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第3章(続き)

斬岩刀を持つ漢 1

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黒地竜との激闘を繰り広げた翌朝、アイたちがエリサの元に訪れると、ターニャとエリサが会話をしていた。

「おはようございます」

フランが代表でふたりに挨拶をする。

「よお!」

「あ、おはようございます」

ターニャとエリサが挨拶を返した。

「身体は何ともないか?」

少し心配そうにターニャが3人の様子を伺う。

「大丈夫、何ともない」

アイが両腕で「力こぶ」を作りながら、満面の笑顔で答えた。

「改めて礼を言っとく。アリガトな」

そんなアイの素ぶりを見て、ターニャが口を大きく開けて笑った。チャームポイントの白い八重歯がキラリと輝く。

「そんな、お礼だなんて…」
「ターニャ殿ぉぉおお!」

そのとき、おキクの言葉をかき消すように、詰所のロビーに男性の声が響き渡った。

ロビーにいた全員が、詰所の入り口に現れた男に何事かと注目する。

「この声は…」

ターニャはうな垂れるように俯き、眉間を右指でそっとつまんだ。

男の身長はおキクと同じくらいだが、ふっくらしたお腹の、丸めのオッサンであった。ボサボサに跳ねた黒髪は肩口まで伸びている。黒色の細い目と鼻の下に生えたハの字形のちょび髭。紺色の小袖に白い袴、裏地に鉄糸が編み込まれた赤い羽織を上から羽織っていた。

「何故、某を連れて行ってくださらなかったでゴザルか!」

男はアイたちのことなど気にも留めず、一直線にターニャに詰め寄っていく。

「黒地竜など某の愛刀『斬岩刀』で、一刀のもとに斬り倒してみせたでゴザルに!」

言いながら男は背中に背負っている、自身の身長を超える程の大剣バスターソードの柄を、右手の親指でトンと突いた。

「あー、すまなかったな、ゾンボル」

ターニャはゾンボルの気迫に気圧されながら、しかしどこか棒読みな感じで謝る。

「お前の姿を見つけることが出来なかったもんで仕方なくな」

「くっ…確かに。先日某は、噂の聞き込みのためにタルノ市にいてた故…」

「あのー…」

おキクがおそるおそる口を挟んだ。

「おや?誰でゴザルか、この少女たちは?」

ゾンボルが、初めて気が付いたかのように、おキクたちに目を向けた。

「ゾンボルさん、こちらがターニャさんと共に黒地竜を討伐した皆さんですよ」

エリサが少しムッとした表情で紹介する。

「ああ、C級の…」

ゾンボルが見下すような視線を向けた。

「某は冒険者のゾンボルでゴザル。ターニャ殿の右腕と言っても過言ではない漢でゴザル」

「そんなこと、認めた覚えはねーがな」

ターニャが「けっ」とソッポを向く。

(そういう感じの人なのね…)

おキクは残念そうにゾンボルを見た。

「あーこういう人、いるいる」

アイは包み隠さず「アハハ」と笑った。

   ~~~

「で、何しに来たんだよ?」

ターニャは面倒臭そうに、ゾンボルの顔を見た。

「それはもちろん、誰がターニャ殿の右腕に相応しいか、そこのC級に思い知らせに来たでゴザルよ」

「はあ?」

ターニャが心底嫌そうな表情になる。

「面白そう!どんな勝負をするの?」

しかしアイが、その話に食い付いた。

「オモシ…」

ゾンボルは「コホン」と咳払いをする。

「実は昨夜のうちに、軍がヨーケバ城跡に簡易拠点を築いたでゴザル。そこで情報収集してから、次のことは考えるでゴザル」

「アバウトな話だなー」

ターニャが肩を落としてゲンナリした。

「いーよ、やろーやろー!」

アイは完全に楽しんでいる。

おキクとフランは思わず顔を見合わせると「ま、いっか」と笑い合った。
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