のどっちが底辺か」
という口論が発展したらしい。
俺はふと、このことを思い出した。
父さん、今ならはっきり言えるよ。
働いている人間の方が遥かに偉い!
そんなの決まってるじゃないか!


『外までは臭いは漏れてませんでした。』


「人間には染みつくのさ。
仕事がキツいのはまだ我慢できるんだがな。
臭いが取れないのは…  色々凹むよ。
俺は我慢出来ても、家族がね…」


『そうですか…』


「帝都の方じゃ設備がしっかりしていて、職場で臭いを消してから帰れるらしいんだけどね。
ははは、天下の帝都とはよく言ったもんだ。」


そんな会話をしてから、処理場の皆に日頃の礼を述べて俺は工房に戻った。
俺が転移した頃の地球はコ□ナ禍で滅茶苦茶だったが、まさかここで俺が活かせるとは思わなかった。
いや、外から来た人間に使命があるとすればこういう事だろう。


翌朝、ベスおばが防疫剤を持って来たので一応礼を言っておく。
カインさんと入れ違いに帰って来たゲドさんに、消毒の徹底を呼び掛けるようにお願いしてから冒険者ギルドに出頭。
正門にも防疫剤を設置できないか交渉する。


俺はバランにねだってネズミ対策に専念することを願う。
忙しい中で恐縮だったが、休暇ということにして貰った。
手元の古書には《防疫の為のネズミ退治》の記述か頻出していたからである。

自室でその件を調べていると、ノエルが怒鳴り込んで来た。
この子には本当に申し訳ないことをしたと思っている。



----------------------------------------------------



【今回の進展】

・ジェネリック防疫剤製作成功
・ジェネリック防疫剤の冒険者ギルド登録に成功
・東門(搦手)にジェネリック防疫剤と泥落としマットを設置。
・エーテル2本入手
・ゴミ処理場見学
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勇者に幼馴染で婚約者の彼女を寝取られたら、勇者のパーティーが仲間になった。~ただの村人だった青年は、魔術師、聖女、剣聖を仲間にして旅に出る~

霜月雹花
ファンタジー
田舎で住む少年ロイドには、幼馴染で婚約者のルネが居た。しかし、いつもの様に農作業をしていると、ルネから呼び出しを受けて付いて行くとルネの両親と勇者が居て、ルネは勇者と一緒になると告げられた。村人達もルネが勇者と一緒になれば村が有名になると思い上がり、ロイドを村から追い出した。。  ロイドはそんなルネや村人達の行動に心が折れ、村から近い湖で一人泣いていると、勇者の仲間である3人の女性がロイドの所へとやって来て、ロイドに向かって「一緒に旅に出ないか」と持ち掛けられた。  これは、勇者に幼馴染で婚約者を寝取られた少年が、勇者の仲間から誘われ、時に人助けをしたり、時に冒険をする。そんなお話である

処理中です...