中2女子が夏休みに、異世界を救うことになりました!〜RPGにようこそ〜

さこゼロ

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第3章(続き)

斬岩刀を持つ漢 8

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「もし私が取り憑かれたら、私の両足を砕いて動けなくしてから、この洞窟を封鎖して」

「バカなこと言うな!全員で逃げるんだよ」

おキクの不必要な自己犠牲に、ターニャが語気を荒げて反論する。

しかしおキクは、優しく微笑み返した。

「私、不死身だから心配しないで、ターニャさん」

「こんな時にジョーダン言うな!お前らからも何とか言え!」

ターニャは腹立たしげに、アイとフランに視線を向ける。そのときターニャの視界に映った二人は、何とも言えない不思議な表情をしていた。

「ジョーダンじゃ…ないのか?」

何かを感じとったターニャは、思わずゴクリと息を飲んだ。

「分かった、やるよ」

おキクの瞳を真っ直ぐに見つめて、アイがゆっくりと頷く。

「ありがとう」

アイが頷くのを見て、おキクは「ホッ」と小さく息を吐いた。

「でも、私もここに残る。やり直す時は一緒だよ」

「…え?」

続けて発したアイの言葉に、おキクは予想外に面食らった。いや、ちょっと考えれば、アイならこう言うと分かった筈である。

「ごめん、フラン。また一からだけど、それでもまた付き合ってくれる?」

アイはフランに顔を向けると、申し訳なさそうに笑顔を作った。

「ええ、もちろん。おふたりである事には間違いないのですから、何度でも」

フランの瞳に寂しい色が宿る。それでもフランは精一杯に微笑んだ。

「おおおおおーー!」

その時へたり込んでいたゾンボルが、腹の底から雄叫びをあげた。

同時に足の修復が終わった死霊鎧が、ガシャリと音を立てて立ち上がる。

「C級にここまで言わせて、某は何をやっているでゴザルか!」

ゾンボルは勢いよく、ガッと立ち上がった。それから「斬岩刀」を振りかぶり、真っ直ぐ死霊鎧に斬りかかる。

「ダメ、ゾンボルさん!私たちは本当に大丈夫だから!」

おキクはゾンボルの背中に手を伸ばしながら、必死に叫んだ。しかしすんでのところで空を切る。

ゾンボルの攻撃は、死霊鎧の左肩に小さな傷を付けただけで、呆気なく弾き返された。弾かれた拍子にバランスを崩したゾンボルは、その場に尻もちをついてしまう。

死霊鎧は両手の斧を頭上に振り上げると、足元のゾンボルを見下ろした。

「ひっ!」

ゾンボルは目前に迫った死の恐怖に、引きつった悲鳴をあげる。

「ダメーッ!」

おキクが咄嗟にスキルで突っ込んだ。まるで吸い込まれるように、心臓の杭を刺し貫く。

「あわわ…台無しだー」

アイは口元に手を当てると、震える声で呟いた。

   ~~~

死霊鎧の全身にピシピシと亀裂が入り、バラバラと音を立てて崩れ落ちていく。

「み、皆んな、逃げてー!」

おキクは振り返りながら声を限りに叫んだ。そして咄嗟に「装備解除リリース」を宣言する。

ターニャはゾンボルを抱き起こそうとするが、ゾンボルはフルフルと首を横に振った。

「こ、腰が…抜けたでゴザル」

「さっきの威勢は何だったんだよ!」

ターニャは羽交い締めの体勢で、ゾンボルを無理矢理引きずって後退するが、こんなペースでは到底逃げ切れない。

崩れ去った死霊鎧の欠片の上に、真っ暗な闇がユラユラと揺らめいている。それからゆっくりと収縮を始めると、突然おキクに襲いかかった。

「きゃっ!」

おキクの全身が闇に包まれる。

「おキクー!」

アイが悲鳴のような声で叫んだ。

次の瞬間、おキクの身体が金色の光に包まれると、パンと弾けるように闇が消え去っていく。

「……え?」

当の本人であるおキク自身が、口をポカンと開けて唖然としている。

「………」

状況の処理が追いつかず、全員が無表情でおキクを見つめていた。

「月の魔力を検知。浄化魔法と同系統の魔力です」

ミーコの冷静な声が、洞窟内に反響する。

「あ、月の雫ムーンティア…」

おキクは自分の右手首に付けているアミュレットを見つめた。金色の輝きが失われてしまっている。

「さ、流石は聖遺物…だね」

おキクは頬をポリポリと掻きながら「アハハ」と笑った。

「おキク、良かったー」
「おキクさん、次は許さないですからね!」

アイとフランが涙を撒き散らせながら、同時におキクに抱きつく。

「ごめんね、ふたりとも」

おキクはふたりの背中に自分の腕を回した。

「コイツら…反則すぎるだろ」

ターニャは呆れて、開いた口が塞がらない。

「良かったでゴザルー」

ゾンボルも釣られて、滝のように涙を流していた。

「感動的なシーンのところ申し訳ないのですが…」

ミーコが事務的な声で全員の顔を見回す。

「入り口付近に魔物を検知。装甲猪です」
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