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第3章(続き)
斬岩刀を持つ漢 5
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アイたちは洞窟目掛けて駆け出した。その後ろ姿に向けて、7体の甲殻猪が一斉に突撃を開始する。
ターニャは最後尾を走りながら、急いで「剛雷」を唱えた。それからチラリと後方の様子を伺う。
すると最初の1体が、既に真後ろに迫っていた。
「うおっ!?」
ターニャはお尻に突き刺さる寸前で、牙の刺突をギリギリ躱す。そのまま横並びになった瞬間に、両指を組んで脳天から叩き付けた。
「ブガッ!」
甲殻猪は砕けた甲殻を撒き散らして、その場にベシャッとひしゃげる。しかし撃破には至らない。頭をブルルッと振って立ち上がると、再び獲物を追って駆け出し始めた。
最初に洞窟にたどり着いたアイは、先頭を走る甲殻猪に向かって短銃を連射する。しかし、何発撃ち込んでも撃破出来ない。
「なんで?全然倒せない!」
アイは訳も分からず、思わず声を荒げた。
「現在のアイでは、甲殻を破壊するのみで貫けません。同じ場所に弾丸を撃ち込まない限り、撃破は出来ません」
セーレーの冷静な分析が、アイの鼓膜に響く。
「そんなー」
成長の手応えを感じた矢先の急転落である。アイはガックシと肩を落とした。
「バカ!ボサッとすんな」
追いついたターニャがアイの腰に左腕を回すと、そのまま左肩に担ぎ上げる。そうして洞窟に飛び込んだ瞬間、甲殻猪が猛烈な勢いでアイの鼻先を掠めていった。
「ひゃっ!?」
アイは反射的に背中を仰け反らせながら、小さく悲鳴をあげる。
最初の3体は洞窟の前を通過していくだけであったが、4体目からは洞窟の中に飛び込んできた。
未だターニャの肩に担がれているアイの目前に、甲殻猪の姿が迫る。
「ターニャさん、まだ来る!」
アイが切羽詰まった声で叫んだ。
「ターニャ殿ぉぉおお!」
そのときゾンボルが、ターニャとすれ違うように大剣を突き出した。ターニャの真後ろに迫っていた甲殻猪に、まるでカウンターのように突き刺さる。その一撃で甲殻猪は影と化し消滅した。
「や、やったでゴザル…どわっ!」
喜んだのも束の間、その後ろに続いていた甲殻猪に撥ね飛ばされ、ゾンボルが盛大に吹っ飛んでいく。
大剣を前に突き出していたお陰で、牙による刺突は偶然避けらたが、そのまま洞窟の天井で跳ね返り地面に叩きつけられた。
「あのバカ!」
ターニャはうつ伏せでピクピクと痙攣するゾンボルに一瞬視線を向けるが、今はそれどころではない。アイのことを半ば放り出すように下ろすと、後続の甲殻猪の方に向き直った。
洞窟の広さは3m程の空間である。一斉に甲殻猪に囲まれる心配はない。
「フォロー頼む!」
ターニャは次々来る甲殻猪の横っ面を殴りつけ、洞窟の壁に叩きつけた。ふらふらとヨロケる甲殻猪が体勢を整える前に、アイとおキクが透かさずトドメを刺していく。
ターニャの一撃で甲殻が弾け飛んでいるため、アイにも充分トドメが刺せた。撃破には、3発の弾丸を必要とした。
結局、アイとおキクで4体、ターニャが2体、ゾンボルが1体倒して決着となった。
そしてフランは、倒れるゾンボルに癒しの魔法を唱えていた。
~~~
ゾンボルの治療ついでにアイたちも一休みしていると、ミーコがヒョイとおキクの肩に飛び乗った。
「魔物を検知。洞窟の奥です」
ミーコが洞窟の先をジッと見つめる。まるでミーコの視線に誘われるように、全員が洞窟の奥に顔を向けた。
この洞窟は、奥に向かってドンドンと下りる下り坂になっている。陽の光の届かない洞窟の中は、まるで地獄に向かう一本道のようであった。
「イヤな感じだが、行くしかねーよな」
ターニャが憂鬱そうな表情で、頭の後ろをポリポリと掻く。するとその時、ゾンボルが勢いよくガバッと起き上がった。
「はっ!某は一体…」
ゾンボルが焦ったように、辺りをキョロキョロと見回す。その様子を確認すると、ターニャがゆっくりと立ち上がった。
「んじゃ、そろそろ行きますか」
一同は洞窟内を奥へ奥へと進んでいく。ここまで来ると陽の光はほとんど届かず、目の前さえも全く見えない。
「がっ!」
ゴンという鈍い音と共に、ゾンボルの呻き声が洞窟内に反響した。壁から迫り出していた岩石に、モロに鼻の頭をぶつけたようである。
「暗過ぎて、さすがに無理でゴザル!」
ゾンボルは鼻の頭をさすりながら、涙目で訴えた。
「参ったな。こんなつもりじゃなかったから、何の用意もしてないぞ」
ターニャもお手上げ状態で、困った声を出す。
「了解しました。発光モードに移ります」
そのときミーコの声が響くと、辺りがフワッと明るく照らされた。
全員が驚いて光源の方に視線を向けると、ミーコの身体が白く発光している。
「ミーコ、そんなこと出来たの?」
おキクが思わず驚嘆の声をあげた。
「この猫、一体全体何でゴザルか?」
ゾンボルはザザッと後退って、引きつった顔で壁に張り付く。
「お前よりは、よっぽど頼りになるよ」
ターニャは「ニシシ」と、意地悪い笑顔をゾンボルに向けた。
ターニャは最後尾を走りながら、急いで「剛雷」を唱えた。それからチラリと後方の様子を伺う。
すると最初の1体が、既に真後ろに迫っていた。
「うおっ!?」
ターニャはお尻に突き刺さる寸前で、牙の刺突をギリギリ躱す。そのまま横並びになった瞬間に、両指を組んで脳天から叩き付けた。
「ブガッ!」
甲殻猪は砕けた甲殻を撒き散らして、その場にベシャッとひしゃげる。しかし撃破には至らない。頭をブルルッと振って立ち上がると、再び獲物を追って駆け出し始めた。
最初に洞窟にたどり着いたアイは、先頭を走る甲殻猪に向かって短銃を連射する。しかし、何発撃ち込んでも撃破出来ない。
「なんで?全然倒せない!」
アイは訳も分からず、思わず声を荒げた。
「現在のアイでは、甲殻を破壊するのみで貫けません。同じ場所に弾丸を撃ち込まない限り、撃破は出来ません」
セーレーの冷静な分析が、アイの鼓膜に響く。
「そんなー」
成長の手応えを感じた矢先の急転落である。アイはガックシと肩を落とした。
「バカ!ボサッとすんな」
追いついたターニャがアイの腰に左腕を回すと、そのまま左肩に担ぎ上げる。そうして洞窟に飛び込んだ瞬間、甲殻猪が猛烈な勢いでアイの鼻先を掠めていった。
「ひゃっ!?」
アイは反射的に背中を仰け反らせながら、小さく悲鳴をあげる。
最初の3体は洞窟の前を通過していくだけであったが、4体目からは洞窟の中に飛び込んできた。
未だターニャの肩に担がれているアイの目前に、甲殻猪の姿が迫る。
「ターニャさん、まだ来る!」
アイが切羽詰まった声で叫んだ。
「ターニャ殿ぉぉおお!」
そのときゾンボルが、ターニャとすれ違うように大剣を突き出した。ターニャの真後ろに迫っていた甲殻猪に、まるでカウンターのように突き刺さる。その一撃で甲殻猪は影と化し消滅した。
「や、やったでゴザル…どわっ!」
喜んだのも束の間、その後ろに続いていた甲殻猪に撥ね飛ばされ、ゾンボルが盛大に吹っ飛んでいく。
大剣を前に突き出していたお陰で、牙による刺突は偶然避けらたが、そのまま洞窟の天井で跳ね返り地面に叩きつけられた。
「あのバカ!」
ターニャはうつ伏せでピクピクと痙攣するゾンボルに一瞬視線を向けるが、今はそれどころではない。アイのことを半ば放り出すように下ろすと、後続の甲殻猪の方に向き直った。
洞窟の広さは3m程の空間である。一斉に甲殻猪に囲まれる心配はない。
「フォロー頼む!」
ターニャは次々来る甲殻猪の横っ面を殴りつけ、洞窟の壁に叩きつけた。ふらふらとヨロケる甲殻猪が体勢を整える前に、アイとおキクが透かさずトドメを刺していく。
ターニャの一撃で甲殻が弾け飛んでいるため、アイにも充分トドメが刺せた。撃破には、3発の弾丸を必要とした。
結局、アイとおキクで4体、ターニャが2体、ゾンボルが1体倒して決着となった。
そしてフランは、倒れるゾンボルに癒しの魔法を唱えていた。
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ゾンボルの治療ついでにアイたちも一休みしていると、ミーコがヒョイとおキクの肩に飛び乗った。
「魔物を検知。洞窟の奥です」
ミーコが洞窟の先をジッと見つめる。まるでミーコの視線に誘われるように、全員が洞窟の奥に顔を向けた。
この洞窟は、奥に向かってドンドンと下りる下り坂になっている。陽の光の届かない洞窟の中は、まるで地獄に向かう一本道のようであった。
「イヤな感じだが、行くしかねーよな」
ターニャが憂鬱そうな表情で、頭の後ろをポリポリと掻く。するとその時、ゾンボルが勢いよくガバッと起き上がった。
「はっ!某は一体…」
ゾンボルが焦ったように、辺りをキョロキョロと見回す。その様子を確認すると、ターニャがゆっくりと立ち上がった。
「んじゃ、そろそろ行きますか」
一同は洞窟内を奥へ奥へと進んでいく。ここまで来ると陽の光はほとんど届かず、目の前さえも全く見えない。
「がっ!」
ゴンという鈍い音と共に、ゾンボルの呻き声が洞窟内に反響した。壁から迫り出していた岩石に、モロに鼻の頭をぶつけたようである。
「暗過ぎて、さすがに無理でゴザル!」
ゾンボルは鼻の頭をさすりながら、涙目で訴えた。
「参ったな。こんなつもりじゃなかったから、何の用意もしてないぞ」
ターニャもお手上げ状態で、困った声を出す。
「了解しました。発光モードに移ります」
そのときミーコの声が響くと、辺りがフワッと明るく照らされた。
全員が驚いて光源の方に視線を向けると、ミーコの身体が白く発光している。
「ミーコ、そんなこと出来たの?」
おキクが思わず驚嘆の声をあげた。
「この猫、一体全体何でゴザルか?」
ゾンボルはザザッと後退って、引きつった顔で壁に張り付く。
「お前よりは、よっぽど頼りになるよ」
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